The Parterre at Waddesdon Manor

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前回は、トランザクティブエネルギー(Transactive Energy:TE)を取り上げました。

「トランザクティブエネルギー」という用語も、まだ「TE」という略語で市民権を得るほどは普及していず、GOOGLE検索しても該当するものが見つかりません。そもそも「transactive」という言葉は、明らかに造語で、手元の辞書では見当たりません。

「act ⇒ active」と同じ意味合いで、「transact ⇒ transactive」という造語が生まれたのだと仮定し、英英辞典を引くと「active = engaged in action」なので、「transactive = engaged in transaction」となります。また、インターネット上では、唯一weblioでこの言葉の意味を解説していました。

Transactive 形容詞 出典:Wiktionary
Of or pertaining to exchanging or trading.

これらから、transactiveとは「取引/交換に関与/関係」している様子を示す言葉ということがわかります。

一方、「トランザクティブ」というカタカナでGOOGLE検索すると、500件弱もヒットし、その大半が「トランザクティブ・メモリー」に関するものでした。
日本の人事部の解説」というホームぺージによると:

「トランザクティブ・メモリー」(Transactive memory)とは、1980年代半ばに米ハーバード大学の社会心理学者、ダニエル・ウェグナーが唱えた組織学習に関する概念で、日本語では「交換記憶」あるいは「対人交流的記憶」「越境する記憶」などと訳されます。組織学習の一つの側面である組織の記憶力(経験によって学習した情報の蓄積)において重要なのは、組織全体が「同じ知識を記憶すること」ではなく、「組織内で『誰が何を知っているか』を把握すること」である、という考え方です。英語でいえば、組織の各メンバーが「What」よりも「Who knows What」を重視し、共有している状態を指します。

となっており、そういえば、そんな話を聞いたことがあった-と思い出しましたが、TEとは全く関係がありません。

唯一「トランザクティブ」でヒットしたのは、2011年12月2日開催された『NEDO省エネルギー技術フォーラム2011』でIBM久世氏が発表されている資料で、その7ページ目に

トランザクティブ・コントロール:– 電力網全体で均一なインセンティブ信号とフィードバック信号を使用して、複数の目的と制約条件(経済と運用の両方)を満たす柔軟な制御方法(アルゴリズム)として紹介されています。

IBMでは、DR実現に向けた技術要素の1つとして、2010年当時からTEに興味を持っていたようです。

さて、前回ブログに貼りつけておいたSlide shareはご覧いただいたでしょうか?
TEについていろいろ言葉でご紹介するより、見ていただいた方が早いと思ったので、そうしたのですが、少し振り返ってみましょう。

  2ページ目:TEのビジネスモデル

•TEで取り扱う商品は2つあり、エネルギー(電気)とトランスポート(送電)である
•TEの「取引」への関与は自律的に行われる
•先物取引は、投資と経営リスクのコーディネーションに用いられる
•スポット取引は系統運用の意思決定のコーディネーションに用いられる

  3ページ目:TEのアドバンテージ

これは、前回の説明部分にもありましたが、TEの採用で、より効率的、より公正、そして、より透明な電力系統を構築することができると言っています。

  4ページ目:今日、電力系統は大きな変革の時期を迎えている

ここも、前回説明した部分にありましたが、ロッキーマウンテン研究所エイモリーロビンス所長の写真付きで、現在の系統制御技術が、次々の登場する技術革新への対応で四苦八苦しているとしています。

  5,6ページ:現在および2020年の電力系統

従来の発電⇒送電⇒配電⇒顧客への一方通行モデルから、新たなステークホルダも加えて双方向に電気が流れるモデルへの変貌が示唆されています。

  7ページ目:TEのプロセス

従来のように発電事業者と大口需要家だけでなく、一般家庭までが先渡市場及びスポット市場で電力入札を行い、その入札結果に基づき、トランザクションションとして送配電が実施される、TEのプロセスの基本的なイメージが示されています。

  8ページ目:2つの商品

消費者の場所で電気が使われるためには、別の場所にある電気エネルギーという商品と、トランスポート(送配電)という商品が合わさって初めて有効となるので、商品ごとの売買成立ではなく、それらが一体となった「取引」がトランザクションとして実施される(どちらか一方が成立しなければ「取引」は成立しない。)必要があります。

  9,10ページ目:従来の系統運用モデル

従来は、電力供給側の投資・運用最適化の観点から、系統運用が行われてきました。容量市場は、一種の先渡取引であり、発電事業者は、その先渡取引で系統運用者あるいは大口値需要家と契約を取り交わすことで投資リスクに対応してきました。

  11ページ目:TEビジネスモデル

今後、系統への投資、系統運用への判断は、供給者・消費者両方が、それぞれ先渡市場あるいはスポット市場入札の形で実施されます。

  12ページ目:TEシステム移行後の、消費者の省エネ投資のキャッシュフロー

この部分は、まだ未消化で良くわかっていません。

  13,14ページ目:TEによる消費者の電力利用事例

1) 消費者の電力利用パターンに従って、先渡取引で毎日毎時間の電力購入量を定め、それを基本料金とするような契約を電力会社との間で取り交わす(=先渡取引)
2) 各時間帯で、この先渡取引で規定された使用予定電力量より電力使用が少ない時間帯では、その時間帯のスポット価格に基づいて、少なかった分の払い戻しを受ける
3) 各時間帯で、この先渡取引で規定された使用予定電力量より電力使用が多い時間帯では、その時間帯のスポット価格に基づいて、多かった分追加で支払いを行う
4) 消費者の都合で、1)での予定より電気を使いたい/減らしたい場合、スポット市場での売買で調整する。

  15ページ:TEシステムの要となるトランザクションプラットフォームプロバイダーを中心としたステークホルダの関連図

  16ページ:TEを実現する上での3本柱

1) プロトコル:TeMix(後述)
2) コネクション:人、モノ、データ
3) システム:物理的に電力送配電を行うシステム、トランザクションシステム、制御システム

  17ページ:TeMix

TEプロセスを定義するOASISのEIサービスと、TEでやり取りする情報を定義する同じくOASISの電力市場情報交換プロトコルEMIX(Energy Market Information Exchange)から、TEを実現するためのプロトコルTeMixが出来上がっている

  18~20ページ:TEサービスインタフェース

TEネットワークにつながるデバイスとトランザクションプラットフォーム間のインタフェースであるTEサービスインタフェースの概要と利用イメージ

  21ページ:トランザクションプラットフォームの実装イメージ

トランザクションプラットフォームは1階層ではなく、卸売市場プラットフォームと、小売市場プラットフォームから構成される

  22ページ:カリフォルニア州で実施しようとしているTE関連パイロットプログラム

  23ページ:従来の電力料金と、TEシステムに移行した場合の先渡取引での料金構成要素

   24ページ:TEの長所

• 技術革新を促進する
• 省エネ・効率化へのインセンティブ提供する
• 再生可能エネルギー、分散電源、マイクログリッド等を統合し、卸売/小売電力市場のコーディネートを行う
• 公正で透明性が高い

  25ページ:TEに関する詳細情報のありかとして、以下が示されています。

•  トランザクティブエネルギー協会(Transactive Energy Association:TEA
•  TeMix Inc.
•  LinkedIn Discussion Group

2014年6月2日現在、TEAの会員数は1241人(LinkedInのディスカッショングループにエントリーしているメンバー数です。私もメンバー登録しています)。

 

以上、今回はSlideshareのTE資料の内容をザッと解説してみました。まだ、しっかり理解できていない部分があるのですが、3-14ページの事例を見ると、消費者にとっての先渡取引というのは従来の電気料金のようなもので、消費者ごとにカストマイズした時間帯別電力メニューをあらかじめ先渡取引として申し込み(=subscribe)しておき、当日の過不足分をスポット市場で調整するという流れのようです。

次回は、他のTEの資料をベースに、別の角度から掘り下げてみたいと思います。

終わり