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FERCオーダー745に関する発電事業者等DR反対派から見たDRの問題点をまとめようとしていますが、なかなかまとまった時間が取れずにいます。
そうこうしているうちに、米国でトランザクティブ・エネルギーに関して新たな動きが出てきました。そこで、今回は、NISTのホームページから、米国におけるトランザクティブ・エネルギーに関する新たな動きをご紹介しようと思います。

例によって、超訳、筆者の思い込みが混入している段をお含みおきの上、ご覧いただければと思います。
では、はじめます。 

 

 NIST トランザクティブ・エネルギーのスマートグリッドに向けたモデリング&シミュレーションへの挑戦

 近年の再生可能エネルギー技術の利用増加は、従来の計画経済主義的な電力需給の仕組みの重大な欠陥を露呈させた。2013年12月、米国エネルギー省(DOE)内に設けられたGridwiseアーキテクチャー会議(Gridwise Architecture Council:GWAC)が公表したトランザクティブ・エネルギー(Transactive Energy:TE)のフレームワークは、この問題解決の可能性を秘めている。

GWACによるTEの定義は以下のとおりである:
TEとは、従来の計画ベースの電力需給システムではなく、電力供給者・消費者の「価値」を基準とし、経済主義的な制御メカニズムによって需給バランスを保とうとする、新しいアプローチである。

しかし、TEが再エネ大量導入に起因する系統問題解決の切り札となるかどうかはまだ確証が得られていない。そこで、この従来の電力供給の仕組みを代替する方式のインパクトを調査し、市場ベースで電力需給を取り仕切るシステムの実現可能性を技術開発者や政策決定者が評価するため、新たに企画されたプロジェクトの名称が、「Transactive Energy Modeling and Simulation Challenge for the Smart Grid:トランザクティブ・エネルギーのスマートグリッドに向けたモデリング&シミュレーションへの挑戦」である。(以下では、「TEチャレンジ」と略す)

TEチャレンジの目的と目標

TEチャレンジ・プロジェクトの1つの目的は、未来の電力需給システムを研究する研究者や企業だけでなく、現在電力ビジネスに携わっている、系統運用者、電力事業者その他の関係者に、新たな電力供給システムのモデリングとシミュレーションを実施するプラットフォームを提供することにある。
もう1つの目的は、再エネ大量導入で露呈した現在の系統制御メカニズムの問題解決にTEのアプローチを適用してみることである。
また、TEチャレンジの目標は、電力業界関係者が、TEを「非現実的」、「絵に描いた餅」として退けるのではなく、TEの可能性を理解し、実際にTEを試行してみようという気になってもらうことである。

これまでの経緯と今後のスケジュール

米国標準技術研究所(NIST)は、連邦政府関係機関や電力業界の一部と共同でTEチャレンジの構想を練り、2015年9月10日、晴れて公式にキックオフする運びとなった。
本WEBページは現在まだ作成中であるが、9月のキックオフに向けて、TE関連資料へのリンクや、本プロジェクトへの参加申し込みページの整備を進めている。

今後のスケジュールは以下のとおりである:

  • 2015年7月中:TEチャレンジのコンセプトを正式に発表し、本WEBページで必要な情報を提供。
  • 2015年9月10日:NISTでのチーム編成のキックオフ・ミーティングを実施。
  • 2015年12月:中間レビューと、チーム編成ミーティング
  • 2016年4月:第1回サミットEXPOの実施と報告
  • 2016年9月:第2回サミットEXPOの実施と報告

サミットでは、それぞれのチームが成果を発表する。ただ、TEチャレンジで予定される作業の中には、ゼロから始めなければならないものもあるので、1回目のサミットでの成果報告に間に合わない参加者のために2回目のサミットEXPO開催を予定している。

TEチャレンジのゴール

TEチャレンジの目指すゴールは以下のとおりである:

  1. モデリング&シミュレーション用のツール群の開発・拡張を行い、TEを評価するためのモデリング&シミュレーション・プラットフォームにまとめ上げる。
  2. 再エネ大量導入だけでなく、それ以外の系統の問題やシナリオにもTEベースのアプローチが、電力系統の信頼性を高め、効率を改善するのに有効であることを示す。
  3. モデリング&シミュレーション実施のための規範となるシナリオを開発する。
  4. TEを実現・進化させるために、共同で作業し、データおよびナレッジを共有する組織・個人を増やして、TEのコミュニティを成長させる。
  5. モデリング&シミュレーションの整備ばかりでなく、TEに関して、電力会社、規制当局および政策決定者との意思疎通を図ることで、 TEの実装・実証を成功させるための基盤を開発する。
  6. サミットEXPOの開催その他のメディアを通して、TEチャレンジに参加したチームが果たしたエキサイティングな成果を発表する情報提供の場を提供する。

TEチャレンジに参加していただきたい組織・個人

TEチャレンジは、TEに関して何らかの利害関係を持つすべての人・組織、特に、モデリング&シミュレーション・ツールの開発と、そのツールを利用したTEシステムの実証を推進できる学識者、電力会社、系統運用者、企業、政府の技術専門家、規制当局および職員を歓迎する。
なお、参加者の受ける恩恵として、以下を想定している:

  • 今後ビジネスを進める上での潜在的なパートナーを見つけることができる
  • 企業・個人が保有するツール、才能および能力をアピールすることができる
  • 企業・個人が実施した成果について貴重な評価・フィードバックを受けることができる
  • TEチャレンジに参加したことで、企業・個人が世間の注目を浴びることができる
  • 企業・個人の潜在的な顧客を見つけることができる
  • 企業・個人のリーダーシップ能力を顕示することができる
  • 企業・個人の持つ新たな概念の有効性を実証することができる

TEチャレンジ共同作業サイト

現在構築中のTEチャレンジ用共同作業サイトでは、以下の整備・提供を予定している:

  • ツールリスト(原文はTool Chest)

TEチャレンジを催行するにあたって、TEチャレンジ準備ワークショップが開催され、その中で、系統をシミュレーションする様々なモデリング&シミュレーション・ツールとプラットフォームが洗い出され、既にツールリストに登録されている。
これらのツールのいくつかは、TEベースの系統シミュレーション(や、共同シミュレーション)に役立つと思われる。
ツールリストに登録されたツールには、ツールの所有者のWEBサイトで提供されているツール説明に基づいた簡単な説明を付けてあり、興味があれば、個々のWEBサイトからより多くの情報が得られるようリンクをたどることができる。
TEチャレンジ参加者は、このツールリストに他のツールや追加情報のリンクを提供することができる。

  • データセット

ツールリストには、モデリング&シミュレーション・ツールの他に、シミュレーションに使える有用なデータセットへのポインターも含まれている。TEチャレンジ参加者から、利用可能なデータセットについての情報を提供することも歓迎する。

  • ベースライン・シナリオ

共通の資源、目的およびメトリクスを用いることで、TEチャレンジに参加する複数のチームの成果の比較を容易にし、結果をより容易に統合できるよう、単純なベースライン・シナリオを準備中で、完成すれば、TEチャレンジのモデリング&シミュレーション作業を実施するチームで利用可能となる。

  • その他の資源

TEチャレンジ参加者のために役立ち、作業を加速するため、TEチャレンジ進行中の対話や、FAQ、TEチャレンジ関連のアナウンスおよび最新情報、TEに関する出版物等の外部情報など、最新の情報を共有できるようにする。

  • 報告

TEチャレンジ参加チームには、提供するプラットフォームを用いて自チームの目標と作業計画に関する詳細情報を提供してもらい、チーム内でエキサイティングに作業を進めていくととともに、他のチームとの間で情報共有できるようにする。
各チームには、以下のような情報提供を希望している:

  1. どのような目的で、どのモデリング&シミュレーション・ツールを使ったか。
  2. ツールに対してどのようなツール拡張を行ったか。あるいは、新たな共同シミュレーションを実施したか
  3. どのTEアプローチを調査・研究対象とし、どのような結果を得たか。
  4. その他

使用したデータリソース
新たに開発したツール
得られた結果
実施した共同作業
得られた教訓
その他、TEコミュニティ形成に資する情報。

  • TEチャレンジへの参加者の募集

NISTは、TEチャレンジへの参加者を募集中である。参加希望の組織は、チームごとに登録していただく。まだオンライン登録環境が整備されていないが、登録はオンラインで可能なように考えている。(電子メールでの応募も歓迎する)
TEチャレンジへの参加登録に当たって提供いただきたいデータは、チーム・メンバー、目的、作業計画、期待する成果、利用するモデリング&シミュレーション・ツール/プラットフォームである。
※ ここで提示された情報は拘束力のあるものではなく、チームのスコープ、チームメンバー、計画の変更がありうることは予期している。また、登録は、キックオフ時でも、その後でも良い。しかしながら、短期間のTEチャレンジを着実に進展させ、実りある成果を出すために、7月中の参加登録を期待している。 

【知的所有権】

TEチャレンジの一環で提供されるすべての情報および成果は公有となるが、これは、TEチャレンジ実施にあたって、既に著作権のある技術やツールの使用を妨げるものではない。

【参加基準】

  • TEのためにモデリング&シミュレーションを使用すること。

※モデリング&シミュレーション・ツール/プラットフォームの開発・拡張での参加を含む。あるいは、特定の系統に関する課題に対してTEアプローチの影響を研究するためにモデリング&シミュレーション・ツールを使用するということでも良い。

  • TEチャレンジに参加する他の組織と連携し、TEチャレンジの実施期間を通して、成果・資源を共有するよう努力し、TEコミュニティの形成に努めること。

 以上、NISTのTEチャレンジのホームページの現時点での情報をご紹介しましたが、上記文面にあるように、現在このTEチャレンジのホームページは整備中とのことなので、今後どんどんアップデートされていくものと思われます。

また、このNISTのTEチャレンジのアナウンスの文面を見る限り、日本からの参加も可能だと思われますが、その代り、チーム編成をしてTEに関して何をするか目的・作業計画を明確にして登録する必要があります。

2年前からトランザクティブ・エネルギーに注目していましたので、インターテックリサーチとしては、是非TEチャレンジに参加して、将来の電力供給のあり方に関して最新情報を仕入れたいところですが、如何せん、1人ではTEチャレンジに貢献できるだけの時間も割けません。予算的にも厳しいので、ここは経済産業省/NEDOの方にご検討いただき、日本として、このNISTのTEチャレンジに参加するとなった場合には、インターテックリサーチもチームに加えていただきたく、ご検討いただければと思います。

【ご参考

 おわり