The Blackhead lighthouse, Whitehead (2013)

 © Copyright Albert Bridge and licensed for reuse under this Creative Commons Licence.

『PJMのDRプログラム』と題して、ここまでにPJMが運営している容量市場、アンシラリーサービス市場と、PJMで実施されているDRプログラムの関係をご紹介してきました。
ブログ「FERCのDR評価レポート-その2」のDRプログラム別負荷削減可能量の図を見る限り、アンシラリーサービス型DR(図の棒グラフ中、⑨、⑩および⑫)のピーク負荷削減可能量は大きくありません。しかし、「その2」の最後に記したように、アンシラリーサービスに供される電力は、MW単位で見ると小さな値かもしれませんが、緊急事態対応のDR資源調達ではなく、定常的な系統運用でのDR資源調達となるので、MWh単位でDR資源調達量を考えた場合、(単価の高い特に周波数調整型DRに関しては)形勢が逆転する可能性があります。

ところで、手動型のDRの場合、DR資源提供者はDRを実施するために新たな投資を行う必要はありません。
半自動型のDRも、スマートサーモスタットやHEMS、BEMSといったものへの投資が必要になりますが、それは、DRへの投資が主体ではありません。
しかし、自動DRを行う場合は、DR資源提供者は、DRを行うための投資判断が必要になります。

• 提供できるDR資源の応答性、継続性から、どのようなタイプのDRプログラムに参加可能か?

• 負荷調整をすることによる本来業務への影響はどうか?

• 自動DR化のためのコストはどれほどかかるのか?

• 何か、参加を奨励するインセンティブプログラムはあるか?

これらとともに、自動DRでDR資源を提供することで、どれほどの「収入」が見込めるか?が、重要な判断ポイントとなります。

そこで、今回は、PJMの容量市場、アンシラリーサービス市場の取引実績の実データを用いて、需要家が、100kWのDR資源を提供することで年間どれだけの「収入」が得られるか計算してみましたので、その内容をご紹介します。

参考にしたのは、PJMのホームページ、およびPJMの稼働実績の分析・評価を行っているMorning Analysis, LLCのレポート等です。

では始めますが、例によって、参考にした資料の全訳ではないことと、独自の解釈および補足/蛇足/推測が混じっているかもしれないことをご承知おきください。

4.PJMでの容量市場取引実績と収入計算

4.1 PJMの2013年度分容量市場取引実績

2010年6月に実施された2013年度分容量市場の初回オークション(BRA)結果の詳細を表.2に、その後開催された2013年度分の補完的なオークション結果を、表.3に示す。

表.2 2013年度容量市場(BRA)オークション結果

出所:PJMホームページ 「2013/2014 Auction Results for BRA and All Incremental Auctions

表.3 2013年度分補間容量オークション結果

出所:PJMホームページ 「2013/2014 Auction Results for BRA and All Incremental Auctions

 4.2 PJMの容量市場に投入したDR資源(LMR)の収入計算

PJMの容量市場にLMR(PJMにおける容量市場に適用されるDR資源の呼称)を提供した場合の収入を計算するに当たって、表.2 MAAC(中部大西洋岸地域)の需要家が100kWのLMRをCSP経由でPCMの容量市場に入札し、落札した場合を考える。

BRAオークションによる系統限界価格(System Marginal Price:SMP)は$27.73/MW・日であるが、MAAC地域の送電制約等による追加価格(Locational Price Adder)が$198.42/MW・日あり、合計$226.15/MW・日となっている。これはMW・日当たりの額なので、100kW・日当たりの支払額に換算すると、$22.615/100kW・日となる。
したがって、この100kWのLMRに対してPJMからCSPに支払われる額は以下のとおりとなる。

• 夏季限定DRの場合は $22.615×122(4ヶ月分) = $2759

• 夏季拡張DRの場合は $22.615×184(6か月分) = $4161

• 年間DRの場合は $22.615×365(1年間) = $8254

※3種類のLMRの定義については、その2の表.1参照のこと。
※また、実際には、上記の支払われた額をCSPと需要家がシェアすることになる。

5.PJMでのアンシラリーサービス市場向けDR実績と収入計算

5.1 PJMの2012年度分アンシラリー市場向けDR実績

2013年3月7日付けPJM資料「Economic Demand Resource in Energy Market」によると、2012年度(2012年6月~2013年5月)PJMのDRプログラムに参加したサイト数と契約MW数は以下のとおりである。

• 緊急DR : サイト数:12,610 契約MW数:8,548MW

• 経済的DR: サイト数:1,099 契約MW数:2,243MW

以下に、それぞれのDRプログラムの2012年度実績を示す。

 緊急DRの実績

Monitoring Analytics社が発行している2012年度PJM市場分析レポート「2012 State of the Market Report for PJM」のDR実績の章「Section 5 – Demand Side Response」によると、2012年度、緊急DRの発動は7月17日と7月18日の2回。緊急対応用容量に対して支払われた金額(Emergency Credits)と、実際に行われた負荷削減量に対して支払われた報酬との総額(Emergency Make Whole Payments)は、表.4のとおりである。

表.4 2012年度PJMで発生した緊急DRイベントと支払額

出所: Monitoring Analytics社の「2012 State of the Market Report for PJM

この他に、実際の削減量に応じて対価が支払われるFull EmLRの 2012年度のRPMオークション結果は、表.5のとおりである。

表.5 2012年度のFull EmLRの負荷削減に対する入札単価

出所: Monitoring Analytics社の「2012 State of the Market Report for PJM

電力取引市場にDRを導入する効用の1つは、発電事業者の市場支配力低減にあると言われている。しかし、RPMオークション市場で落札された札の80%弱はMWhあたり$999以上(100/ kWh以上)であり、Full EmLRが、市場価格を形成する供給曲線を右側にシフトする効果は見られない。それでもPJMは、発電事業者の入札価格上限を$1000/MWhに制限しているのに対して、負荷削減量に対する入札価格上限を2012年度$1500/MWh、2013年度は、$1800/MWh、2014年度は$2100/MWh、2015年度は$2500/MWhとして、Full EmLRへの参加を促している。これにより、需要曲線側の傾きを緩和させることで、市場価格を低減させ、緊急時対応費用削減を狙っているものと思われる。図.4は、DRの導入による市場取引価格下落の低下を模擬的に示したものである。

図.4 DR導入による市場取引価格低減の概念図

出所:Viridity Energy「The National Action Plan for Demand Response – The Good, the Ok and What is Left to be Done」

 経済的DRの実績

2013年3月25日付けPJM資料「2012 Economic Demand Response Performance Report」によると、2012年夏には、2度の緊急DR発動の他に、3度「non-emergency peak day」があり、経済的DRの調達が行われている。
図.5左は、どの程度のDR資源提供者から経済的DRを行ったかを示すもので、図.5右は、経済的DR調達を行った地域を示すものである。

図.5 経済的DR調達先のDR資源規模と地域

出所:PJM 「2012 Economic Demand Response Performance Report

ここから、経済的DR調達先の大部分(97%)は、5MW以上のDR資源が提供可能な大口需要家であることがわかる。
また、地域的にDominion(バージニア地域)およびMAAC(中部大西洋岸地域)で全経済的DR調達量の8割以上となっていることがわかる。
この3つの地域別の2012年度の経済的DR調達実績を表.6に示す。

表.6 2012年度の地域別経済的DR調達実績

出所:PJM 「2012 Economic Demand Response Performance Report

表.6右端のサイトごとの平均負荷削減規模(Average Reduction per site per hour)を見るとDominion地域が32.1MWで突出しており、特に大口ユーザが集まっていることがわかる。図.7は経済的DR(MWh)の調達先の種類別割合を示しているが、商工業顧客と学校施設で86%を占めている。また、CPP等のDR実証試験では注目を浴びる一般家庭は、経済的DR調達実績からすると3%でしかない。


図.7 経済的DR調達先

出所:PJM 「2012 Economic Demand Response Performance Report

5.2 PJMの周波数調整市場での収入計算

アンシラリーサービス市場の詳細取引情報は、PJM会員でないと取得できないので、以下には、PJM市場の監視・報告を行っているMonitoring Analytics社が2013年3月14日に発行した最新レポート「2012 State of the Market Report for PJM Volume2:Detailed Analysis」から2012年の周波数調整市場の平均決済価格(Weighted Average Regulation Market Clearing Price:RMCP)を示す。

表.7 2012年度月間平均周波数調整市場調達結果

出所: Monitoring Analytics社の「2012 State of the Market Report for PJM

CPPのような年に数回のピーク削減のために使われるDR資源よりも、周波数調整用のDR資源は、利用される機会が多い。あるPJMエリアの需要家が100kWを周波数調整市場に提供した場合、年間最大収入(毎月毎時間フルに100kWのDR資源が周波数調整に使用された場合)として下記の合計値$17,877を得た。

1月分:$1.341 × 24 × 31 = $998
2月分:$1.189 × 24 × 28 = $799
3月分:$1.261 × 24 × 31 = $938
4月分:$1.301 × 24 × 30 = $937
5月分:$1.744 × 24 × 31 = $1,298
6月分:$1.491 × 24 × 30 = $1,074
7月分:$2.073 × 24 × 31 = $1,542
8月分:$1.586 × 24 × 31 = $1,180
9月分:$1.442 × 24 × 30 = $1,038
10月分:$3.980 × 24 × 31 = $2,961
11月分:$4.271 × 24 × 30 = $3,075
12月分:$2.739 × 24 × 31 = $2,038
年間合計:$17,877

※ 容量市場と同様、これはPJMが支払う額であり、実際にはCSPとこの収入をシェアすることになる。

※ 実際には一日24時間、絶えず周波数調整が発生する訳ではないので、収入額自体は、上記の値より小さい

※ 容量市場に提供する100kWのLMRの支払額が4ケタであるのに対して、周波数調整市場に提供する100kWのDR資源への対価は(提供頻度の差もあるが)5ケタと、1ケタ大きいことがわかる

5.3 PJMの予備力市場での収入計算

 瞬動予備力市場の実績と収入計算

以下には、Monitoring Analytics社のレポート「2012 State of the Market Report for PJM Volume2:Detailed Analysis」から中部大西洋岸地域での2012年瞬動予備力市場の平均決済価格(Weighted Synchronized Reserve Market Clearing Price:RMCP)を示す。

表.8 2012年度月間平均瞬動予備力市場調達結果

出所: Monitoring Analytics社の「2012 State of the Market Report for PJM

PJMでは、予備力不足となると、まずTier 1(第一段階)として、系統接続されている資源で予備力を提供する余裕がある資源から予備力を確保。それでも制御地域ごとに定められた予備力量に達していなければTier 2(第2段階)として、このSynchronized Reserve市場から追加調達されるので、全瞬動予備力調達量に占める割合は5%程度ではないかと思われる。
したがって、中部大西洋岸地域のある需要家が100kWをSynchronized Reserve市場に投入した場合の収入は、$350程度ではないかと思われる。これは、容量市場へ100kWDR資源を提供する場合より1ケタ小さい数字となっている。

1月分:$0.625 × 24 × 31 × 0.05 = $23
2月分:$0.537 × 24 × 28 × 0.05 = $18
3月分:$0.655 × 24 × 31 × 0.05 = $24
4月分:$0.662 × 24 × 30 × 0.05 = $24
5月分:$0.824 × 24 × 31 × 0.05 = $31
6月分:$0.425 × 24 × 30 × 0.05 = $15
7月分:$1.492 × 24 × 31 × 0.05 = $56
8月分:$0.563 × 24 × 31 × 0.05 = $21
9月分:$0.572 × 24 × 30 × 0.05 = $21
10月分:$1.615 × 24 × 31 × 0.05 = $60
11月分:$1.144 × 24 × 30 × 0.05 = $41
12月分:$0.506 × 24 × 31 × 0.05 = $19
年間合計:$353

 運転予備力市場の実績と収入計算

以下には、Monitoring Analytics社のレポート「2012 State of the Market Report for PJM Volume2:Detailed Analysis」から中部大西洋岸地域での2012年運転予備力市場の平均決済価格(Day-Ahead Scheduling Reserve Weighted Average Clearing Price:DASRMCP)を示す。

表.9 2012年度月間平均運転予備力市場調達結果

出所: Monitoring Analytics社の「2012 State of the Market Report for PJM

運転予備力調達価格は、6、7月を除くと$1/MWh以下で、Synchronized Reserve同様、それほど頻繁に調達されるとは思われないので、収入計算を行うまでもなく、それほど収入は見込めないものと思われる。

以上、今回はPJM市場に100kWのDR資源を提供した場合、2013年度の容量市場取引実績及び2012年度アンシラリー市場取引実績データを元にどれだけの収入が得られるのか計算した結果をご紹介しました。

収入計算では、PJMにDR資源を提供するなら、周波数調整市場、容量市場、予備力市場の順で考えるのが良いという結論が得られましたが、冒頭で指摘させていただいたように、

• DRシグナルを受けてから負荷削減を行えるまでの応答特性、
• 継続してDR資源を提供できる時間、
• (特に早い応答特性が求められる周波数調整市場にDR資源を投入する場合は、自動DRが必須となるので、そのための)システム投資額、
• 系統運用者や電力会社から自動DR導入に際しての奨励金等が出るのかどうか、
• そして何よりもDRイベントの頻度が需要家の主要業務にもたらす影響度合い

などを勘案して、どの市場にDR資源を提供するか(しないか)という判断を行うことになるものと思われます。

また、今回は、PJM市場での取引実績データを元にして収入計算を行いましたが、米国内でも例えばテキサス州ERCOTの取引実績データで計算すると異なった結果が得られる可能性がありますので、ご注意願います。

終わり