Hassendean from the col, Minto Hills

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「DRはどこへ向かうのか」のブログシリーズはまだ完結していないのですが、本日はKNXの話題をご提供したいと思います。

KNXはISO/IEC 14543-3の国際標準となっています。したがって、その国際標準で規定されたプロトコルに従って各メーカーが製品を作れば、異なる製品ベンダーのデバイスを自由に組み合わせても、うまく繋がるはず。。。
ですが、現実的には、なかなかそううまくはいきません。
例えば、元いた会社でCORBAという分散オブジェクト基盤の開発に携わったことがあるのですが、CORBA2.0の仕様書通りに開発したとしても、細部で実装依存の部分が出てきてしまいます。仕様書では、コーディングレベルではじめて明らかになる、複雑な条件が重なった場合の振る舞いまでは規定されていないからです。その結果、異なるメーカーが開発したCORBA2.0準拠の分散オブジェクト同士がいつも正しく“会話”できるかというと、なかなか難しいものがあるのではないかと感じました。いわゆる相互運用性の問題です。

そこで、相互運用性を確保するために認証機関を作って、テストラボで、規定されたすべてのテストケースで想定通りの振る舞いを行うことが確認できたら、「認定された証」として、その標準団体のロゴを製品に付けることが許される(ロゴのついた製品同士は相互運用性が保証される)
というのが、現在の一般的な流れで、例えばZigBee、OpenADRもそうですが、KNXでも同じ仕組みをとりいれています。

ただ、ここで問題となるのは、もし多くの製品ベンダーが大挙して認証を受けようとしたら、認証処理がボトルネックとなる可能性があることです。
認証待ちのせいで、せっかく開発した製品をいち早く市場に出せず、競合他社に先を越されて、いざ認定を受けて市場投入した段階ではすでに勝負がついていた-というようなことがないように、KNXでは2つの対応を行っています。

1つは、認定処理の中で時間を要するテスト工程を、KNX協会自身で行うのではなく、KNX協会が定めた要件を満たすテストラボに委託していて、現在、独仏伊中国に合計10のテストラボがKNX製品の相互運用性確保のためのテストを行っています。
製品ベンダーは、KNX協会に認定登録依頼を行うと同時に、上記のいずれかのテストラボに製品を持ち込んでテストを依頼し、そこが発行したテストレポートをもとにKNX協会では認定証発行を行います。
しかし、KNX協会に所属する製品ベンダーは300社以上に達しているので、5つのテストラボでもさばききれず、結果として認証が完了するまで半年くらいかかることもあるようです。
そこで、KNX協会では、2番目の対応策として、KNX協会に認定登録依頼をした時点で、いわゆる「特許申請中」というのと同じ扱いだと思うのですが、KNXロゴを付けて市場に出してよいことにしています。もちろん、結果としてテストで不備が見つかり認証が受けられなかった場合、売れてしまった製品はベンダー責任で回収しなければなりません。また、KNX協会側としてもそのような回収作業が頻発してKNX製品のユーザに迷惑がかからないよう、KNX製品認定を受けるベンダーはISO9001を取得しているか、あるいはKNX協会自身が出向いて、製造工程に問題がないかどうか等を監査して監査にパスしなければ製品登録を受け付けないようにしています。

更に、相互運用性確保を確かなものとするため、KNX協会ではKNXデバイス開発者、KNXデバイスを組み合わせて住宅やビルの設計・施工を行うインストーラ(Installer:日本では、建築設計事務所での作業に相当するでしょうか?屋内配線の実作業を行うだけでなく、どのようなセンサーやスイッチを使ってどのように室内/建物内の照明等を制御するかの設計も行う職種を指しています)および上記のテストラボで、KNX協会が開発・提供するエンジニアリングツールETSの使用を義務付けているのです。
ETSの機能を一言で言うのは難しいのですが、KNXデバイスはすべてインテリジェントな装置で、内蔵するメモリに、当該デバイスの振る舞いを規定するいわゆるアプリケーションプログラムや、どのデバイス(例えばスイッチ)とどのデバイス(例えば明るさの調整機能付きの照明機器)が論理的にリンクしているか等の情報を持つことができ、ETSを用いることで、それらの情報を個々のKNXデバイス側に設定(=install)することができます。

1)製品ベンダーは、開発したアプリケーションプログラムをETS用に用意し、
2)テストラボではETSによってその情報をKNXデバイスに設定し、他のKNXデバイスとのリンク設定などもETSで行ってテストを行い、
3)実際に住宅やビルの配線設計にもETSを使ってもらう
ことで、ETSは相互運用性確保に一役買っています。
また、製品ベンダーは、新製品のKNXデバイスのETS情報をホームページで公開するので、住宅・ビル設計者はいつでも最新のKNXデバイスを使って設計を行うことができます。

更に、KNX協会では、相互運用性を含め、KNXデバイス開発者がKNXプロトコルに準拠した高品質の製品を作り、また、住宅・ビル設計者が、そのようなKNXデバイスをうまく使いこなすためにはKNXのプロトコルだけでなく、現在市場に出ているKNXデバイスを組み合わせればどのような応用が可能かの教育が非常に大事であると考えています。
そこで、KNX協会では、KNXデバイスを使いこなすためのKNXの基礎コース/アドバンスコースのコースマニュアルを用意しています。そればかりでなく、KNXの基礎の基礎であるバスシステムやKNXのプロトコルが規定しているデータ形式の説明、KNXが採用しているマイクロコントローラやアプリケーションプログラムの仕組みから本日ご紹介した認証スキーム、チューターがKNX基礎コース/アドバンスコースでカバーするべき内容と最低限必要な時間配分までが記載されたKNXチューターコースマニュアルが完備されています。
KNXチューターコースを受け、試験にパスすると「KNX Certified Tutor」としてKNX基礎コース/アドバンスコースを教える資格が与えられます。

そして、KNX Certified TutorからKNX基礎コースの教育を受け、関連する筆記試験およびETSの使い方の習熟度を見るための実地試験に合格すると、KNXパートナーという資格が得られます。

実は年明け早々、1月5日からKNX協会の本拠があるベルギーのブリュッセルに来ており、今週、ブリュッセルの北方St.-Katelijne-WaverというところにあるThomas MoreカレッジでそのKNXチューターコースを受講し、試験に合格して、KNX Certified Tutorの資格を得ることができました。ベルギー人2人、トルコ人2人と一緒にKNXチューターコースを受講したのですが、トルコから来ていた方の話によると、大学生時代に授業の一環でKNXによるオートメーションの勉強をした際、KNX基礎コースを受けてKNXパートナーとなっていたので、就職は非常に有利だったとのことです。トルコでもKNXは良く使われているようで、現在KNX製品も製造している会社に勤務しており、社内のKNX技術者の人口を増やすためチューターコースを受けに来ているとのことでした。

KNX製品は、現在のところ230Vのヨーロッパ仕様のものが多いので(一部Siemensの米国向け110V仕様のものもあるようですが)、私自身は、日本にKNX Japanが設立されても、すぐには100V用の製品が出そろわないし、まずはビル制御に使われる可能性があるのではないかと思っています。
そして、それよりも、現在住宅やビルに使われている部品(スイッチやセンサー類)や設備(照明器具、シャッター、空調等など)を製造している日本の企業で、KNXが標準採用されているような国への輸出を検討しておられるところがあれば、KNX製品をラインナップに加えるお手伝いができるのではないかと考えています。

以上、今回はKNXの相互運用性に関連してお話ししましたが、相互運用性の確保に関連したKNXの取り組みは、今まで自分が見たなかで一番進んでいると思います。
日本発のECHONET Liteが今後世界に羽ばたくためには、相互運用性に関するKNXの先行事例が参考になるのではないかと思い、ここにご紹介した次第です。

終わり