Electricity Pylons

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とりあえず、掲題のとおり、日本で話題となった日経関連のスマートグリッドの記事を振り返り、「スマートグリッドとは何か」について検討してみたいと思います。

以下は、今年4月の記事です。この記事の後ろに、スマートグリッドに関して思うことを列挙します。

※ 強調のため、太字、文字色を緑にさせていただいている部分があります。
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スマートグリッド――賢い送電網、「環境」の主役に(NewsEdge)
2009/04/07, 日経産業新聞
【記事本文】
グーグル参入、ソフト開発  蓄電施設と連携 自然エネルギー導入を促す 
次世代の送電網「スマートグリッド」が環境ビジネスの主役に躍り出ようとしている。発電施設と企業や家庭を通信で結び、さらに蓄電施設と連携して、最適な電力供給体制を築く試み。オバマ政権は環境・エネルギー対策の一環として百十億ドル(約一兆一千億円)を送電網に投入する。風力や太陽光などグリーン電力の導入の促進にもつながるこの仕組みは、ネットがIT産業を変えたように、環境・エネルギー産業を転換させる可能性を持つ。
世界で最も広告料金が高いといわれる「スーパーボウル」のテレビ中継。今年二月一日、ゼネラル・エレクトリック(GE)はこの広告枠を消費者に直結する製品ではなく、スマートグリッドのイメージ広告にあてた。
 オズの魔法使いに登場するキャラクターが、送電線の上で「もしも、頭脳が有ったなら」と歌い、光がさす街へ歩いて行く。「賢い送電網=スマートグリッド」が明るい未来を支えると暗示した。
スマートグリッドは、送電網に組み込んだ通信・制御システムが、電力需給が最適になるように発電量だけでなく電力需要も調整する仕組みだ。
例えば、夏の暑い時間帯。同時に多くの家や工場、オフィスが一斉にエアコンを付けたら、たちまち電力需要は跳ね上がる。従来型の送電網では、需要に合わせて、火力発電量を増やすしかない。夏のわずかな時期のためだけに、保守コストのかかる発電所を維持するのは効率が悪い。
スマートグリッドでは電力需給が逼迫(ひっぱく)しているとの情報があると、蓄電施設を活用し、送電できる電力量を調整する。刻々と変化する電力需要や発電量に対応して、蓄電と送電を効率的に繰り返すには、スマートグリッドというインフラが欠かせない
蓄電施設を整備していなくても、電力需要の抑制でバランスをとる。もちろん一部の地域を停電にするのではなく、エアコンをセ氏二五度に設定しても、二八度程度にしか冷えなくするなどの手法で対応する。
環境性に優れた自然エネルギーの普及にも有効だ。風力や太陽光は自然条件によって発電量が刻々と変化する。この“不安定”な電源を大量に導入するには、火力発電所のほか、需要家側や蓄電施設と迅速に連携する必要があるからだ。
オバマ政権は景気対策法のなかで「グリーン・ニューディール」と呼ばれる環境・エネルギー対策を実施すると発表。環境分野への投資と減税あわせて五百八十億ドル規模の対策になるが、このうち、百十億ドルはスマートグリッドを中心とした送電関連の投資が占めている。
実用化に向けた動きも始まろうとしている。マラソンの高地トレーニングの街として知られるコロラド州ボールダー。中西部の電力大手、エクセルエナジーはこの地に世界初とされる「スマートグリッドシティー」を設置。地域内にある四つの変電所に需給バランスを調整をする機器を設け、七月から試験運転を始める。風力や太陽光などの自然エネルギーの利用を優先するシステムの実証を進め、ノウハウの蓄積をはかる。
異業種から参入
異業種からの参入も始まった。インターネットの検索サイト最大手、グーグルだ。家庭での電力利用量を計測できるソフトウエア「グーグルパワーメーター」の開発・普及を目指している。家電が使っている電力使用量をパソコンなどを使って簡単に調べることができるシステムで、使用量のメーターの画面を見ながら、電力料金が安い時間帯に家電が動くように設定するなどの操作が出来る。家庭内の電力使用の無駄の削減につながり、光熱費の引き下げにつながるとみている。
日本企業も始動
日本企業もビジネスチャンスとみて、動き始めた。日立製作所はスマートグリッドを整備するのに必要な装置として、産業用蓄電池や発電量を容易に変更できる揚水発電技術などに着目。米国向け営業を強化する。また、日本風力開発はスマートグリッドの実証を始めるエクセルエナジーに対し、風力発電の送電量を蓄電池で調節する技術を提供することで合意した。
国内では、関西電力が大阪府豊中市などで昨年から通信回線を備えた電力メーターの設置を開始した。当面は専門の要員が必要だった検針の自動化に使うだけだが、電力中央研究所の栗原郁夫システム技術研究所長は「インターネットがその後の通信の世界を一変させたように、スマートグリッドがエネルギーの常識を一変させる可能性もある」と指摘する。
もっとも日本の電力会社自体はスマートグリッドの普及に積極的ではない。電気事業連合会は「日本では信頼度の高い電力供給システムを既に構築している」としており、日本でスマートグリッド関連の商機が発生するのは、まだ先になりそうだ。
化石燃料が確実に枯渇に向かうなか、その有効利用と自然エネルギーの導入拡大は不可欠な課題だ。スマートグリッドの普及は、単なる足元の景気浮揚策にとどまらず、昨年までの原油高騰を経験した後のエネルギー利用のあり方を転換する契機になる可能性もある。
(宇野沢晋一郎)
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  • 次世代の送電網、賢い送電網 : 送電網だけ?

キャッチフレーズとしてはいいですが、再生可能エネルギーを含めた発電と、送電網・配電網、需要家側の積極的な参加が三位一体となって初めて「スマートグリッド」と呼べるのではないかと思います。

  • 風力や太陽光などグリーン電力の導入の促進にもつながる仕組み

現状の系統制御では、送電網に流入する風力発電もそうですが、将来全家庭で太陽光発電が行われ未使用分の電力が配電網に大量に逆流入した場合、立ち行かなくなることが予想されています。
その意味で、スマートグリッドは「グリーン電力の導入の促進にもつながる仕組み」ではなく、「グリーン電力の導入の促進には不可欠な仕組み」と捉えるべきだと思います。

  • ネットがIT産業を変えたように、環境・エネルギー産業を転換させる可能性

これは、正にそのとおりだと思います。
電気は、「生産即消費」の商品であるにもかかわらず、従来は需要地からはるかに離れた場所で発電し、その際発生する熱損失と送変電ロスを伴いながら消費者に届けられていました。スマートグリッドには、熱電併給でき送電ロスも少ない「地産地消」をベースとした環境にもやさしいビジネスモデルにエネルギー産業が移行する可能性が秘められていると思います。
参考URL:全米で増加しつつある「ゼロ・エネルギー住宅」

  • 発電量だけでなく電力需要も調整する仕組み

これも大事なポイントであると思います。従来の電力系統制御では、需要家側にあまり期待していなかったのではないでしょうか?「お客様は神様」ということで、「需要家が瞬時瞬時欲した分量の電気を如何にタイムリーに安定供給するかが電力会社の使命」という考え方だったのはないかと思います。
それに対して、スマートグリッドでは、「電気を使う上で、客と一緒になって全体最適を目指す」という意味で、ベンダー・バイヤー企業間をまたがった最近のサプライチェーンマネジメントに通じるものがあるのではないでしょうか?

  • 蓄電と送電を効率的に繰り返すには、スマートグリッドというインフラが欠かせない

これは、例えばSMESによる電力系統安定化など、スマートグリッド以前の電力系統安定化技術の気がしますが。。。まあ、広く考えれば、スマートグリッドなのでしょうか?

  • 蓄電施設を整備していなくても、電力需要の抑制でバランスをとる。もちろん一部の地域を停電にするのではなく、・・・

こちらが、スマートグリッドの真骨頂ではないでしょうか?

現在の電力系統制御では、電力システム全体の利益を考えて、最悪の場合は、一部の地域を停電にすることで、孤立化させ被害が計全体に及ばないようにするというコンセプトではないかと思います。

Gridwiseなどで考えられているスマートグリッドの最終形は、エージェント指向による自律協調分散型のマイクログリッドの集合体で、各マイクログリッドのエージェント達がリアルタイム市場などを通して過不足分の電力を調達・融通し、問題の発生したマイクログリッド地域だけ隔離・停電させることなく、電力システム全体の安全も脅かされないような絵姿が見受けられます。(私の期待しすぎかもしれませんが。。。)

参考URL:http://www.sessionview.com/data/postevent/GI-07/Paul-Hines-25822984.pdf

  • 関西電力が大阪府豊中市などで昨年から通信回線を備えた電力メーターの設置を開始した。当面は専門の要員が必要だった検針の自動化に使うだけ

欧米で『今はやり』のスマートメーター化ですが、自動検針化するだけでは投資対効果が出ないといわれています。スマートメーターを「スマートグリッドを構成するスマートな装置の1つ」と捉え、スマートグリッドの枠組みの中でスマートメーターの果たすべき役割は何かを考える必要があると思います。単に需要家の使用する電力量を遠隔検針するためばかりでなく、太陽光発電の余剰電力の「売電」など、需要家が電力供給側に回った場合の「売り電力量」もあわせて遠隔検針する『ネットメータリング』や、『デマンドレスポンス』と呼ばれる需要家の積極的な電力需給調整への参画を可能とするものとして導入すべきだと考えます。更には、各家庭が太陽光発電などで使用したグリーン電力の量を計測し、グリーン電力証書売買システムにも利用できるようにするなど、将来を見据えた取り組みを行わないと、せっかく導入しようとしているメーターと自動検針の仕組みがソックリ無駄になってしまわないか、気になるところです。

  • 日本では信頼度の高い電力供給システムを既に構築している

日本の電力供給の信頼度と電力品質の高さは世界に類を見ないものであることは確かです。そして、欧米でのスマートグリッド導入促進の理由の1つとして、現在の電力供給システムの信頼度が高くないことも確かです。

ただ、日本における電力品質の高さ、電力供給の信頼性の高さは、風力発電や、太陽光発電など、出力が不安定な電源の電力系統への流入量が全系統電力の20%以内で初めて成立するものと聞いています。スマートグリッドが、将来送電網、配電網に大量の再生可能エネルギーが流入しても、なお電力品質およびグリッドとしての信頼性を保証しようとするものであるならば、日本もスマートグリッドを無視できないのではないでしょうか。