Lytham Windmill Museum

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以前、このブログの「スマートグリッドとHAN」で、ホームエネルギー管理(HEM)ツールの提供メーカーとしてOpowerをご紹介したことがありました。それは、greentechgrid:のEric Wesoff氏の2011年7月11日の記事に基づくものでしたが、その記事によると、当時のOpowerの位置づけは、以下の通りです:

Opowerは、電力、ガス、水道などの利用データを集約して請求するソフトウェアで公益事業者の業務を支援している会社で、ホームエネルギー管理の装置やサービスの分野では、まだ実績がありません。 しかし、ホームエネルギー管理のための装置の提供を検討しており、今後、Tendrilと同様の公益事業会社にフォーカスしたホームエネルギー管理プレーヤーと真っ向から競合する可能性があります。

それから2年以上たった現在、Opowerはどう変貌したでしょうか? この9月11日付のgreentechgrid:の記事として、ちょうどStephen Lacey氏がOpowerを取り上げていましたので、今回は、その記事をご紹介します。
原文は、「Is Opower About to Reinvent Residential Demand Response?」です。

例によって、独自の解釈および補足/蛇足/推測が混じっているかもしれないことをご承知おきください。

では、はじめます。

Opowerの行動型デマンドレスポンスは、家庭向けDR市場を”再創造”するか?

Stephen Lacey  2013年9月11日

Opowerの共同創立者であるAlex Laskeyは、TED Talkで効率に関する彼の哲学を披露した:

我が社は、過去5年間、世界で最大の行動科学実験を実施してきました。その中で、消費者に自己消費したエネルギー量が近隣の家庭と比べてどれほど多いかというごく基本的な情報を与えると、消費者はエネルギー消費量を削減することがわかりました。

そして、その発見を、経営戦略として採用したのが功を奏し、2007年以来、我が社は、85の電力会社と契約して、それらの会社の顧客に紙やWebベースで上記のような基本的な情報を通知することにより、2TWh (200万kWh)以上の節電に成功したのです。 そして今、我々は、”行動型デマンドレスポンス”という、更に広範で動的な要素を、実験に加えようとしています。

行動型デマンドレスポンス(“Behavioral” Demand Response):これは、消費者への自己消費エネルギー情報提供の延長線上にあるもので、考え方としては別に目新しいものではありません。違いは、消費者の電力メーター計測データを1か月分まとめて分析し、その結果を情報提供するのではなく、スマートメーターから送られてくるデータをどんどん取り込み、ピーク需要に関する警報(カストマイズした信号)を電話やメールで消費者の元へ送る点です。 すなわち、スマートメーターから送られてくる膨大なメーターデータ、いわゆるビッグデータをバックエンドで分析し、消費者に必要な情報を提供するという、ごく単純な通信の仕組みを新たに導入したにすぎません。

今朝、我が社はボルチモア・ガス・アンド・エレクトリック(Baltimore Gas and Electric:BGE)と、この行動型DRの展開に関しての提携を発表しました。

Opowerのマーケティングの上級副社長Roderick Morrisも、以下のように述べている:

我が社は、BGE管内で今後3年間にわたり4000万回このような通知を行うことになるでしょう。この夏、OpowerはBGEの顧客に対して3回、この行動型DRイベント通知を行いました。詳しい結果は申し上げられませんが、この行動型DRの実験は成功し、もし全国レベルで行動型DRが普及すれば、家庭向けDRによる負荷削減可能量は現状の20倍、DR実施のためのkWh当たりのコストは40%削減できることが分かりました。我々は、今、家庭向けDR市場を”再創造”したと感じています。

2015年までにBGE管内の全家庭にこのサービスを提供できるでしょう。何のハードウェアも設置しないでDRによる負荷削減が可能となるのです。

Opowerの主張は、以上の通りだが、現時点で家庭向けDR市場を”再創造”する必要が果たしてあるのだろうか?

従来、家庭向けDRプログラムは、慢性的に参加者不足に悩んできた。また、たとえ、ある電力会社の管内で、ピーク時間帯における一般家庭の電力需要が占める割合が大きい場合でも、系統の需給ひっ迫時に、それらの一般消費者に負荷削減を求めても協力してもらうのは困難だった。

FERC(連邦エネルギー規制委員会)の2009年の報告書「A National Assessment of Demand Response Potential」によると、”通常シナリオ”(今後10年DRプログラムの伸びは現状維持と仮定)の下では、2019年時点で家庭向けDRプログラムに参加する消費者は全体の5%と予測している。

しかし、それは4年前にまとめられた報告書である。その後、いろいろな会社がこの家庭向けDR市場開拓に挑んだ結果、家庭向けDR市場の「通常シナリオ」は、4年前と変化しているように見える。 その変化の1つは、Comcastのようなケーブル会社、Vivintのようなホームセキュリティ会社、Nest Labsのような新進気鋭のスタートアップ会社、およびComverge、Honeywell、Schneider Electricのような従来のエネルギー会社がこぞって、自動DRに対応するためスマートサーモスタットを用意し、電力会社と提携して消費者向けの新たな自動DRサービスを構築してきたことである。そして、 このハードウェア(=スマートサーモスタット)に基づいた戦略は、良い結果を産み出している。例えば、この夏、テキサス州の電力会社のAustin Energy管内では、Nest Labsが、スマートサーモスタットを用いた家庭向けDRプログラムを展開し、89%のDRプログラム参加率を達成、エアコンの需要を56%削減することに成功したと報告している。その他の電力会社でも、新たにスマートサーモスタット中心のDRプログラムを展開している。

実は、Opower自身も、Honeywellと提携して、自社ブランドのスマートサーモスタットを提供しているが、この会社は、ハードウェア投資の必要を完全になくすことにより、更に多くの顧客が家庭向けDRプログラムに参加できると考えた。 Roderick Morris副社長の話に戻ろう:

私たちは、スマートサーモスタットのようなハードウェア中心の考え方を捨てることで、家庭向けDRプログラムへの参加率を改善できると考えています。 もし、この夏BGEでの実験で大きな成果を得ていなければ、このようなアナウンスはできなかったのですが、実験の結果を見て、「これはいける」と確信しました。実験の結果、”流れが変わった”と信ずるに足る十分な情報を得たのです。

行動型DRでは、DRプログラムを実施するに当たって、装置の設置などの事前準備を必要としないので、どの電力会社の管内でも直ちにサービスを開始。仮想ピーク電源ができあがるのです。

さて、Opowerの目論み通りにビジネス展開できるのか、ここは、この新たな電力会社向けソリューションの行方を見守ろうではないか。

2011年時点でのgreentechgrid:の予想通り、Opowerはスマートサーモスタットを使ったDRプログラムを支援するビジネスにも手を付けましたが、更に一歩進んだ?DRプログラムの支援を目指している-というのが、今回の記事の内容でした。

米国でのDRの定義としては、CPPのような価格反応型DRであれ、DLCのようなインセンティブ型DRであれ、「何らかの経済的な見返りのもと、需要家が系統運用者等DRプログラム提供者の要請に従って需要パターンを変更する」というのが一般的ですが、Opowerが説明している行動型DRでは、(需要を削減することで、節電分の電気代は安くなりますが)負荷削減分に対する見返りなしに負荷削減が実現する-と言うことなので、新たなタイプのDRということになります。

※弊ブログ「FERCのDR評価レポート-その3」の後書きの中で、『2012年の夏、電力会社の節電要請にマスコミも協力し、何の対価も期待しないで一般家庭が節電に協力したのも、「2012年型日本版DR」ということがいえるのではないでしょうか?』と述べましたが、これも行動型DRの分類に入りますね。

このOpowerのビジネスモデルを数式もどきで表現すると:

行動型DRスマートメーター + ビッグデータのアナリティクス + パーソナライズメッセージ

となります。
自動DRを実施するためには需要家側にもDRクライアントのハードウェアが必要ですが、行動型DRではそのような設備の購入・設置も必要ないので、需要家側にとっては初期投資コスト不要、リスクフリーのDRプログラムです。

なんだか、うますぎる話ですが。。。

最後に、本件に関するOpowerのビデオをご覧ください。

 

終わり