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V2Gという言葉は、スマートグリッドのキラーアプリの1つとして、最近よく聞くようになりましたが、どのように定義/認識されているのでしょうか?
今回は、今一度V2Gの定義を振り返り、V2Gの意味するところを吟味してみたいと思います。

 

1.V2Gの定義

まずは、Googleで見つけた、典型的なV2Gの定義から見ておきましょう。

定義1:エネルギア総合研究所 技術用語解説:V2H, V2G

電気自動車に搭載された蓄電池のエネルギーを宅内で利用することをV2H(Vehicle to Home)という。また,電気自動車を電力系統に連系し,車と系統との間で電力融通を行うことをV2G(Vehicle to Grid)という。
電気自動車を移動手段として使わない時に,車に搭載された大容量の蓄電池を電力貯蔵設備として利用する点が共通している。

図1.V2H、V2G概要図

現時点では、これが一般的な捉え方ではないかと思います。
これに対して、2007年1月発行されたユニバーサルエネルギー研究所「原子力 eye」 Vol. 53 No. 1の中でV2Gは以下のように定義されています。

定義2:「プラグインハイブリッド自動車と夜間電力活用 輸送部門の石油消費削減に向けて」の中でのV2Gの定義

“V2G”とは、Vehicle-to-Gridの略で、自動車からグリッド(電力網)への電力の融通のことを意味する。プラグインハイブリッド車には、車を駆動できるほどのパワーのある電池を搭載している。自動車は 96%の時間は駐車中なので、この時間に電池をプラグインしてグリッドに接続しておき、グリッド側が必要とする電力の融通サービスを行い、車側もそのサービスに見合った対価を得ようという仕組みが V2G である。

図2.V2G: Vehicle-to-Grid のコンセプト

ここでは、テーマが「プラグインハイブリッド自動車と夜間電力活用」なので、PHEVに焦点があてられていますが、図を見ると、通常の電気自動車(EV)が存在せず、その代わりに?水素燃料電池車からグリッドへのV2Gも視野に入っていることがわかります。
この図で「参考」とされているTomic & Kempton ZEV Symposium (2006)をたよりにして、2006年当時のV2Gを検索すると、以下が見つかりました。

定義3:Peak Energy – Vehicle To Grid Power

“Vehicle to grid” technology – using plug-in hybrid electric cars as energy storage devices that feed power back into the grid as well as taking from it. There is a good site devoted to V2G at the University of Delaware.

V2G – PHEVを電力貯蔵装置と見立てて、系統から充電するだけでなく、系統に電力を共有する技術。デラウェア大学にV2Gをテーマとした良いサイトがある。

図3.V2G Power

ここでも、説明上PHEVが、(当面のV2Gの現実解として?)特別扱いされていますが、図3を見ると、いわゆるEV(Battery)と、PHEV(Plug-in Hybrid)と燃料電池車(Fuel Cell)からの赤い矢印としてV2Gのイメージが示されているのがわかります。
更に、デラゥエア大学にV2Gのサイトがあるということですので、調べてみました。

定義4:University of Delaware 「The Grid-Integrated Vehicle with Vehicle to Grid Technology

What is V2G?
Electric-drive vehicles, whether powered by batteries, fuel cells, or gasoline hybrids, have within them the energy source and power electronics capable of producing the 60 Hz AC electricity that powers our homes and offices. When connections are added to allow this electricity to flow from cars to power lines, we call it “vehicle to grid” power, or V2G. Cars pack a lot of power. One properly designed electric-drive vehicle can put out over 10kW, the average draw of 10 houses. The key to realizing economic value from V2G are grid-integrated vehicle controls to dispatch according to power system needs.

V2Gとは何か?
蓄電池、燃料電池、またはガソリンとのハイブリッドで動く電気駆動車は、エネルギー源を内蔵しており、家庭やオフィスに60 HzのAC電気供給することができる。この車から供給する電力を、更に電線まで戻す場合をV2Gと呼ぶ。適切に設計された電気駆動車では10kW以上の出力があり、平均的な家庭10軒に電力供給することができる。V2Gを経済的に実現する鍵は、必要に応じて系統へ電力供給を行えるような、グリッドと統合された車両制御が実現するかどうかにかかっている。

つまり、蓄電池を持っていてもいなくても、最終的に電気で駆動するメカニズムを有する電気駆動車(EDV:Electric-driven Vehicle)の保持する電気を系統に戻すことをV2Gと呼ぶ-というのが正しい定義のようです。

2.誰がV2Gを言い出したのか?

これについては、本ブログの「スマートガレージ」で、以前紹介しました。

電気で動く車は何らかの電気を蓄えるもの(バッテリー)あるいは電気に変換するもの(燃料電池など)を持っている。もし世の中の車がすべてEVになったなら、それらの車すべてが保有する電力は、系統に接続されたすべての発電所の電力をしのぐことは明白だ。したがって、停電やピーク需要で系統電力が不足をきたした場合、車が保有している電気を系統に戻すことができたら、新たな系統安定技術となる。

RMI(ロッキーマウンテン研究所)のAmory Lovins博士は、1990年代の早い時期に、すでにこのようなV2Gのアイデアを思いついていたということですから、すごいですね。

他にも、V2Gの略歴として、2005年6月6日開催されたThe Seattle Electric Vehicle to Grid Forum - V2G Technical Symposiumの中に以下の資料を見つけました。

「Connected Cars: Battery Electrics & Plug In Hybrids」

この資料の「V2G:An Evolving Concept」のページによると、1995年にAmory Lovins博士が燃料電池車からグリッドへの電力供給を提案したとされています。

3.モデリングから見たV2G

以前、ブログ上で何かのついでに言及したことがありますが、電力需給をオブジェクトモデルで表現した場合、V2Gというのは、オブジェクトモデリングの作法上きわめてよろしくないと思います。

オブジェクト指向の知識は、Peter Coad/Edward YoudonのOOA/OODやJames Rumbaugh等のObject-oriented Modeling and designを仲間と勉強した時代にとどまっていますので、もしかしたら考え方が古いかもしれませんが、V2Gというのはモジュール性が良くない/カプセル化ができていない/情報隠ぺいが不十分だからです。

まず、家庭に駐車している時間帯にV2Gする場合ですが、系統側のオブジェクト(電力会社)にとって、電力供給源が電気駆動車のバッテリー/燃料電池だろうが、家庭用据置き型バッテリーやエネファームのような家庭用燃料電池だろうが、太陽光パネルだろうが、必要な時に電力さえ供給してくれれば、区別する必要がありません。

インターテックリサーチにて作成

図4.家庭内の電力供給オブジェクトモデル

また、供給相手が電気自動車のバッテリーだからそれに見合った手順で電力を受け取るというのでは、技術的にも美しくありません。

ここは、V2G = V2H + H2Gと考え、家庭から系統への電力供給は、H2Gとして切り分け、電気自動車の充電制御や、V2HはHEMS/スマートホームで面倒を見る形にするべきだと思います。(図1.左側参照)

次に定義1での本来のV2G(図1.右側)について考えてみます。図1では、系統に直接電気自動車が接続されています。もし、これで実際にV2Gを行うには、自動車側に、電力会社の給電指令所の発電指令に対応して電力を供給する、発電所と同等のメカニズム一式を持つ必要があり、あまり現実的とは思われません。実際には、図5のように、アグリゲーターが電力会社と自動車の仲介をして電力会社からの給電指令(図中のRegulation Up/Down)に従って、配下の電気駆動車の充放電を制御する形をとるのではないかと思います。


出典:「Overall structure of the frequency regulation service」

図5.V2Gによるアンシラリーサービス実現例

ということで、モデル上も、V2Gを実装する上でも、車とグリッドが直接つながる文字通りのV2Gというのは、存在しないのではないか? - というのが、今回のV2G再吟味での発見の1つです。 (図6.参照)


図1をもとにインターテックリサーチにて作成

図6.V2HとV2G?

 

4.電力駆動車のオーナーから見たV2Gの実現可能性

同じく、ブログ「2010年のスマートグリッド:市場セグメント、アプリケーションおよび業界のプレーヤー - その12」で、GTMリサーチの調査レポートの中からのV2Gをご紹介していますが、そこの最後のパラグラフが、V2Gが実際に成功するかどうかのポイントになると思います。

今のところ不明なのは、消費者が(車のバッテリーに蓄えた電気を売ることによって)1年間にどれほど稼げると期待するかと、そのインセンティブが、PEV(Plug-in Electric Vehicle= PHEV・BEV などの系統充電型自動車)の発展に更なる拍車をかけるかどうかである。

そして、今年5月、エネルギー総合工学研究所が事務局となっている次世代電力ネットワーク研究会第8回講演会で、気になる発表がありました。「電力貯蔵の経済性を考える」の中で、三菱自動車のEVであるi-MiEVのデータを基にし、ガソリンの単価を130円/ℓとして、ガソリン車と同じ距離当たりの費用(7円/Km)で走行する場合、電気自動車のバッテリー放電時の電気の価値を計算したところ、70円/kWhになるという結果が出ています。

すなわち、i-MiEVのバッテリーは、車の走行に使う場合、70円/kWhの価値がありますが、その高価なリチウムイオン電池を使って、炊飯器などの家電製品に利用する場合、普通の電灯電力料金相当(約20円/kWh)の値打ちになってしまうということです。このたびの震災のような緊急時には、それでも十分価値があると思いますが、もし、V2Gでの買い取り価格が、電灯電力料金相当だとしたら、EVオーナーにとっては、V2Gに協力してバッテリーの寿命を縮めるより、走ることに使った方が賢明だという結論にならないでしょうか? 燃料電池車に関しても、おそらく同じことがいえるのではないかと思います。

V2Gをうまく機能させるためには、いろいろ課題もあり、技術者から見て非常に魅力的です。
しかし、電気駆動車のオーナーにとって、V2Gに協力することで得られる経済的な魅力がなければ、いくら技術的な問題がすべてクリアされても、ビジネスとしては成立する見込みはありません。

最後に、同様の意見をネット上で見つけましたので、それを再録して終わりたいと思います。

V2GでもH2Gでもない分散型…スマートグリッドのビジネスモデル

“V2G”、否、“H2G”(Home to Grid)ですらビジネス化は困難で、地域拠点型の「分散型システム」としての展開が有望と考えている、と、当日会場で説明にあたっていただいた東芝産業システム事業部の小倉氏は指摘する。

というのも、現状のリチウムイオンバッテリーは高価なうえに充放電に対する耐用回数(寿命)に限りがあることから、電力需給を調整する際に電気の出し入れをすることで、バッテリーの寿命を縮めることになる。“V2G”の場合は特に、車両の所有者の意思とは無関係に充放電がなされるという点で、バッテリーの寿命という金銭価値をどう補填するか難しい。家庭に大容量バッテリーを導入する“H2G”も、バッテリーの寿命という点では同じ課題を抱える。


いかがだったでしょうか?

V2G(およびH2G)が実現するためには、更なるバッテリーの技術革新が不可欠のようですね。

終わり