2010年3月29日発刊された電気新聞ブックス-エネルギー新書の「スマートグリッド」の紹介の続編です。
今回は、本書を読んだ所感を、最近、スマートグリッドに関して思っていることとあわせて、章・節ごとに書かせいただきます。

第1章:スマートグリッドブームについて

「スマートグリッドブーム」という1章のタイトルに、少し否定的なニュアンスを感じたのですが、特別対談での『2、3年先には情報通信技術を駆使したバラ色の世界が広がるような幻想を抱きがちだが、電力品質と安全を確保しながら新たな電気設備を導入するには10年かかる。電気事業制度の変更を含め、腰を落ち着けて議論していく必要がある』というような表現を見て、これか!と思いました。主役は、ITではなくて、あくまで電力系統。ブームや、そこで語られるIT寄りのキーワードに惑わされてはいけない。また、政府が、(財源の裏付けもなく聞こえの良い政策をぶち上げているのと同様)技術的な裏付けもなく?打ち出している太陽光発電大量導入施策に関しても、技術的観点に立ち、経済合理性のもとに日本型スマートグリッドとしての落としどころを考えたい - というのが、本書のメインテーマだと感じました。

第1章:「賢い電力系統」について

この表現は、第1章のさわりの部分に何気なく書かれていますが、本書を読み通してみて、横山先生のスマートグリッドに関する思いでもあると感じました。

  • 「スマートグリッドとは、簡単に言うと次世代送電網 のことだ」というような説明をされることが多いが、決して送電網だけを賢くするわけではなく、配電網を含めた電力系統の最適運用を目指すものである
  • 電信柱と電柱が混同されるように、「送電網=電気を送るネットワーク」という感覚で使われがちだが、日本型スマートグリッドを考える上で送電線と配電線の違いを認識する必要がある
  • スマートグリッドを、本来の電気エネルギー供給システムの観点から理解して欲しい

という流れで、2章の、「電気の基本」に立ち返った説明に繋がっているようです

第2章:現在の電力系統について

2章のタイトルは「スマートグリッドを定義する」ですが、2章49ページ中、21ページが、スマートグリッドを理解する上で必要な電気の基礎から電力系統運用までの説明と、太陽光発電が大量導入されると何が問題なのか(政府が掲げている太陽光発電大量導入目標の無理さ加減を理解できるだけの知識習得)に費やされています。これまで電気の知識をあまり持ち合わせていない、あるいは、もう忘れてしまったという方にとって、スマートグリッドをより深く理解する上で、非常に常に良くわかる展開になっています。
※補足:日本と欧州の周波数基準が紹介されていましたが、NERCの資料によると、米国では、東部系統が60±0.05Hz、西部系統が60±0.144Hz、テキサス(ERCOT)が60±0.068Hzです。また、イギリスの周波数基準はゆるくて50±0.5Hzのようです。

第2章:送電ネットワーク・配電ネットワークでの監視・制御システムについて

「日本ではこうした機能は系統自動化とか配電自動化などと呼ばれ、すでに導入されています」ということですが、米国や中国が目指しているPMU(電圧位相測定ユニット)を用いた広域ネットワーク監視・制御(と、今後出てくるであろう、リアルタイム・ビジネスインテリジェンスをベースとしたネットワーク異常兆候検知時のリアルタイムシミュレーション、および、シミュレーション結果を利用したネットワーク異常に陥る前に正常範囲に戻す制御システム)相当のことができるのか、気にかかっています。まったくの門外漢なのですが、現在の系統監視・制御に使われているSCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)では秒単位以下のリアルタイム制御はできないと聞いています。

下図は、米国RTOのPJMの資料で、PMUを用いた今後のネットワーク監視・制御アプリケーションが示されています。

第2章:分散型電源の管理について

ひところ、分散型電源というと、ディーゼルエンジやガスコジェネを指していたと思うのですが、ここでは、住宅に設置された出力変動の激しい太陽光発電・風力発電をどう管理するかという課題が述べられています。1つ疑問に思ったことがあります。
分散電源には、ディーゼルエンジンやガスコジェネのグループ、太陽光発電・風力発電のような再生可能エネルギーのグループの他に、燃料電池(例えばエネファーム)があると思うのですが、本書では燃料電池に関して言及されていません。
積水ハウスのニュースリリースによると、大阪ガスと積水ハウスは、平成21年度経済産業省委託事業である「スマートハウス実証プロジェクト」の一環で、燃料電池・太陽電池・蓄電池を組み合わせたスマートハウスの実証実験を実施しており、その具体的な取組みの1つとして、「スマートグリッド/スマートエネルギーネットワークを想定した技術実証」があげられています。いわく、『天候により出力が不安定な太陽電池が、戸建住宅へ大量に導入された際に懸念されている電力の需給バランスの崩れを抑制するため、太陽電池の発電量が減少した場合には、燃料電池の発電量を増やし、蓄電池から放電するなどの制御を行い、電力系統へ流れる電力量の安定化を図ります。その際に燃料電池から発生する熱も無駄にすることなく住宅内で有効に活用します。
また、スマートグリッドなど地域全体での電力供給の不足や余剰が発生した場合を想定し、戸建住宅における燃料電池の発電量の増減制御や蓄電池の充放電制御により、影響の緩和を図る実証も行います。』

ということですので、将来的には、住宅に設置された分散電源の管理については心配する必要はないかもしれません。個々の住宅のEMS(エネルギー管理システム)が蓄電池と燃料電池、太陽光パネルをインテリジェントに制御し、余剰電力についてはスマートグリッド側のシステム(例えばVPP、あるいは、小売電力取引所経由での余剰電力売買システム)とインタフェースすることで、出力変動を気にせず一般家庭からも電力調達できる時代が来るのではないでしょうか。

第2章:スマートメーターについて

GTMリサーチのレポートでは、AMI(Advanced Metering Infrastructure)がスマートグリッドの礎と指摘していますが、特別対談で、横山先生は、必ずしもスマートメーターでなくても良いとおっしゃっています。
確かに、例えば米国アラバマ州の電力会社:ガルフパワー社は、2000年からGoodCents Selectという、いわゆるデマンドレスポンスのサービスを開始していますが、そこでは、MainGateと呼ばれる双方向通信装置経由でエアコンなどの遠隔制御をするついでに?電力計の電力使用量も送信しているようです。
スマートメーターを経由するかどうかは別として、家電機器の遠隔制御プロトコルの国際標準化で日本がイニシアチブをとれるかどうかは非常に大事だと思っています。その意味で、「意外と先を行っている日本のスマートグリッド関連標準規格動向」でお知らせした東京大学の江崎教授には、陰ながら非常に期待しています。

第2章:デマンドレスポンスについて

1989-1993年の、九州電力供給エリアで行われたデマンドサイドマネジメント(DSM)実験が紹介されていますが、10年以上前に日本では電力会社が通信線を通してエアコンのスイッチを遠隔制御する実験をしていたというのは画期的だと思います。実験結果としてピーク電力が4~5%節減できたということですので、昨年の東京電力の最大電力でみると、柏崎刈羽原子力発電所7基の発電機のうち2基分に相当します。すごい結果だと思うのですが、もともと電力会社に協力的でエネルギー節約意識の高い人たちでの実験結果であり、かつ、暑さに耐え切れずに途中で遠隔制御を解除してエアコンのスイッチを入れてしまう家庭や事業所が全体の15~35%もあったことから、日本では、このような仕組みは馴染まないだろうという結論になったようです。
特別対談の中で、横山先生も「日本の場合、家庭内の機器を制御しても節約量はあまり変わらないかもしれない」という懸念を示されていますが、それに対してIBMの池田氏は、「日本でも実現の余地はある」としています。さて、どうなることか。
一方、「需要抑制」の仕組みとしてではなく、太陽光発電の余剰電力による逆潮流緩和策として「需要促進」するような需要側の制御もデマンドレスポンスと考えるなら、日本でも必要だという考えが5章の中で述べられています。

第3章:欧州諸国のスマートメーターの導入について

表2 「欧州諸国のスマートメーターの導入」に関連して、BERG INSIGHT : Smart Metering and Wireless M2Mに、これより新しいと思われる情報がありましたので、一部紹介します:

  • アイルランド:5億ユーロを投資して2013年までに全家庭をスマートメーター化予定
  • イタリア-エネル社 21億ユーロの投資で、2001~2006年で約3000万台の機械式メーターをスマートメーターに入れ替え遠隔検針を実施
  • オランダ:Oxxio、Buon、Essent社合計で20万世帯以上遠隔検針実施
  • スウェーデン:2009年7月までに520万世帯すべてにスマートメーター導入終了し遠隔検針開始
  • スペイン:Endesa社が5万台のメータリング地点でパイロットテスト実施、2010年から本格導入予定。Iberdrola社も2018年までに1000万世帯をスマートメーター化する計画
  • デンマーク:2008年8月時点で37%のスマートメーター化完了
  • ドイツ:RWE社が2008-2011年、10万台のスマートメーターによるパイロットテスト決定(2008年7月現在1500台設置)
  • フィンランド:2008年8月時点で32%のスマートメーター化完了。2010年までに50%遠隔検針に移行予定
  • フランス-EDF社:2010-2011年、ツール(Tours:パリの近くで、フランス北部)とリヨン(Lyon:フランス南部)で合計30万世帯のPLCメーターと7000台のデータ集約機器を使ったフルスケールのパイロットテスト。その後、2012年から2017年の5年間で3500万世帯にスマートメーター設置、70万台のデータ集約機器設置予定

第3章:欧州送電ネットワークの規模のメリットについて

「電力ネットワークが大きいほど分散型電源や風力発電の出力変動もネットワークで吸収される」という恩恵を享受している国にデンマークがあります。機械経済研究NO.39によると、デンマークの風力発電による国内の電力供給量はすでに20%で、2025年までに風力発電比率を50%にする目標とのこと。国全体の電力需要規模が小さいから許されることなのでしょうが、その出力変動に備えて予備電源を自国ですべて用意するのではなく、ノルウェー、スウェーデン、ドイツの国際連系線経由で市場調達するようです。

第4章:米国のスマートグリッド関連投資について

米国では、オバマ大統領がスマートグリッドをフーバーダム建設以来の大型雇用創出ツールと位置づけているおかげもあってDOEがスマートグリッド関連事業に補助金を出し、それに呼応して頭角を現してきたベンチャー企業に更にベンチャーキャピタルが集まるという好循環ができているようです。「民間資金を含めると総額81億ドルがスマートグリッドに投資されている」というのは、円換算してみると、日本のスマートグリッド関連への投資規模より、少なくとも一桁投資額が大きいですね。

第4章:米国のスマートグリッド関連産業の分類と位置づけについて

ブログで紹介したGTMリサーチ社のスマートグリッド分類図を用いたスマートグリッド市場別主要参入企業の絵が本書で紹介されています。この分類図は、企業同士の位置づけ(競合関係、相互股間関係、依存関係など)を把握するためにも非常に便利です。
下図は、本書にある日本語に翻訳された版ではなく、GTMリサーチ社のレポートにあった、元のスマートグリッド関連企業マップです。

第4章:スマートグリッドに関するグーグルのスタンスについて

本書では、各地のスマートグリッドプロジェクトの紹介の一環で①グーグルパワーメーターとともに、②パワーメーターに関連して電力会社10社と提携したこと、③スマートメーター機器本体から、AMI/MDMまで幅広く手がけているアイトロン社とも提携したこと、④米国上院にスマートグリッドに関して発言したことを紹介しています。特別対談の中で、グーグルがスマートグリッドに参画した狙いについて、電力使用量を把握して家庭や個人の行動を把握し、個人にカスタマイズした広告を打つビジネスを目論んでいるという「噂」に触れていますが、Clean Energy 2030を見ると、(当初は自分たちのサーバやデータセンターの電力消費削減が目的だったかもしれませんが)、次世代の環境・エネルギーを考えてのエネルギー分野進出であることがうかがえます。

第4章:米国のスマートグリッド推進体制について

上図は、2年前米国のスマートグリッド関連組織を調査した時のものですが、連邦政府、州政府から民間団体まで、政策と規制のあり方、ビジョン・運用モデル、システム統合、技術開発にわたって、すでに非常に多くの組織がスマートグリッドに関与していることが分かります。この外、本書で紹介されたDRSG、DRCC、GSGI以外にも、SmartGrid.govSmart Grid Interoperability Panel (SGIP)、OpenSG などなど、すべての動きを把握するのは大変ですが、最近は、Twitterの@SmartGridNewsを海外スマートグリッド動向を調べるトリガーとして、重宝しています。

第5章:世界に類を見ない高度な電力系統について

「第2章:送電ネットワーク・配電ネットワークでの監視・制御システムについて」のところですでにコメントしましたが、日本が世界中の電力系統と比べて現在最高水準にあったとしても、スマートグリッドが将来実現しようとするものが、それ以上のレベルであるならば、日本でも率先して取り組んで欲しいものです。

第5章:「マイクログリッド実証試験は終了」について

日本では「需要側の電力消費の制御以外、マイクログリッドで想定されるべき技術開発は終わっている」というのが、ここでの説明です。ところが、次の「太陽光発電で必要になるスマートグリッド」の節では、マイクログリッドの構成要素でもある太陽光発電や風力発電が大量導入されると「発電側だけで制御することは難しくなる」という説明があったので、マイクログリッドに関する技術開発は終わっていないということにならないか?と疑問に思ったのですが、161ページの「マイクログリッドも貢献できる可能性」の節を読んで疑問が解決しました。
『限られた地域内で、太陽光発電や小型のガスタービン発電、ガスエンジン発電により、その地域内の需要にあわせて電気を供給し、電力系統からはできるだけ一定の量の電気を受電、電力系統には影響を与えないようにするものです』というのが、本書でのマイクログリッドの定義ということで、納得しました。マイクログリッド内の電源だけでは需要を満たせず、足りない電力は系統連系で補うことを前提とした(すべて地産地消ではない、まして、余剰電力を系統側に戻すことは想定していない)マイクログリッドの技術開発は終わっているということですね。

第5章:「現段階では、太陽光発電は1000万キロワットが限界」について

経済産業省の研究会でまとめた「低炭素電力供給の構築に向けて」で、現在の設備では太陽光発電は1000万kWが限界とされています。にもかかわらず政府の太陽光発電導入目標は、1400万kW⇒2800万kW⇒5300万kWと増大の一途。横山先生の技術者としての懸念は深まるばかり-という感じが読んでいてヒシヒシと伝わってきます。
特別対談(246ページ)でも、日本は今後電力需要の伸びが見込めないので、太陽光発電の大量導入で「電気が余ったらどうしよう」というところに考えが集約してしまう。需要増に対してデマンドレスポンスなど需要側の制御で送配電設備投資を抑えようという米国流スマートグリッドの発想には至らない。本来は太陽光も蓄電池も最適な導入量があるはずで、太陽光を減らしてもいいという前提で議論しても良いのではないか-と本音が述べられています。
問題解決の糸口の1つは、太陽光発電の大量導入推進のため、通常の電気料金の2倍という余剰電力の固定買取価格の見直しにあると思います。料金制度として、系統電力販売料金だけでなく、太陽光発電の電力買取料金にもリアルタイム価格を適用し、通常買取価格は2倍、配電線に太陽光発電の逆潮流があふれ出したら買取価格をマイナスにする(資源ゴミは有料で買い取るけれども、粗大ゴミ回収にはコスト負担を求めるやり方)ような、メリハリの利いた価格設定/制度設計ができれば、系統側にたくさんの蓄電池を用意しなくとも、“経済合理性”が働き、問題を解決してくれるのではないでしょうか?政府のCO2削減目標達成にブレーキがかかるかもしれませんが。
また、家庭の主婦が、毎日太陽光発電の余剰電力買取価格を見張っていられないので、太陽光発電用のパワーコンディショナーあるいは家庭用EMSで、太陽光発電の制御を行えるようにする必要があると思いますが。

第5章:「配電ネットワークを昇圧する」について

ここでは、太陽光発電の出力変動の系統電力への影響緩和策として、配電線の電圧を欧州並みに上げることが提案されていますが、それより、「余剰電力を配電用変電所から上流の送電ネットワークに逆流させて、他の地域の配電ネットワークに送り消費してもらったりするという対策も検討すべきでしょう」という方に興味を持ちました。これこそが、情報ばかりでなく、電気も双方向に流れるスマートグリッドとしてのあるべき姿ではないかと思います。

第5章:「整いつつあるスマートグリッド推進体制」について

ここでは、経産省の息のかかったスマートグリッドに関係する研究会、協議会、民間フォーラムが紹介されていますが、通信関連では総務省系のIPv6によるインターネットの利用高度化に関する研究会ITS無線システムの高度化に関する研究会情報家電ネットワーク化に関する検討会、また、環境省系の環境対応車普及方策検討会、地球温暖化対策に係る中長期ロードマップ検討会自動車WG/エネルギー供給WGなどとも連係して、日本型スマートグリッドのコンセンサス作りを行う必要があると思います。

第5章:「2010年度予算でスマートグリッド関連を強化」について

ここでは、スマートグリッド関連で2010年度計上されている予算と内容が紹介されていますが、この節で紹介されている予算計上額を足し合わせても433億円、ドル換算して5億ドル弱にしかなりません。「 第4章:米国のスマートグリッド関連投資について」のところでも言及しましたが、米国のスマートグリッドへの投資は桁が違います。

第6章:中国の取り組みについて

前回、6章の紹介の中に書いてしまいましたが、米国でこれから展開しようとしているPMUをすでに中国で1000個以上設置しているということを知り、すごいと思いました。また、特別対談中の、サハラ砂漠で太陽熱発電した電気を欧州まで送電線を引いて供給するDESERTECの話を見たとき、どうせ中国西部の電源地域から東部の需要地域まで延々と超高圧送電線を引くなら、もう少し延長して韓国、日本の送電ネットワークとつなぎ、国際間で電力融通することも夢ではないと思いました。

第6章:韓国の取り組みについて

韓国の取組みに関しても、前回、6章の紹介の中に書いてしまいましたが、国家ビジネスの観点から一丸となってスマートグリッドに取り組む姿勢は、見習うべきだと思いました。韓国では、韓国電力公社(KEPCO)が主体的にスマートグリッドを推進しているようで、日本でもそのような展開になって欲しいものです。

第7章:スマートグリッドの将来像と実現への課題へのコメントが残っていますが、長くなりそうなのと、本書へのコメントとしての位置づけから離れてしまいそうなので、「スマートグリッド」文献紹介としての感想はここまでにしたいと思います。

おわり