ADEのフレームワーク 1

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前回、OpenADEという、電力消費者データを第3者からアクセスするためのオープン仕様を検討しているタスクフォースの存在をご紹介しました。
今回は、UCAIug-OpenSGのOpenADEのホームページ、「SharedDocuments」の「Visionフォルダ」で公開されている資料「A Framework for Automated Data Exchange (ADE):ADEのフレームワーク」を取り上げ、スマートグリッドにおけるOpenADEが果たす役割と、具体的なイメージについてご紹介しようと思います。

なお、全文翻訳ではないことと、例によって、超訳になっている部分があることを予めご了承ください。また、勝手に補足した部分は文字色=緑にしています。

では、はじめます。

1.はじめに

ADEの背景

(米国では)系統の信頼度向上と、電力需給バランス維持に向けた消費者の積極的な関与を促進するため、州・連邦政府を挙げて、スマートグリッドを推進している。そして、消費者に付加価値サービスを提供しようとする第三者企業(Third Party Service Provider:以降、TPSPと略)と電力会社間の自動データ交換(ADE)は、優先度の高いスマートグリッドの要件の1つとなっている。

UCAIugのOpen Smart Grid(OpenSG)小委員会では、スマートグリッドの要件を整理し仕様書にまとめるため、いくつかのワーキンググループおよびタスクフォースを組織しているが、上記に鑑み、OpenSGに参加している米国内の電力会社から、ADEに関する要件とユースケースを集めるための専門家チームとしてOpenADEタスクフォースが立ち上げられた。

OpenSG内には、電力会社のバックオフィスシステムとMDMSの間の情報交換や制御を行うための仕様を検討するAMI-Enterpriseタスクフォースがある。 OpenADEの仕様は、このAMI-EnterpriseのSRS(Systems Requirements Specification:システム要求仕様)が定めるアーキテクチャーに則ったものであるとともに、ADEの要件であるB2Bとしての性格に由来する「統合」の課題にフォーカスしたものでなければならない。
電力会社とTPSPのシステム統合の効率を改善し、電力会社、TPSP(および消費者)の負担を低減するためにはオープンな標準規格の策定が必要である。ADEの実現にあたって、オープン標準に基づいた情報モデルおよび統合サービスを規定することで、システムの複雑さを軽減し、相互運用性の改善が期待できる。

なお、通常OpenSGがまとめた要件や仕様は適切な標準策定機関(SDO)に引き継がれ、個別の標準規格になるが、OpenADEタスクフォースの成果は、最終的にAMI-Enterprise SRSに組み込まれるものと考えている。

本書の目的

本書は、スマートグリッドの枠組みの中で
• 電力会社による消費者データのTPSPへの情報公開を、当事者である消費者が許可・拒否するサービスは如何にあるべきか
• 情報公開が許可された場合、どのようにエネルギー消費量、(更に今後の可能性として)電力価格や、停電・ピーク需要等のイベント情報を提供するべきか
に関する議論のたたき台となるものである。
オープンな議論を促し、ADEインタフェースの実現可能性を分析して、TPSPが納得する、使いやすいADEのフレームワークに即したインタフェースと機能を提供する土台となることを目指している。

参照資料

作成期間が短かったため、広く現場の声を収集することはできなかったが、カリフォルニア州の電力会社と議論し、現在利用可能な関連資料を調査した。その中には、IEC TC57 WG14で策定中の国際標準のドラフト版、OpenSG内の、UtilityAMI、UtiliSec、AMI-Enterpriseなどの資料、電力会社SCE(Southern California Edison)のスマートメータリング・サービスであるSmartConnectのユースケース、PUCT(Public Utility Commission of Texas :テキサス州公益事業委員会)のAMIプロジェクト資料、WS-I(OASIS Web Services Interoperability)のWebサービスに関する相互運用性規格が含まれる。

前提条件

以下は、ADEのフレームワークをまとめるにあたっての前提条件である。

•  TPSPは、電力会社が保有する(消費者の)メーター計測データをアクセスするためにADEシステムを利用するに当たって、電力会社および/もしくはBonding Agency(保障機関)の認可を受けなければならない
•  ADEサービスは有償で、利用にあたって、TPSPは料金を支払う
•  消費者は、電力会社とともに、TPSPが自分たちのデータをアクセスするのを、個別、コミュニティレベルあるいはグループレベルでオーソライズする
•  電力会社は、このADEシステムで(住所や郵便番号などの)顧客データを提供しない。TPSPは、別途、自分で顧客情報を持つ。(電力会社とTPSPの)システム間で唯一関連するのは、個人の(ログイン)IDである
•  請求業務に関連する最低限の情報はTPSPに開示される。恐らく、料金コードは利用可能になるが、料金計算に必要な情報すべては、電力会社から開示されない
•  ADEが、スマートメーターや宅内表示器その他の家電機器が接続されているHANとつながり、HEMS機能と連携することはない
•  システムコストを最小化するため、データのアーカイブは最低限にとどめる。要求されたデータの保管はTPSPの責任で行う
•  消費者が直接TPSPのアクセスに関する設定を行う場合は、その消費者に関連するアカウントによって管理されたすべてのサービス・ポイントがTPSPで利用可能となる

本書の構成

本書は以下の5章から構成されている。
1. はじめに:ADEの背景、本書の目的、参照資料および前提条件が含まれる。
2. ADEの現状評価:ADEに関して、確認および優先順位検討用のハイ・レベルの必要条件一覧(今回は割愛)と、問題・課題の記述を含むADEの要件に関する論点の整理
3. ADEアーキテクチャー:ADEシステムのアーキテクチャーに関する考察を記述。
4. ADEソリューション設計における考慮点:システム、電力会社、TPSPおよび消費者にかかわる各実体にとって重要なデザイン上の配慮に関する解決オプションおよび議論。さらに、これらの交換、サービス・パターンに必要なデータ要素の評価と、インタフェースを構成するサービス候補一覧のリストが含まれている。
5. 付録:用語の定義と、サービスの定義例。

 

2.ADEの現状評価

ADEとは何か?

スマートグリッドは、信頼性と効率改善によってエネルギーを消費者に届ける方法を革新するばかりでなく、消費者が、太陽光発電のような分散電源の余剰電力を供給したり、系統の電力需要逼迫時に間接的に負荷低減に関与したり、消費者がエネルギー消費を管理する方法を変更するだろう。
消費者がエネルギー消費に関してより経済的な決定を下せるようにするためには、新しいツールが一般消費者および商工業顧客に提供されなければならない。
TPSPが、従来の電力業務モデルにこだわらず広範な顧客に付加価値の高い製品・サービスを提供するためには、TPSPは、自動化された形で顧客に関連するデータにアクセスできる必要がある。
自動データ交換(ADE)という用語は、TPSPが、顧客のエネルギー消費に関連するデータ(過去のまとまったデータおよびリアルタイムのデータ)を、実際に電気を供給している電力会社から受け取る能力を示す造語である。

AMIとスマートグリッドの出現で、本格的なデマンド・サイド・マネジメントが可能となった。そこでは、電力会社のみがエネルギー管理サービスを提供するのではなく、TPSPによる付加価値の高いサービス提供の競争が発生すると考えられている。(下図参照)

現在、ほとんどのAMIソリューションには顧客向けWebポータルやTPポータル(第三者企業向けポータル)のコンポーネントがある。しかし、大口/小口顧客、業務/産業顧客、一般消費者など、顧客のサイズおよび性格によって、顧客からアクセスできる内容は異なっている。

ここでは、TPポータルという用語は、電力会社が配備し、管理するAMIネットワークとスマートメーターを用いて収集された計測データにTPSPがアクセスできるポータルをさす。
TPポータルをアクセスするTPSPには、以下のものが考えられる:
1. デマンドレスポンス(DR)のアグリゲーター
2. 電力小売事業者
3. 消費者エネルギー管理サービス提供者および、そのプラットフォーム提供者
4. 電力会社が管理するAMIインフラで収集される顧客のメーター・データやイベントをアクセスする第三者企業(=狭義のTPSP)
5. 分散電源、PHEVの電源やエネルギー貯蔵装置など、将来のスマートグリッドを支える構成要素のエネルギー管理を行うサービス・プロバイダー
6. 州の公益事業委員会や市役所など他の公共企業体も、ADEデータをアクセスする可能性がある

ADEの課題

消費者に、エネルギー管理に対する選択権が与えられることにより、消費者の意思決定プロセスを支援する、新たな事業者およびビジネスモデルが出現すると思われる。
ADEは、スマートグリッドの一部としてエネルギーの消費者を「うまく機能させる」ために、なくてはならない実現技術である。が、その一方で、すべての関係者に新たな課題が出てくる:

電力会社の課題

これまで、電力会社は、毎月の請求書を顧客に提供する際に、提供したサービスの証として、エネルギー消費データを顧客に提示することはあったが、そのデータを第三者に提供するというのは、これまでになかったことである。 AMIの導入で、以前よりもっと詳細なデータを採取できるようになったが、それらのデータは、基本的に料金計算のためのものであり、電力会社が維持管理するものである。 もしエネルギー消費データが、電力会社からの電気料金請求に先立って、ほぼリアルタイムに第三者から顧客に提示されてしまうのと、これまでの料金請求処理(特に計測時のエラーの補正など正規の理由で計測データを補正する場合)に影響が出てくる。そこで、電力会社は、第三者がリアルタイムに直接メーターにアクセスするのを許可すべきか?が、電力会社から見た1つ目の課題である。

消費者データに関するセキュリティとプライバシーの確保は、電力会社にとって最重要課題の1つである。データの同期に関する技術は進歩したとはいえ、ADEの両側(データ提供側と、データ受取り側)で発生する待ち時間や処理エラーに起因するデータの不一致と、潜在的なデータ・セキュリティおよびプライバシー上の課題が、ADEサービスの導入で新たに発生する。

電力会社、消費者、TPSPの間でつじつまが合わない場合に備えて、顧客サービスを強化しなければならない。

また、ADEの実装および維持管理に必要なコストは、電気料金に組入れるか、あるいは第三者と折半するのか、現時点でそのビジネスモデルが明らかではない。

消費者の課題

実際には、消費者が主体的にエネルギー管理を行わなければ、節電による電気代の低減や環境負荷低減は望めないが、ADEの実現に当たって、消費者はなるべく手間のかからない、簡単なボタン操作のようなものを希望する。 たとえ節電・環境問題に熱心な消費者であっても、使いにくいシステムインタフェースは敬遠されるだろう。

エネルギー消費者全部を1つのソリューションでカバーすることはできない。ADEで自分のデータを第三者に提供するに当たって、一般消費者は、データのプライバシーおよびセキュリティに対する関心が非常に高い。商業・産業顧客は、顧客のサイズおよびニーズに応じた別の課題があるだろう。ADEは、これらのタイプの異なる顧客に価値を提供できるものでなければならない。

TPSPの課題

TPSPは、そのビジネスモデルによってADEに対して異なる要求を持っている。

新たな市場を作り独占するために特定のソリューションや技術の採用を強要する可能性もあるが、電力会社は、多数のTPSPの要望に応えなければならない。

 

ADEのアクティビティ・ダイアグラム

以下は、本ADEのフレームワークを議論するにあたって、PG&E社が作成・提出した概念レベルのADEアクティビティ・ダイアグラムである。

ADEサービス開始にあたっての初期動作(全体像)


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ここには、ADEサービスの大枠の流れが示されている。
1) カリフォルニア州公益事業委員会(CPUC)が、TPSPに対してADEアクセスの認可を行い、
2) CPUCに認可されたTPSPのリストをPG&Eが、(個々のTPSPに代わって)PG&Eの顧客に提示し、消費者データの提示を許可するTPSPを選んでもらい
3) その結果に基づいて、PG&Eは、消費者データをTPSPに開示する
4) PG&EはTPSP(その他)から消費者データ利用料を徴収してADE処理コストを回収

では、もう少し詳しく流れを見て見よう。

TPSPの初期動作


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ここでは、TPSP側から見た初期動作が示されている。
1) CPUCに、TPSPの登録を要求
2) CPUCは認可するにあたってTPSPを調査し、審査結果をTPSPに連絡
3) TPSPとして認可されたなら、TPSPはPG&Eの顧客の消費者データ(スマートメーターの計測値)をアクセスできるよう、PG&Eに要求
4) PG&Eの管理部門は、TPSPとADE(PG&Eの顧客の消費者データ提供)に関する協定書を作成してTPSPに戻す
5) TPSP、PG&E両者は、PG&Eの作成したADEに関する協定書にサインし、CPUCに協定を結んだことを届け出
6) PG&EのCC&B(顧客情報管理&請求部門)が、PG&Eの消費者データをTPSPに開示するよう、システム設定を変更すると同時に、TPSPに対してADEデータを公開するTP-WEBサイトのユーザ名/パスワードを通知
7) A)へ

消費者の初期動作


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A)消費者は、SA ID(Service Account ID)と郵便番号をTPSPに提供。TPSPは、TP-WEBサイトにログインし、当該消費者の消費者データへのアクセス許可を申請
2)PG&EのCC&B部門はSA IDと郵便番号の正当性を検査し、NGならば拒否ステータス、OKならばペンディングステータスを保持
B)へ

消費者によるADEアクセス許可と、消費者データ送信


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B)消費者は、自分のアカウント番号と電話番号でPG&EのCSOL(Customer Service Online)にログイン
2)CSOLは、入力データから顧客を同定し、CC&BからTPSPへのADEアクセス許可状況(ペンディングステータスになっている)を返す

3-1)消費者からADEアクセス許可要求が来ると、CSOLは、TP-WEBサイトの、当該消費者のステータスをペンディングから承認ステータスに変更するので、以降TPSPがTP-WEBサイトにログインしてADEデータのダウンロードが可能となる

3-2)消費者からアクセス拒否要求が来ると、CSOLは、TP-WEBサイトの、当該消費者のステータスをペンディングから拒否ステータスに変更するので、以降TPSPがTP-WEBサイトにログインしてもADEデータのダウンロードは拒否される

消費者/TPSPからのADEアクセス取り消し


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1) 消費者が、自分のアカウント番号と電話番号でPG&EのCSOLにログイン
2) ADEアクセス取り消しなら、CSOLは、TP-WEBサイトの、当該消費者のステータスをターミネーションステータスに変更
3) TPSPが、自分のユーザ名、パスワードでPG&EのCSOLにログイン
4) 消費者のADEアクセス取り消しなら、CSOLは、TP-WEBの、当該消費者のステータスをターミネーションステータスに変更

3.ADEアーキテクチャーの考察

AMI-Eenetprise SRSの参照

ADEシステムは、AMI/スマートグリッドで提供される機能として描かれた、システムの集合体の一部である。したがって、AMI-Enterprise SRSの中で文書化されたアーキテクチャー原理、参照モデル、要件は、ADEのアーキテクチャーにも当てはまると考える。
たとえば、
• (直接または間接的に)終端サービスの祖結合を達成するために、共通のプロトコルおよびビジネス・セマンティクスを用いる。
• サービスは、ユニークな仕事のまとまりを表現するものであり、ビジネス機能をまたがって再使用可能であるべきである。
• サービスは、電力会社をまたがって再使用可能であるべきである。
• サービス設計はビジネス要件に基づくものであるべきであり、アーキテクチャーにも反映されていなければならない。
• 概念の健全性を目指すためには、サービス設計は共通のアプローチおよびフレームワークで管理されるべきである。
• サービスは抽象的であるべきであり、正確(オーバーロードではなくポリモフィックなサービスを考慮に入れる)で、アトミックであるとともに構成可能、試験可能でなければならない など

AMI-Enterprise SRSのさらなる詳細は、AMI-Enterprise SRS v03を参照のこと。

B2B統合に関する考察

ADEシステムは、外部のシステムと電子的に通信するために使用されるので、統合にあたっては、セキュリティ、相互運用性、可用性、監査可能性の要件を備えていなければならない。 下表は、そのような目的で検討したいくつかの統合スタイルを示している。


表の拡大

B2B統合アーキテクチャーに関する主な考慮点は、サービスのコストおよび質である。使用される技術は使いやすく、広く採用され、サポートも十分で、かつ、維持費がかからず、どんなデータも安全に送る能力を持っていなければならない。既存のクライアントはそのままで、交換内容に新しいデータを加える能力を持っていることも望まれる。以上を鑑み、B2B統合(すべてのADEインターフェース)用のアーキテクチャーとして、HTTPSまたはFTPSによって転送し、必要な場合はファイル・サイズを縮小するために最適化/圧縮が行われる、XMLフォーマットを使用することを提案したい。セキュリティ、信頼度などのような他のWEBサービス仕様は、ADEの要件が成熟した時点で考慮する。

セキュリティに関する考察

一般に、セキュリティ要件は、「AMIシステム・セキュリティ必要条件」(UCAIugの内のAMI-SEC小委員会から提案されたドキュメント)の中で考慮されている。
ADEでそのすべてが必要かどうか、あるいは不足がないか、議論が必要だが、一般的にセキュリティで必要となる考慮点は以下のとおりである。
ADEシステムは、管理者によるシステム設定(システム内で使われるIDの作成、検証および管理)を可能とし、権限のないもののシステムへの不正侵入を阻止しなければならない。
ADEシステムは、使用権限のあるリクエストは許可し、使用権限のないリクエストは拒否しなければならない。また、どのような場合でも、権限のないものによる機密情報の検閲や更新を阻止しなければならない。ADEシステムは、管理者あるいはオーソライズされたその他のものがシステム内の情報の生成・更新・削除を誰が行ったか、追跡できなければならない。

 

長くなってしまったので、一旦ここまでとします。次回は、『ADEのフレームワーク』の後編をご紹介します。

 

いかがでしょうか? たたき台ですので、整合性があるかどうかは別として、2章の「ADEのアクティビティ・ダイアグラム」をご覧頂けば、OpenADEがどんなものか、かなり具体的にイメージできたのではないかと思います。

次回は、「ADEのフレームワーク」後半をご紹介します。

終わり