EPRI「Estimating the Costs and Benefits of the Smart Grid」の表紙より作成

今年3月、米国電力中央研究所(EPRI:Electric Power Research Institute)から、「Estimating the Costs and Benefits of the Smart Grid:スマートグリッドの費用対効果予測(EPRI 1022519 Final Report, March 2011)」というタイトルのレポートが公開されています。
全162ページのPDFドキュメントなので、まだすべてに目を通せていませんが、今回は、エグゼクティブ・サマリを中心に、どんな内容かご紹介したいと思います。

まず、目次をご覧いただきましょう。

 

目次

Section 1: Executive Summary

①What is the Smart Grid?、②Background、③Previous Studies、④Purpose and Scope、⑤Summary of Results、⑥Smart Grid Costs、⑦Smart Grid Benefits、⑧Cyber Security

Section 2: Introduction

①Smart Grid Vision、②What is the Smart Grid?、③Smart Grid Characteristics: Drivers and Opportunities、④Smart Grid Benefits、⑤Stakeholder Benefits、⑥Modern Grid Initiative、⑦Smart Grid Characteristics、⑧Smart Grid Challenges、⑨Procedural Challenges、⑩Technical Challenges to Achieving the Smart Grid、⑪Smart Grid Networking、⑫The Smart Grid Conceptual Model、⑬Additional Challenges、⑭Work Force Issues、⑮Regulatory Challenges to Achieving the Smart Grid、⑯Drivers of Smart Grid Investment、⑰Previous Studies by EPRI、⑱EPRI Demonstrations、⑲Purpose of this Report、⑳Why Did the Smart Grid Cost Estimates Change?

Section 3: Approach

①What Constitutes the Power Delivery System? 、②What Differentiates Smart Grid Enhancement? 、③Study Steps、④Key Assumptions、⑤Smart Grid Costs are Particularly Hard to Estimate.、⑥Technology Assessment: What’s In and What’s Not In?、⑦Modernizing an Aging Infrastructure

Section 4: Power Delivery System of the Future: Benefits
(The Benefits of the Smart Grid)

①Previous EPRI Study、②Attributes.

Section 5: Transmission Systems and Substations

①Introduction、②Cost Components for the Smart Grid: Transmission Systems and Substations、③Dynamic Thermal Circuit Rating (DTCR)、④Sensors and Intelligent Electronic Devices、⑤Examples of Transmission Line Sensors、⑥Short-Circuit Current Limiters (SCCL)、⑦Flexible AC Transmission System (FACTS) 、⑧Storage、⑨Communications and IT Infrastructure for Transmission and Substations、⑩Intelligent Electronic Devices (IEDs)、⑪Phasor Measurement Technology、⑫Cyber Security、⑬Enterprise Back-Office Systems、⑭Incremental Ongoing System Maintenance、⑮Impacts on System Operators、⑯Summary of Transmission and Substations Costs

Section 6: Distribution

①Introduction、②Cost Components for the Smart Grid: Distribution、③Communications、④Distribution Automation、⑤Intelligent Universal Transformers、⑥Advanced Metering Infrastructure (AMI)、⑦AMI Cost Assumptions、⑧AMI Costs for the Smart Grid、⑨Controllers for Local Energy Network、⑩Summary of Distribution Costs

Section 7: Customers

①Introduction、②Cost Components of the Smart Grid: Consumer/Customer Technologies、③Who Will Bear These Costs? 、④PV Inverters、⑤Residential Energy Management System (EMS)、⑥In-Home Displays and Access to Energy Information、⑦Grid-Ready Appliances and Devices、⑧Plug-in Electric Vehicle Charging Infrastructure and On-Vehicle Smart Grid Communications Technologies、⑨Communication Upgrades for Building Automation、⑩Electric Energy Storage、⑪Summary of Customer Costs

Section 8: References

Appendix A: Notes Pertaining to Table 4-5:

①List of Smart Grid Benefits、②Facilitating Plug-In Electric Vehicles (PEVs)、③Facilitating Electrotechnologies、④Facilitating Renewable Energy Resources 、⑤Expanded Energy Efficiency 、⑥AMI Benefits、⑦Avoided Generation Investment from EE and DR、⑧Energy Storage Benefits 、⑨Electrification Energy Benefits

 

1章のエグゼクティブ・サマリに続いて、2章では、スマートグリッドの定義、スマートグリッドがもたらす効果の概要、スマートグリッドの特徴と課題がまとめられています。3章では、スマートグリッドの費用対効果を予測するに当たってどのような前提を置いたかを概説した後、4章では、EPRIが2004年に次世代電力供給システム(Power Delivery System of the Future)の費用対効果予測を行った際には、どのような属性に注目して、その価値(効果)を見積もったかを説明、5・6・7章で、4つの主要技術領域(送電、変電、配電、および消費者)にまたがる25のコスト要因を詳述し、コスト予測が行われています。

では、次に、エグゼクティブ・サマリ部分をご紹介します。

 

第1章:エグゼクティブ・サマリ

本報告書は、以前EPRIが作成した報告書(EPRI TR-1011001:Power Delivery System of the Future: A Preliminary Estimate of Costs and Benefits )を部分的に改訂したもので、いわゆるスマートグリッドを実現するために必要となる投資(費用)を定量評価するに当たっての方法論、主要な前提条件および評価結果を記述し、スマートグリッドで得られるであろう利益の概算予測を行ったものである。
ただし、本報告書はあくまでスマートグリッドを最大限機能させる場合必要となる投資規模を議論するためのたたき台を提供するものであり、電力供給システムの機能を拡張するにあたって、構成要素個々のコストを積み上げるアプローチをとったものではないことに注意されたい。

 スマートグリッドとは何か?

ここでは、2007年エネルギー自給・安全保障法(the Energy Independence and Security Act of 2007)でのスマートグリッドの定義を採用する。

「スマートグリッド」というのは、電力供給システムの近代化を指す用語で、大規模集中型発電・分散型発電から、高圧送電網、配電システムを通して産業顧客やビルの自動化システム・電力貯蔵装置・最終消費者とその家屋内のサーモスタット・電気自動車・電気器具、家電機器まで、相互接続された構成要素を監視・保護し、運用の自動最適化を行うものである。

 背景

今日の(米国の)送配電インフラは、電力市場再編、社会生活のディジタル化に伴う電力需要増や、再生可能エネルギーの利用増加といったニーズに応えられる構造になっていない。さらに、これまで拡張・保守を絶えず繰り返してきた結果、送配電インフラは様々なセキュリティ脅威に対して脆弱になってしまっている。
Figure 1-1は今日の電力系統である。
大規模集中型発電所が高圧送電網を経由して地域の配電システムにつながり、そこから一般家庭、商業・産業顧客に電力供給を行っている。
今日の電力系統では、機械的な制御により、電気は、ほぼ一方向に流れている。

Figure 1-2は、スマートグリッドの機能を最大限利用した場合に必要となる要素を示したものである。

スマートグリッドは、依然として大規模集中型発電所に依存しているが、他に膨大な数の電力貯蔵装置、再生可能エネルギー発電設備を有し、送電レベル/配電レベルで再生可能エネルギー発電設備を包含している。
さらに、それら分散資源だけでなく、スマートグリッドでは、電気自動車(の充放電)、消費者が直接エネルギー管理に参加する仕組みや、効率的に通信装置が有機的に連携するよう、センサー・制御機能が増強されている。
また、スマートグリッドでは、何百万ものノードから構成される複合システムを長期にわたって安定運用できるよう、サイバー・セキュリティも強化されている。

(米国では)昨今の電力供給システム老朽化に対して、近代化・機能拡張が叫ばれており、その回答として、スマートグリッドが考えられている。すなわち、電力供給のSQRA(セキュリティ、品質、信頼性および可用性)を保証し、経済生産性と生活の質を改善し、安全性・持続可能性を最大化する一方、環境への影響を最小化する解決策として、スマートグッドが考えられているのである。

スマートグリッドの特徴は、自律分散協調型のエネルギーシステム構築を目指していることで、そこでは、柔軟な次世代光通信、全てのIED(Intelligent Electric Device:保護制御監視機能を有する機器)間でのダイナミックな情報共有、エージェントによる分散指揮統制環境が想定されている。
このビジョンを達成するには、種々の障害や脆弱性を克服するため、念入りに政策立案を行い、インフラ投資の加速とともに、公共/民間でのRD&D(研究開発と実証)に力を入れる必要がある。

 以前の調査

EPRIでは、以前にもスマートグリッド費用対効果の予測を行ったことがある。
「The Power Delivery System of the Future(EPRI 1011001)」では、(電力需要の増加への対応と、それに伴う信頼性維持のための投資の他に)スマートグリッド実現にために必要となる純投資額は1650億ドル、利益コスト率は4:1と予測していた。
「The Power to Reduce CO2 Emissions(EPRI 1020389)」では、スマートグリッドは省エネとCO2排出削減の両方に大きく貢献でき、2005年と比較して、スマートグリッドが、2030年のCO2排出量を58%削減することができると予測した。
「The Green Gird(EPRI 1016905)」では、2030年時点でスマートグリッドのCO2排出削減インパクトは1年当たり6000万~2億1100万CO2Mtと見積もっている。
「The Cost of Power Disturbances to Industrial and Digital Economy Companies (EPRI 1006274)」では、米国の全ビジネス分野にわたって、1年間に停電で発生するコストを1040億~1640億ドル、電力品質に起因するコストを150億~240億ドルと予測している。
米国およびカナダにおける2003年8月14日大停電に関する最終報告書「Final Report on the August 14, 2003 Blackout in the United States and Canada」では、この大規模停電のコストは、約100億ドルであると推測している。

 目的と範囲

本報告書の目的は、スマートグリッドを最大限機能させるには、どの程度の投資が必要かという情報を公の場に提供することである。
本報告書作成に当たっては、時間と予算に制約のある中で入手できた信用できる情報をベースとして作業を遂行したが、結果として得られたコスト見積もりは正確なものではなく、議論の余地が十分ある。
したがって、本報告書は、現在の電力供給システムを、スマートグリッドで必要とされるハイパフォーマンス・レベルに引き上げるにはどれくらいの投資が必要となるかの議論の出発点として使っていただきたい。

 結果の要約

Table 1-1を見ると、電力需要の増加に対応して必要となる投資をのぞき、将来の電力供給システム構想を実現するために今後20年間で必要となる純投資額(Net Investment Required)が3380億~4760億ドルとなっている。その投資に対する効果(Net Benefit)は、1兆,2940億~2兆280億ドルで、将来の電力供給システム構築コストと比べると、便益費用比率(Benefit-to-Cost Ratio)は、2.8~6.0となっている。したがって、本報告書で想定した前提条件のもとでは、将来の電力供給システムがもたらす恩恵が、構築コストを顕著に上回っている。
2004年の報告書(EPRI 1011001)と比較すると、スマートグリッド構築コストが著しく増加していることに気づくだろう。それは、スマートグリッドのビジョンが、2004年当時の次世代電力供給システムのビジョンよりもっと高度になったことに起因する。本報告書作成に当たって、6、7年経てば変わるようなスナップショットではなく、スマートグリッドとしてあるべき姿を捉え、その構築コストを予測したからである。

この費用は、分散電源(DER)の統合、消費者との完全な連携など、現在の電力供給システムをスマートグリッドに必要な水準に引き上げるために必要な種々様々の機能強化に使われるものである。ただし、この中には、発電コストや、再生可能電源を系統接続するための送電網拡張費用、電力需要の増加に対応するための費用、顧客がスマートグリッド対応の家電機器を購入する費用は含まれていない。

Table 1-2は、総コストを送変電(Transmission and substations)、配電(Distribution)および消費者(Consumer)に分けて示したものである。
LowとHighの数字に大きな幅があるのは、コスト予測に当たって、この産業が現在直面している不透明さと、コスト低減の可能性を見越してのことである。

 スマートグリッドのコスト

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Table 1-3は、EPRIのスマートグリッド構築予想コストが消費者にとってどういう意味を持つかをいくつかの断面で提示したものである。
まず、スマートグリッドのコストを、産業用(Industrial)、業務用(Commercial)および家庭用(Residential)にクラス分けし、更に、以下の方法で計算した:

(1) $/Customer Total Cost 

全スマートグリッド・コストを各クラスの顧客数で割ったもの
※一度で支払ったと仮定した場合の金額
※(産業用、業務用および家庭用)クラス別の顧客数は、EIA2009による
※スマートグリッド・コストは、2009年の電力販売量(家庭用38%、業務用37%、産業用25%)に基づいて各クラスに案分

(2) $/Customer-Year, 10-Yr Amortization

スマートグリッドのコストを均等に10年で減価償却する場合の、顧客クラス別年間顧客一人あたりのトータルコスト
※割引現在額ではなく、額面価格

(3) $/Customer-Month, 10-Yr Amortization

スマートグリッドのコストを均等に10年で減価償却する場合の、顧客クラス別月間顧客一人あたりのトータルコスト

(4) % Increase in Monthly Bill, 10-Yr Amort

スマートグリッドのコストを均等に10年で減価償却する場合の、平均的な顧客の月額電気料金の値上がり率

なお、この計算では、顧客にかけられるスマートグリッドのコストは米国中で等しいと仮定しているが、地域によってスマートグリッド化のコストが違うと思われ、実際には、顧客にかけられるスマートグリッドのコストは相当違うことが予想される。

 スマートグリッドがもたらす恩恵

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スマートグリッドは、コスト低減、信頼性向上、電力品質改善、GNPの増加、電気に関するサービス拡大等様々な恩恵をもたらす。Table 1-4およびFigure 1-4は、それらの恩恵を要約したものである。
一言で言うと、スマートグリッドは、消費者に信頼できる高品質の電力を提供し、電気関連のサービスの増加と環境の改善を保証するものである。スマートグリッドがなければ、消費者は、電気自動車の増加や、再生可能エネルギー電源および電力貯蔵装置の急成長がもたらす恩恵に浴することはできない。スマートグリッドの開発なしでは、デマンドレスポンスも、分散電源も、ウィンド・ファームやメガソーラーのような大規模集中型再生エネルギー電源も有効には利用できないのである。
2章で詳述するが、スマートグリッドのもたらす恩恵には、次のものがある:

• 消費者が電力需給に直接関わることを可能にする(電気の使われ方に関する情報を提供し、消費者自らに、電気の使用に関する選択権を与えるとともに、インセンティブ/ディスインセンティブを与えることで、消費者の電気を使用・購入する行動を修正する)

(一般家庭の太陽光パネルや電気自動車から原発、系統用大型蓄電池まで)あらゆる種類の電源や電力貯蔵装置を利用できるようにする

(消費者から系統運用者までが利用する) 新しい製品やサービス、市場を作り出す

• 今日のディジタル社会に求められる電力品質を提供する

• 電力流通設備の利用・運用効率を最適化する

• 系統の障害を検知すると、自動的に是正しようとする(セルフ・ヒーリング)

• 電力流通設備への物理的な攻撃やサイバー攻撃、自然災害に対して弾力的に対応する

 サイバー・セキュリティ

スマートグリッドでは、IT技術が多用されるので、近年、IT特有のセキュリティであるサイバー・セキュリティへの懸念が高まっている。電力会社は2000年初頭以降、社内運用でサイバー・セキュリティへの対応を行ってきたが、グリッドがスマートになることによって、電力供給を混乱させることが、今までよりも容易になるのではないかとの懸念が増大しているのである。サイバー・セキュリティは、今やスマートグリッドの必須要素となっている。
適切なサイバー・セキュリティ対策費として、スマートグリッドへの投資は、およそ37億2900万ドル。関連するITへの投資は、およそ322億5800万ドル必要と想定している。

 

以上、今回は、この3月にEPRIが公開した「Estimating the Costs and Benefits of the Smart Grid:スマートグリッドの費用対効果予測」から、目次とエグゼクティブ・サマリ部分をご紹介しました。

米国と日本では、「スマートグリッド」導入の背景も、スマートグリッドで目指す機能の中身も違いますので、本報告書に記載されている数字自体はあまり参考にならないかもしれませんが、どういう前提条件で投資対効果を測ろうとしているのかは、日本型スマートグリッドの導入コスト予想や、日本型スマートコミュニティの導入コスト予想に役立つのではないかと思っています。

もう1つあります。

日本型スマートグリッドを語る際、『送変電・配電自動化は日本では実現済み』とされることが多いのですが、果たして、米国のスマートグリッドが目指す送変電自動化と、日本ですでに実現されている送変電自動化は等価なものなのでしょうか?
目次の「Section5: Transmission Systems and Substations ⑪Phasor Measurement Technology」は、送電網の広域状態監視に使われる技術ですが、下図にある通り、1つのPMU(Phasor Measurement Unit:電圧位相測定ユニット)からは1秒間に~60個のデータが送られてきます。


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出典:GEエナジー「スマートグリッドは技術とビジネスのコーニュコピア」

すなわち数十ミリ秒単位で送電線の状況がモニタできるので、米国版スマートグリッドでは、今後出てくるであろう、リアルタイム・ビジネスインテリジェンス(上図のHigh Speed Applicationsの1つ)をベースとしたネットワーク異常兆候検知時のリアルタイムシミュレーションが可能となるでしょう。更に、スマートグリッドのキラー・アプリケーションとして、そのリアルタイムシミュレーション結果を利用して、ネットワーク異常に陥る前に正常範囲に戻すような制御システムも出てくるのではないかと思われます。

出力変動の大きな再生可能エネルギー電源も、大量導入すると均し効果があるとは聞いていますが、絶対に上図のSystem Frequency Viewのような周波数異常が局地的に発生しないとは言い切れません。

いくら天気予報が正確になっても、前日の天気予報から風力・太陽光発電量予測を行い、バックアップ用火力発電所の発電計画を立てるのでは、当日の風力・太陽光発電量と乖離が出ることは目に見えています。

そこで、日本型スマートグリッドの最終形を考えるにあたって、電力会社の方には、現在の送変電・配電自動化で実現されていることと、本報告書のSection5~7の内容を見比べていただいて、『送変電・配電自動化は日本では実現済み』という点を再吟味していただきたいと思います。

終わり