Yacht at Antony Passage
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前回は、2013年版MOPRのルール改定作業が2018年になってやっと決着がつくまでの経緯をご紹介しました。今回は、それ以降のMOPRの変遷を辿ります。

3度目のMOPR改定の動きは、2018年の決着からさかのぼること2年、2016年3月21日に、PJMの容量市場制度に関してCalpine Corporation他の発電事業者が14社連名でFERCに提訴「COMPLAINT REQUESTING FAST TRACK PROCESSING」したことから始まりました。
Calpine社の訴状によると(誤解を恐れずに簡単に言うと)、オハイオ州の補助金を受けているAEPオハイオとFirstEnergy社が、PJMの容量市場に安い価格で6MWもの容量を売り入札をかけることで、補助金を受けず自らの経営努力で可能な限り安値で入札した自社電源が容量市場から締め出されるのはおかしい、PJMの容量市場制度は不公平だ-というわけです。
また、当時米国では天然ガスのコスト低下で経営が苦しくなり、早期閉鎖計画を打ち出す原発事業者が現れ、それを救おうとしたニューヨークやイリノイの州政府は、ゼロ・エミッション・クレジット(ZEC)プログラムという名の下の補助金を原発事業者に支給するという解決策がとられましたが、そのような既存原発が安値で容量市場に入札することに関しても同様の指摘が行われています。
そして、2016年5月開催の容量市場オークションに間に合うよう、早急な対応をFERCに求めています。
FERCはこの苦情にいち早く対応。3月22日に「NOTICE OF COMPLAINT」で、本件に関する意見を募集。これに対して、PJMは4月11日に回答「ANSWER OF PJM INTERCONNECTION, L.L.C.」を作成・提出していますが、その中では、Calpine社の問題提起はもっともだけれども、2016年の容量市場のオークション開催が差し迫っており、拙速なルール改定には反対し、2017年のオークション開催に向けて制度を改定するため技術カンファレンスの開催を提案しています。
また、PJMは2016年6月6日に2回目の回答「ANSWER OF PJM INTERCONNECTION, L.L.C.」を作成・提出していますが、その中では、今回のCalpine社等による提訴を、単に当事者の利害に起因するものではなく、「州政府独自のエネルギー政策に基づいて補助金を受けている電源と、そうではない電源に対する適切な市場対応とは如何にあるべきか」という問題提起ととらえ、利害関係者を集めたステークホルダープロセスで解決策を検討し、FERCの判断を仰ぎたいとしています。
それ以降、年内(2016年内)は、eLibrary上、技術カンファレンス/ステークホルダープロセスが開催された形跡が見当たりませんでしたが、2017年3月3日、FERCは「NOTICE OF TECHNICAL CONFERENCE」で5月1-2日の2日間、技術カンファレンスを開催する案内を出していました。そこではPJMをはじめISOニューイングランド(ISO-NE)、ニューヨークISO(NYISO)の容量市場で、このような市場外で補助金を得ている電源の入札をどう扱うべきかが検討されたようです。
ただし、容量市場制度をどうするかといった結論は出なかったようで、GreenbergTraurigの2017年5月22日付けの記事「At a Crossroad, FERC Conference Addresses State Actions in the Context of Federal Wholesale Market Integrity and Potential Paths Forward」によると、1日目はISO-NE、NYISOおよびPJMの各市場を個別に取り上げ地域ごとの課題と緊急性に関して話し合われ、2日目は3つの地域すべての州の政策の意味を検討した後、業界の専門家を招待して、州の政策を維持するための潜在的な解決策について議論された-とありました。
FERCは、5月23日発行した「NOTICE INVITING POST-TECHNICAL CONFERENCE COMMENTS」の中で、「技術カンファレンスのアウトプットとして、公共政策目標を追求する州の行動と卸電力市場の設計・運営の間でどのように折り合いがつけられるか話し合われた結果、以下の5つの道筋(Path)を見出した」としています。

Path1:MOPRの廃止または限定的な適用:州が支援する資源には全面的にMOPRを適用しないか、または連邦法に抵触する場合のみMOPRを適用するアプローチ
Path2:州の支援を受けていなかった場合と市場結果が同じとなるような必要な調整を州が行うことを条件とするアプローチ
Path3:現状通り、州が支援する資源の一部にMOPRを適用するアプローチ。MOPR適用対処とするかどうかはケースバイケースで協議する
Path4:レジリエンスやCO2排出量削減等に資する電源を支援するような州の政策をとる場合、資源中立的な方法で市場メカニズムに統合評価するアプローチ
#ここ、よく理解できていません。原文は以下の通り:
Path 4 – Pricing State Policy Choices: an approach in which state policies, to the extent possible, would value the attributes (e.g., resilience) or externalities (e.g., carbon emissions) that states are targeting in a manner that can be readily integrated into the wholesale markets in a resource neutral way. For those state policies that cannot be readily valued and integrated into the wholesale markets, Path 4 would also require consideration of what, if anything, the Commission should do to address the market impacts of these state policies. For instance, other approaches for these state policies may include accommodation, application of the minimum offer price rule, or an exemption from the minimum offer price rule.
Path5:MOPRの拡張:MOPR適用対象範囲を拡大し、容量市場に参加する、州の支援を受けている新規および既存の電源両方に適用することで市場価格への影響を最小化するアプローチ
#カンファレンス両日の詳細な議事録(5月1日分5月2日分)が公開されていますので、ご興味をお持ちの方は是非お読みください。容量市場と州政府の環境・エネルギー政策をどう両立させるべきかに関して、専門家による有益な議論が行われていると思われ、時間があればじっくり目を通したいところではありますが、合計573ページもあり、残念ながら時間が取れません。ザッと走り読みしたところ、2日目の議事録113ページ辺りにあったFERC委員Colette D. Honorable氏の発言を見ると、そこまでの参加者の意見としてはPath1、Path4、Path5に類する意見は少なく、Path2とPath3に関する議論が多かったようですが、同じく2日目の議事録の最後での同氏の発言を見ると、最終的にはPath2とPath4に関するPost-Technical Conference Commentを期待する-となっていました。

それに対して、PJMは、6月22日に「Initial Post-Technical Conference Comments of PJM Interconnection, L.L.C.」で以下の3つのイニシアチブを提案しています。
イニシアチブ1:Advancing Zero Emissions Objectives through PJM’s Energy Markets
イニシアチブ2:Capacity Market Repricing Proposal
イニシアチブ3:Energy Price Formation and Valuing Flexibility

また、6月23日には、PJMの市場監視部門(IMM、Monitoring Analytics社のこと)が、PJMの提案とは別に「拡張MOPR案」を提出しています。

PJMの提案はPath2、IMMの提案はPath5に沿ったものと考えられますが、現状(=当時)のMOPR制度とIMMが提案する「拡張MOPR案」について、IMMが解説している資料「CCPPSTF IMM Proposal」も見つけましたので合わせてご覧ください。
#資料名にあるCCPPTSFは、Capacity Construct / Public Policy Senior Task Forceの略で、州政府の政策とRPM制度に折り合いをつけるため、PJMのMarkets and Reliability Committee (MRC) の下に設置されたタスクフォースです。IMMもメンバとして参加しており、CCPPTSF内では、6月23日同社がFERCに提出した拡張MOPR案をベースにMOPRを拡張する(MOPR-Ex)方向に議論が傾いてきた(9月11日に上記の「CCPPSTF IMM Proposal」提出後も、10月17日に「Revised IMM MOPR-Ex Proposal for CCPPSTF」を提出、11月2日と11月12日にも「IMM MOPR-Ex Proposal for the CCPPSTF」を提出)ようです。

2018年1月16日付けでPJMが公開している「PJM’s Capacity Market Repricing Proposal」によると、PJM自体はPath2に沿ったRepricing Proposalに固執していたものの、CCPPSTFではPJMの上位の委員会であるMRC(Markets and Reliability Committee)に上程するための過半数の賛同が得られず、逆に、IMMが推す拡張MOPRに支持が集まってしまったようです。
そこで(仕方なく?)2018年4月9日、PJMは第3回目のMOPR改定案「Capacity Repricing or in the Alternative MOPR-Ex Proposal:Tariff Revisions to Address Impacts of State Public Policies on the PJM Capacity Market」をFERCに提出していますが、中身は「オプションA:Capacity Repricing」、「オプションB:MOPR-Ex」を併記したものとなっていました。

が、様々な利害関係者団体から、このPJMの改定案を拒否するようFERCに反対意見が寄せられます。
そして、2018年6月29日、FERCは「ORDER REJECTING PROPOSED TARIFF REVISIONS, GRANTING IN PART AND DENYING IN PART COMPLAINT, AND INSTITUTING PROCEEDING UNDER SECTION 206 OF THE FEDERAL POWER ACT」を発行。
内容は、本件の起源となった、州の補助金を受ける電源とそうでない電源に関する現状の容量市場取り扱いが不公平であるという苦情は認めるものの、PJMおよびIMMのオプション提案は両案ともその解決策にはなっていないので拒否するという回答になっていました。
#このFERCオーダーに関しても、州の規制機関や、PJMの容量市場に参加する産業需要家団体(PJM Industrial Customer Coalition)や発電事業者など10以上の組織から再審議要求が出されましたが、FERCは8月29日、「ORDER GRANTING REHEARINGS FOR FURTHER CONSIDERATION」を発行し、再審議要求に関して幕引きを図っています。

なお、6月29日のFERCオーダーでは、現状の容量市場での電源の取り扱いの不公平を是正するに当たって、州の補助金を得ている発電事業者への書面によるヒアリング(Paper hearing)が行うことになっており、Nuclear Energy Institute学識経験者団体、当初はMOPR適用対象電源に入っていませんでしたが、RPS制度で州の補助金を得ている再エネ事業者の容量市場参加の是非に関して、Columbia Law SchoolのSabin Center for Climate Change Lawに所属する環境問題専門家などから意見が寄せられています。
また、FERCはヒアリング要請の中で、当時すでに相対契約(Fixed Resource Requirement:FRR)電源の容量市場における位置づけに関するルール(ただし、州の補助金を受けていない電源が対象)が決められていたので、それが利用できないか(FRR Alternative)についても意見を求めています。

PJMは、FERCが指定したスタッフを交えて、複数の利害関係者と個別の会合を何度も実施し、代替案を作成して、2018年10月2日、FERCに「INITIAL SUBMISSION OF PJM INTERCONNECTION, L.L.C.」を提出していますが、そこでは、PJMは、固執していたCapacity Market Repricingの考え方をあっさり捨て、拡張MOPRとFERCの提示したFRR Alternativeの考え方に基づいて運用に落とし込んだ(Resource Carve-Out:RCO)によってこの問題を解決しようとしています。また、今回も代案として「拡張RCO」と呼ぶ提案もしているようです。
また、2018年10月2日がPaper Hearingの回答期限だったのか、同日、「INITIAL COMMENTS ~」というタイトルでPJMを含めて5件、「Comments of ~」というタイトルで22件、「Brief of ~」のタイトルで11件の意見が寄せられていました。

11月に入って、PJMは「REPLY SUBMISSION OF PJM INTERCONNECTION, L.L.C.」で再度コメントを寄せており、「Reply Submission of ~」というタイトルではその他にも5件、「Reply Brief of ~」で始まるタイトルが13件、「Reply Comments ~」で始まるタイトルでも31件のコメントが提出されていました。
12月6日、PJMは寄せられたいくつかのコメントに対する回答とともに、最終的にPJMのMOPR改定案を受け入れるよう「LIMITED ANSWER OF PJM INTERCONNECTION, L.L.C.」の中でFERCに要請しています。
FERCは、これらのPaper Healing情報をベースとして、当初2019年1月にはPJMのMOPR改訂版を定める予定となっていたはずですが、2019年1月を過ぎてもFERCからは本件に関して何の音沙汰もなく月日が流れています。
2019年10月31日付けのpowermag.comのニュース記事「States to FERC: Promote Market Designs That Recognize State Priorities」によると、5人のFERC委員のうち、Kevin McIntyre氏が1月に死亡、Richard Glick氏は、以前の雇用者であるAvangridも関与する本件に携わることが禁じられていたうえ、Cheryl LaFleur氏が8月に退任したことから手つかずとなってしまっていたようです。

そして、MOPRに関連した動きが出たのは、2019年12月19日になります。同日、FERCは「ORDER ESTABLISHING JUST AND REASONABLE RATE」でこれまでのPaper Hearingで提案された事項に関してFERCの見解を付してMOPRルール変更のガイダンスとし、90日以内にCompliance Filling を行うようPJMに命じるともに、ニュースリリース「FERC Directs PJM to Expand Minimum Offer Price Rule」も出しています。

さて、気になる内容ですが、長くなりましたので、続きは次回にして、今回は、ここまでの第3回MOPR改定の流れを図にまとめ「MOPR改定の経緯-その2」としましたので、ご覧ください。

 

おわり