Gibraltar Mill, Great Bardfield (listed building)

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本ブログシリーズ「DRはどこへ向かうのか」では、2011年10月、米国エネルギー省(DOE)エネルギー効率化・再生可能エネルギー局(EERE:Office of Energy Efficiency & Renewable Energy)および配電・エネルギー信頼性局(OE:Office of Electricity Delivery and Energy Reliability)が共同開催したワークショップのレポート「Load Participation in Ancillary Services WORKSHOP REPORT」(以下、単に「レポート」と略称)内容を編集してご紹介しています。
前回は、レポートの3.1節「Existing Experience」から、米国におけるDR資源のアンシラリーサービス(AS)への適用動向の部分をご紹介しました。
以前にも一度、国際環境経済研究所 竹内純子氏の『乾いた雑巾はまだ絞れるのか?』のお話を引用させていただきましたが、日本は「乾いた雑巾」に例えられるように、これまで十分に省エネに取り組んできており、エネルギー消費削減余地は乏しいとよく言われる。しかしながら、現在でも1981年以前に建設された事務所ビルが相当数存在し、それらの多くが十分な省エネ対策を施していない可能性を考慮すれば、大きなエネルギー消費の削減余地があるということなので、日本でもそのようなDR資源をASに適用できるのではないかと思います。
また、Enbala社の事例は、あらかじめ、例えば製造プラントで、各工程の電力使用に関する制約条件をすべて洗い出した上で、それらの制約条件を満たす範囲でいくつかの設備機器の運転時間をずらすなどして、生産量に影響のない範囲でDR資源を生み出し、ASに適用しようとしています。
Enbala社の方に直接伺う機会があったのですが、日程計画(PART)で、ある工程を最早開始日ではなく、最遅開始日から始めるように調整するイメージでした。また、これ(製造工程を微調整することでDR資源が生み出せること)を彼らはプロセスストレージ(製造工程の中にある仮想の蓄電池)をDR資源として利用するのだというように表現していました。

さて、今回は、同レポートの3.2節「Future Ancillary Service Requirements」及び3.3節「Characterizing Demand Response」部分をご紹介します。
例によって、全訳ではなく、超訳です。独自の解釈および補足/蛇足/推測が混じっているかもしれないことをご承知おきください。文字色=緑の部分は、筆者のコメントです。
では、はじめます。

 今後のアンシラリーサービスに関する要件

ワークショップでは、参加者からアンシラリーサービス(AS)に対して多くの懸念や、疑問(とりわけDR資源をASに適用するにあたっての疑問)が呈された。
例えば、以下のような疑問である:
1)再生可能エネルギー大量導入は、ASにどう影響するのか?
2)DR資源はASへの適用にあたってどれほどのポテンシャルを持っているのか?
3)DR資源のAS市場への参加は、市場そのもの、およびAS調達価格にどう影響するのか?
以下では、これらの質問に関してワークショップで行われた議論の結果を紹介する。

再生可能エネルギー大量導入がもたらす影響

風力発電や太陽光発電のような出力変動の大きな再生可能エネルギーが系統に接続されればされるほど発電計画に対する変動要素が大きくなり、より大きな周波数調整力が必要とされるようになる。
カリフォルニア州の系統運用者であるCAISOは、同州において供給力に占める再生可能エネルギーの割合が33%に達すると、周波数調整力を現在の2~4倍用意する必要があるとみている。西部系統(WECC)は、需給バランスにおける周波数偏差許容度の緩和を検討中で、それにより、必要となる周波数調整力増大を最低限に食い止めることを検討している。
予備力に関しては、通常、系統内の最大規模の電源が緊急事態に陥った場合を想定して必要量が確保されるので、1基当たりの設備容量が原発などに比べて小さな再生可能エネルギー設備の増加に対しては、特に影響はない。
なお、もう1つ、再生可能エネルギー導入のASにもたらす影響がある。それは、風力発電や太陽光発電のRampに関するものである。
※太陽光発電や風力発電の出力変動は、大量に導入されるほど電力系統の電力品質面、特に周波 数に大きな悪影響を与える。Rampとは、低気圧 の通過など天候の変化により再生可能エネルギーの出力が突然大きく変動することを指す。
参考:NEDO再生可能エネルギー技術白書第9章「系統サポート技術 - 9.2.2.4 発電出力予測」(58ページ)

下図はERCOT管内で起きた合計10GWに達する風力発電のRampイベントの状況を示したものである。

この図の例では、多くの風車が広いエリア内に散在しているため、Ramp特有の急激な出力変動とはならない代わりに、数時間にわたって大きく出力が変動している。このケースでは、周波数変動への影響も少なく、瞬動予備力の増強を行う必要はないが、発電計画段階では予期しえなかった緩やかで大きな出力変動の発生に対してリアルタイム市場側での対応が必要となるかもしれない。あるいは、このような大規模なRampの発生は稀なので、偶発事故と同等とみなし、予備力の増強で対応すべきなのかもしれない。
米国中西部の系統運用者であるMISOとCAISOは、このような風力発電のRampに対応するため、新たなASを検討している。
なお、米国ではまだあまり大規模な太陽光発電のサイトはないが、太陽光発電は、風力発電以上にRampが発生しやすい再生可能エネルギーである。

DR資源のポテンシャル

ワークショップ参加者は、次にASに適用するDR資源の技術的なポテンシャルについて議論した。
参加者のうち、系統運用者およびDRアグリゲーターは、DR資源が最低どのくらいあれば、ASに適用するのに十分かに関心があった。
実用的な市場運営ルールを定めるにあたって、技術的に中立を保つのは、非常に難しい。既存のAS市場のルールは、電源を利用することを前提としていたがゆえに、意図せずDRのような新技術の参入を妨げているかもしれないからである。
また、市場制度、市場決済システムは複雑なので、DR資源がAS市場にとって重要な役割を果たせるかどうか明らかでない段階で、AS市場へのDR資源の参加を促進するために制度・ソフトウェアに手を加えることは賢明ではないと考えていたからである。
更に、ASに適用するDR資源として、どのような負荷が良いのかを整理する必要があった。
そして、DR資源に従来の電源と異なる時間的制約があるとすれば、それは何か、それはASに適用するにあたって電源より有利か、不利かを理解する必要があった。
以下は、DR資源のAS適用に関する技術的なポテンシャル検討結果である。

•  瞬動予備力および周波数調整力市場に参加するDR資源は、ADR、すなわち自動的に提供するDR資源が制御できる技術を使用する必要がある。

•  そして、制御対象となる負荷は、ASに適用するにあたって、瞬動予備力、周波数調整力それぞれが必要とする可用性の要件を満たす必要がある。

•  負荷が、様々な状況(期間および運転条件)の下でDR資源としてどれだけ提供できるのか、信号を受けてからどれくらい速く負荷の量を変更することができるか(latency)、信号に応じて電力消費量を変更できる範囲と変更速度(rangeとramp-rate)、それらすべてから、負荷が提供することができるDR資源量が決まる。

下表は、DR資源を提供する需要家クラスごとに、瞬動予備力および周波数調整力のAS市場への適用試験等で有効なことが立証された、あるいは、テストされていないが利用可能であると予想される負荷の例ある。

負荷の物理的な限界と運用上の問題点を整理・認識して、AS側の応答条件に合致すると同時に、提供されたDR資源量を正しく計測しうるか検討することが、当該負荷をDR資源としてASに適用できるかどうかの判断のキーポイントとなる。

DR資源がAS市場に参加する影響

•  ASに適用するDR資源の特徴

ASに適用するDR資源の技術的なポテンシャルを整理したが、DR資源の提供に要するコストを明確にすることも、同様に重要である。
DR資源のASへの適用に要するコストの特性は、電源をASに適用する場合のコストとは全く異なっている。
電源をASに適用する場合、提供継続時間が長くなっても提供コストは通常変わらないが、DR資源の場合、提供持続時間が長くなるとASへの適用単価($/MWh)が劇的に増加することが多い。
一方、電源をASに適用する場合、提供開始(電源の始動や、指定の出力レベルに達するまでに要する)コストがかかるが、DR資源では、通常そのようなコストはかからない。

提供頻度も問題となる。特に一般家庭のエアコンを対象としたDR資源の場合、ピーク負荷削減目的で年に数回数時間のDR資源提供では問題なくても、真夏に、頻繁に、あるいは長時間DR資源をASに適用しなければならないとすると、DR資源提供者は減少するだろう。大口需要家(例えばアルミ精錬工場)からのDR資源提供の場合でも、限られた時間のDR資源提供には応じられても、あまり長時間DR資源を提供するとDR資源を提供する設備の破損を招きかねない。

いずれにしろ、DR資源は、長時間継続することが必要なASのタイプには向いていないことが分かる。

•  ASに適用するDR資源のコスト

次に、DR資源をASに適用する場合のコスト発生源を考えてみよう。
DR資源のAS適用コストの大半は通信・制御装置の資本コストだが、ASのタイプによっては、リアルタイム遠隔測定の要件が厳しく、それが提供コストを上昇させる。
それ以外にも、DR資源をASに適用する場合のコストで、計算が難しいものがある。例えば、ある設備を周波数調整力や瞬動予備力に適用するDR資源として運転するということは、その設備が本来の使われ方以外の使われ方をするということである。それが、設備の寿命に影響したり、より頻繁に保守を行う必要が生じたり、設備を効果的・効率的に運用するためコストがかかったりする可能性がある。更に、DR資源を提供する設備の設計仕様から外れた使い方となっているために、設備の故障発生時に製品保証対象外となる可能性もある。

•  ASとして提供されるDR資源量の予測

ワークショップでは、ASとして提供されるDR資源量をどのように予測するかについても議論された。系統運用者にとって、実際どれほどのDR資源がASとして提供されたのか判断するのは非常に難しい。ワークショップでは、この予測問題を、DR資源という仮想電源のモデル化の問題に置き換えて、議論を進めた。
DR資源がAS市場に参加する場合、通常1日前市場、場合によっては、2日前にどのASタイプに参加するかの入札が行われる。入札情報には、DR資源を提供する時間帯、どのタイプのASか、指示された量のDR資源提供実施に必要な応答性(MW/分)および、DR資源提供量(MW)である。この入札情報を提示するためには、DR資源提供日に2つの負荷予測を行わなければならない。
すなわち、AS市場にDR資源を提供する場合と、提供しない場合の2種類の日負荷曲線の予測である。
日負荷曲線の予想には、天候条件や予測対象需要家タイプに従った典型的な消費パターン等が用いられる。ASへのDR資源提供量は、こうして予測したASに参加しない場合の日負荷曲線予測と、ASに参加した場合の日負荷曲線予測のギャップを計算することによって割り出される。
DR資源提供量の確度は、負荷自体の性質、負荷制御アルゴリズム、複数のDR資源を集約する仕方など、さまざまな要因に左右される。その結果、DR資源提供者側も、DR資源の提供を受ける側も、契約通りDR資源を提供できたか/提供されたか正確に計測することは非常に困難である。
この問題の現実な解決策として、DR資源提供者側とDR資源需要者側は、まずASに参加しなかった場合の日負荷曲線である「ベースライン」の計算ロジックについて合意する必要がある。通信制御技術・計測技術の進歩と相まって、リソースモデリング・アルゴリズムの進化により、まだまだ不完全ではあるものの、DR資源提供量予測は次第に正確になりつつある。

以上、今回は、このブログシリーズでフォーカスしているDRの今後の方向性、すなわち、アンシラリーサービスへの適用要件について、ワークショップで議論された内容をご紹介しました。

終わり