OpenADEのビジネス要件2


© Copyright Simon Carey and licensed for reuse under this Creative Commons Licence.

2009年10月29日、OpenADE-TFが公開した『OpenADE Business and User Requirements Document (Version 1.00)』をご紹介しています。
今回は、その後半部分です。
いつも通り、全文翻訳ではないことと、例によって、超訳になっている部分があることを予めご了承ください。また、勝手に補足した部分は文字色=緑にしています。
では、はじめます。

 

OpenADEのユースケース

下図は、以下で述べるOpenADEの概要を示したものである。
OpenADEを実現する上で、2つのWEBサイト、すなわち、電力会社のポータル(以降、電力ポータルと略)とTPSPのポータル(以降、TPポータルと略)が関与する。

※ その2つポータルにログインするためには、ログインID/パスワードの登録が必要になるが、この後のユースケースには、その登録プロセスは含まれていない。 また、電力会社・TPSP間の安全な通信チャンネルの構築や、TPSPによるエネルギー使用実績データ分析サービスの提供、消費実績データを収集するためにメーターから消費データを読み込むプロセスも含まれていないので注意のこと。

OpenADEインタフェースは、電力会社によって提供され、認可を受けたTPSPは、そのインタフェースを使って消費者データをアクセスするが、アクセス認可に関する責任者でもある。

※以降のアクティビティダイアグラム中では、Utilityとして電力とガスを同時に供給する公益事業者が想定されていますが、このブログでは、以前から電力中心に話題を提供していますので、Utilityという用語の日本語訳を、「公益事業者」ではなく、「電力会社」としています。


ADEの認可 – 消費者による、アクセス許可の付与

特定のTPSPが提供する付加価値サービスを利用したいと思った消費者は、電力会社が当該TPSPに消費者データを提供することを認可しなければならない。
この認可に関するユースケースの意図するところは、電力会社とTPSPの間で個人情報の漏出がないよう保証することである。
技術的な議論は後続のドキュメントに譲るが、認可モデルとしては、オープンスタンダードのOAuthを念頭においている。OAuthプロセスの結果として、電力会社とTPSPは、各顧客を識別するものとして、共通のリソースキーを得、電力会社では、そのリソースキーと顧客のメーターとを対応付ける。
このプロセスを実現する手段としては、アイデンティティ連携ソリューションを使うことも考えられる。

• 主要アクター:消費者

• ステークホルダー:電力会社およびTPSP

• 事前条件:

1. 消費者は、あらかじめ電力ポータル上のアカウントを持っている

2. 消費者は、あらかじめTPポータル上のアカウントを持っている(あるいは、認可プロセスの中で、アカウントを作る)

3. TPSPは、(OpenADEに関する許認可組織がある場合)、OpenADEインタフェースを使用することが認められている

• トリガー:

消費者がTPSPを利用することを決断する

• メイン・シナリオ:

1. (オプション)消費者は、電力ポータルのTPアクセス(TPSPにアクセス許可を与える)ページを開ける
OpenADEインタフェースの使用が認められたTPSPのリストが表示され、消費者は、どのようなTPSPが登録されているか確認する

2. 消費者は電力ポータルにログインし、TPアクセスページを開ける
(特定のTPSPを選択し)、そのTPSPに認可を与えるアクセス・パラメーター(サービス提供ポイント、アクセス許可期間など)を選ぶ。認可ページのレイアウト例を以下に示す


図の拡大

3. 電力会社は、信頼されたチャンネル(例えば登録された電子メール)により、消費者に、TPSPアクセス認可変更があったことを通知する。
電力ポータルは、許可の証(authorization token)とともに、消費者をTPポータルにリダイレクトする(上記の電子メールに許可の証とTPポータルのURLを入れてもよい)

4. 消費者はTPポータルにログインし、必要な手順を踏みTPSP認可処理を終える。

TPSPは、許可の証を用いて、OpenADEデータサービスインタフェースで、これまでの消費者の電力使用実績データを得るとともに、今後の電力使用データも得られるよう、電力会社に対して要求(subscribe)する

• 拡張シナリオ:

0. 消費者は、電力ポータルからではなく、TPポータルから「ADEの許可」を行う場合

a. 消費者は、TPポータルで、自分に電力を供給している会社を通知する
b. TPポータルは、電力ポータルの特定のページにリダイレクトする

1. 消費者が電力ポータルのアカウントを持っていない/電力ポータルにログインしていない場合

a. 消費者は、電力会社のアカウントを作り、電力ポータルにログインする

4. 消費者がTPポータルのアカウントを持っていず、TPポータルにログインしていない場合

a. 消費者はTPポータルのアカウントを作り、TPポータルにログインする

• 最低限保証されるべき事項:

個人情報がTPSPと電力会社で共有されない

• 成功時に保証される事項:

電力会社は、保有する消費者データをTPSPに提供する準備ができ、TPSPは、消費者データをアクセスする「許可証」を得ている。電力会社は、その「許可証」に基づきTPSPからの要求に応えてデータ提供する

• 発生頻度:

まれ (消費者、電力会社およびTPSPが最初に関係を築く場合のみ)

• アクティビティダイアグラム:


図の拡大

 

ADEの認可 -消費者によるアクセス許可範囲の拡張

• 主要アクター:消費者

• ステークホルダー:電力会社およびTPSP

• 事前条件:

消費者は、すでに1つ以上のTPSPに対して消費者データを開示するよう、(自分と取引のある)電力会社にアクセス許可を与えている

• トリガー:

消費者が、消費者データのアクセス許可を他のTPSPまで広げることを決定

• メイン・シナリオ:

1. 消費者は電力ポータルにログインし、TPアクセスのページで、「アクセス認可の変更/拡張」処理を選択する

2. TPSP/サービス・ポイント/すでに認可されたTPSPのリスト/アクセス・パラメーターが表示される

3. 消費者は(アクセスを許可したい)TPSPを選択し、アクセス・パラメーターを更新した後、最初にアクセス許可を与えたのと同様の画面で、アクセス許可を与る

4. 電力会社は、拡張されたアクセス許可を与えるパラメーターで内部情報システムを更新し、消費者に、TPSPアクセス認可に変更があったことを通知する

5. 電力会社は、新たに消費者からアクセス許可を与えられたTPSPにその旨を伝える

• 拡張シナリオ

なし

• 最低限保証されるべき事項:

個人情報がTPSPと電力会社で共有されない

• 成功時に保証される事項:

電力会社は、保有する消費者データを追加されたTPSPに提供する

• 発生頻度:

まれ (消費者が、アクセス許可を与えるTPSPを追加した場合のみ)

• アクティビティダイアグラム


図の拡大

 

ADEの認可 -消費者によるアクセス許可の縮小

• 主要アクター:消費者

• ステークホルダー:電力会社およびTPSP

• 事前条件:

消費者は、すでに当該TPSPに対してアクセス許可を行っている

• トリガー:

消費者が、特定TPSPに対して消費者データのアクセス許可の停止を決定

• メイン・シナリオ:

1. 消費者は電力ポータルにログインし、TPアクセスのページで、「アクセス許可取消」処理を選択する

2. TPSP/サービス・ポイント/すでに認可されたTPSPのリスト/アクセス・パラメーターが表示される

3. 消費者は、アクセス許可を取消したいTPSPを選択し、許可を取り消す日を指定する

4. 電力会社は、縮小されたアクセス許可を与えるパラメーターで内部情報システムを更新し、消費者に、TPSPアクセス認可に変更があったことを通知する

5. 電力会社は、新たに消費者からアクセス許可が停止されたTPSPにその旨を伝える(オプション)

6. アクセス許可停止日当日までは、当該TPSPにも消費者データを開示するが、以降は、そのTPSPに対して同データを開示しない

• 拡張シナリオ

なし

• 最低限保証されるべき事項:

個人情報がTPSPと電力会社で共有されない

• 成功時に保証される事項:

電力会社は、保有する消費者データを追加されたTPSPに提供する

• 発生頻度:

まれ (消費者が、アクセス許可を与えるTPSPを削除した場合のみ)

• アクティビティダイアグラム:電力会社によるTPSPへの消費者データの公開


図の拡大

 

ADEの公開 -電力会社によるTPSPへの消費者データの提供

これは電力会社のシステムが、許可された消費者データを集めて、TPSPに提供する、OpenADEインタフェースの主要処理機能である。

• 主要アクター:電力会社のOpenADEサービス

• ステークホルダー:電力会社のバックオフィス・システムとOpenADEシステムおよびTPSP

• 事前条件:

1. 消費者はADEのアクセス許可を実施済み

2. 電力会社のバックオフィス・システムはTPSPに提供する新しいデータの準備を完了している

• トリガー:

1. 定期的に実施(電力会社のバックオフィス・システムによって定まる)

2. (それ以外に)過去の消費実績データを要望に基づいて提供することもある

• メイン・シナリオ:

1. 電力会社のバックオフィス・システムは消費者データを収集する

2. 電力会社のバックオフィス・システムはOpenADEサービスにデータを転送する (次回更新まで、そのデータは保持される)

3. OpenADEサービスは、新しいデータが利用可能であることを登録されたTPSPに通知する。新しい消費データは、(日次など)事前に定義された間隔で提供される。それぞれのTPSPに公開されるのは、受け取ることを許可されたデータに限られる。

データは、最後に公開されたものより新しい記録の場合と、以前に公表された、(計測エラー等のため)推測値であったものを(実測値で)更新する場合がある

4. TPSPは、電力会社から通知を受けるか、あるいは、前もって定義した時間に、OpenADEインタフェース経由で電力会社と通信し、アクセス許可を得た消費者のデータを要求する。

TPSPは、(前もって定義した時間間隔で)OpenADEインターフェース経由で新しい消費者データを入手してもよい

5. 電力会社は要求が事前登録されたTPSPのものか、アクセス許可を得たTPSPのものか判定し、OKならば、OpenADEインタフェース経由の暗号化された通信チャンネルによって、要求されたデータを返す

6. 電力会社は、クライアント・ネットワークの詳細、要求された情報、要求日時、転送バイト数、もしあれば発生した例外の詳細情報などを含めて、要求結果のログを採取する

• 拡張シナリオ

a. TPSPの認証でエラーとなった場合、OpenADEシステムはエラーとなった理由に対応するエラーコードを返す。

b. 電力会社側からTPSPにデータ配信する処理でエラーとなった場合、次の定期的なデータ配信まで、周期的に再送を試みる。また、TPSPは、定期的なデータ配信がない場合、欠測値を要求することができる。

• 最低限保証されるべき事項:

1. OpenADEサービスは、アクセス許可のないTPSPからの要求を受け付けない

2. 個人情報がTPSPと電力会社で共有されない

• 成功時に保証される事項:

TPSPは消費者データを受け取り格納する。(一般に)、再び同じデータは要求しない

• 発生頻度

TBD (システム稼働直後は毎日)

• アクティビティダイアグラム


図の拡大

(新規データが用意できたことの)通知ステップはオプションなので、このオプションを使用しない場合、データがまだ利用可能でなければ、エラーコードが返される。そして、TPSPは後で(あらかじめ決められた時間間隔で)消費者データの取得を試みる。
この図が示すように、OpenADEシステムは、電力会社のシステムとは独立しているが、電力会社の一部である。

• アクティビティダイアグラム:TPSPによる消費者データの要求


図の拡大

 

以上、OpenADE-その4、その5にわたって、『OpenADE Business and User Requirements Document (Version 1.00)』をご紹介しました。

OpenADEのビジョンに対して、OpenADE1.0の要求仕様範囲を予め認識しておく方が良いと思い、「寄り道」したのですが、NISTのPAP10との関連が明らかとなり、OpenADE1.0より以降で、HEMS/BEMS連動のデータ交換だけでなく、デマンドレスポンスの情報交換インフラも視野に入っていて、OpenADRともつながってきました。

なお、日本でも、スマートメーター制度検討会で「需要家の電力等使用情報の取得方法」が検討されています。(下図)


出典:スマートメーター制度検討会報告書概要 図の拡大

図中、「Cルート」が、「第三者経由で取得」、いわゆるADEに相当します。
最終報告書によると、『AルートやCルートにおいては、電力等使用情報に料金情報に料金情報や他のエネルギー情報等が付加・加工された情報を需要家が取得することが可能である』となっており、まさしくOpenADEと軌を一にしていますが、TPSPの新規ビジネスとして捉えられていないのが少々残念なところです。
また、実現レベルで電力会社の配電系統の電力用通信の空きの利用を想定しているためか、リアルタイムでの情報取得に関して否定的なニュアンスになっていますが、TPSPから提供される情報価値からすると、極端な話、1ヶ月前の電力消費データを基に提供される情報と、リアルタイムに収集・蓄積された情報を基に、リアルタイム・ビジネスインテリジェンス手法で分析された結果提供される情報のどちらが需要家にとって有益な情報かは自明ですので、実現時期をあせらず、実現コスト、社会全体に及ぼす効果を考えて、実施に移していただきたいと思います。

なお、「OpenADE-その4」の「OpenADE1.0の範囲」のところで、「1. 顧客またはTPSPによるデータ捕捉を含む、追加の認可シナリオ」と書かれていたのですが、OpenADE2.0では、例えば、こんなこともできるのではないでしょうか?
• (電力会社のスマートメーターではなく)顧客あるいはTPSPが設置した各部屋ごとのメーター情報を
• (電力会社経由ではなく)HGW経由でTPSPがリアルタイムにデータ収集し、
• リアルタイム分析結果に基づいた省エネコンサル情報を顧客に提供、
• あるいはTPSPの提供する「おまかせサービス」を選んでおけば、OpenADRと連動して、自動的に電気代とCO2排出量削減と、エアコンの設定温度など個人の生活における快適性の嗜好を勘案した省エネ実施(家電機器の遠隔制御)までをTPSPが実施

次回はOpenADE1.0のご紹介に入ろうと思いますが、少々時間がかかるかもしれません。

終わり