Strensham Mill Hydroelectric Power Station

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今回は、低炭素電力供給システムに関する研究会の第4回(平成21年1月26日開催)の内容を掘り下げてみようと思います。

第4回研究会でのプレゼン内容について

第4回は、新エネルギー大量導入に伴う系統安定化対策・コスト負担検討小委員会からの報告に対して質疑応答の後、電力事業の燃料調達をめぐる動向説明、低炭素電力供給システムにおける火力・水力発電等の役割(火力発電・水力発電による太陽光パネルの出力変動対策など)と課題説明があり、自由討議が行われました。以下、議事録および配布資料をもとに、研究会での説明・討議内容を振り返って見ましょう。

1)事務局:今後の新エネルギーの大量導入に伴って必要となる系統安定化対策及びコスト負担の在り方についての説明

上記のとおり小委員会から提出された報告書について事務局から説明されています。少々長くなりますが、本研究会の実質的な肝の部分なので、系統安定化対策のコスト試算の詳細について見ていきたいと思います。

  • 時系列シナリオの前提

    ・太陽光発電導入量:長期エネルギー需給見通しの最大導入ケースを採用:2020年度で1,432万kW(2005年度の10倍)、2030年度は5,321万kW(同40倍)
    ・電力需要:平成20年度の一般電気事業者の供給計画を勘案し、これとの継続性を考慮するということで、長期エネルギー需給見通しにおける努力継続ケースを採用
    ・そこで示された「再生可能エネルギーや原子力などのゼロ・エミッション電源の比率を50%以上に引き上げ、特に太陽光発電の普及率を2030年には現在の40倍に」を実現するための方策を検討する
    ・具体的には、低炭素電力供給システムを確立し、低炭素社会システムを実現する具体的な方策について検討を行う

  • 検討した課題

    ・配電網の電圧上昇による逆潮流の困難化(太陽光発電の設置箇所が多くなってくる、それによって消費よりも出力が大きくなって系統に逆潮流する場合に電圧が上がってしまう。その電圧が規制値を超える場合には抑制がかかってしまうという問題)
    ・新エネルギー太陽光の大量導入時において、周波数調整力が不足する可能性があるという問題
    ・余剰電力の発生と需給バランスの問題(太陽光発電が大量に導入された場合、需要の少ない時期やベースの供給力がある時期、その量を上回って余剰電力が発生した場合にどうしていくか)

  • 系統安定化対策オプション:第2回研究会で提示された7オプションのうち「火力発電等によるバックアップと調整」オプションを除く6つのオプションについて特徴と課題のまとめを実施(最終的に、コスト試算のシナリオでは、系統対策を何もしないオプション0と地域間連系線活用オプションは不採用)
  • コスト試算の前提:2010年まで、2020年まで、2030年までの技術開発・量産効果を見込んだ価格を採用。(太陽光パネルに関しては、NEDOがまとめた太陽光発電ロードマップ:PV2030の価格と、小委員会での推計価格を採用)
  • 系統安定化対策検討の視点

    ・5月の系統安定化対策を考慮(電力需要が少なく、水力等の流量の増加によってベース供給が拡大し、最も需給バランスが崩れる時期)
    ・休日が連続し需要が低い年末年始やGW期間においては、出力抑制が行われるという前提で検討(太陽光発電によって発生する全ての余剰電力を蓄電によってカバーするには、不合理に大きな蓄電池の設備容量が必要となり、非現実的)
    ・余剰電力対策に着目して検討(太陽光発電の大量導入に伴う系統安定化のために必要となる設備投資は、出力変動対策よりも余剰電力対策が支配的)

  • コスト試算シナリオ:上記の前提条件を勘案し、系統対策オプションを組み合わせて以下の3つのシナリオについてコスト試算を実施

    ・シナリオⅠ(需要家側に蓄電池を設置する場合)
    ・シナリオⅡ(配電対策を行いつつ電力系統側に蓄電池を設置する場合)
    ・シナリオⅢ(配電対策を行いつつ電力系統側に蓄電池と用水発電を設置する場合)

  • その他の系統安定化対策コスト

    シナリオにおいて共通的に発生する事項として、太陽光パネルの出力抑制(年末年始とGW期間)、火力発電による調整運転、蓄電池の充放電ロス・揚水発電のロス及び太陽光出力の把握に係るコストを試算

  • 余剰電力買い取りコスト

    太陽光発電の普及量、稼働率の想定を基に2009~2030年度の期間合計余剰買取電力量を1,480億kWhと想定しコストを試算

  • 結論

    シナリオⅡ(配電対策を行いつつ、電力系統側で蓄電池を設置して余剰電力対策を行う場合)が、最も経済的なシナリオ(4.61~4.72兆円)

2)事務局:第4回低炭素研究会における検討についての説明

第3回目の開催から4ヶ月弱時間がたっているので、これまでの研究会の検討経緯を振り返り、第4回での検討項目に関してガイダンス説明が実施されています。

3)電気事業連合会:電力の燃料調達を巡る動向についての説明

各電源の燃料調達の動向を確認しておくことは重要ですが、ここでは内容の概要紹介を割愛します。

4)事務局:低炭素電力供給システムにおける火力・水力発電等の役割と課題についておよび 石炭火力とLNG火力の現状と課題についての説明

近年の発電効率向上がCO2排出改善に貢献しており、新しい技術として、石炭ガス化複合発電(IGCC)やCCSが紹介されています。また太陽光発電の出力変動対策としての火力発電(ELD、LFC、ガバナーフリー運転)や水力発電(可変速揚水式発電所)などが説明されています。

5)小委員会報告に対する質疑および自由討議(気になった意見のみ)

太陽光発電の出力抑制機能:太陽光発電の電力制御装置(パワーコンディショナー)にそういう機能を入れ込むという形になる。ここにあるカレンダー機能とか固定でやる方法、それから通信機能で必要なときに抑制をするという、2通りがあり、フレキシブルに運用するという観点からは、通信機能でやる方がいいのですが、コストがかかる。実は今のパワーコンディショナーも、電圧が上昇したときには切るというような機能がついている

第4回研究会で感じたこと

今回の研究会は、1)の小委員会の報告と、低炭素電力供給システムを考える上で火力発電の必要性の確認4)がメインでしたが、スマートメーター/スマートグリッドの観点からは、少し遠い話題に終始した感じがします。
したがってスマートメーター/スマートグリッドに関して自由討議5)で気になったのは1点のみですが、そこで言われている「通信機能でやる方法」が日本版スマートメータリングの一機能にすればよいのではないかと思います。
資源エネルギー庁の新エネルギー大量導入にともなう系統安定化対策・コスト負担検討小委員会の議事録のページを見ると、第3回配布資料4で太陽光発電の出力抑制機能について詳しく説明されていますが、その中では、スマートメーター経由で太陽光発電用パワーコンディショナーを制御するオプションが考慮されていません。独自に通信インフラを構築すれば確かにコスト高になりますが、自動検針+αの機能の一環として、スマートメーターとパワーコンディショナー間のプロトコルを定め、例えば低速PLC通信を使ってスマートメーター経由でパワーコンディショナーを制御すればよいのではないでしょうか?

もう1つ小委員会の報告で気になったことがあります。専門家が現実解を見つけ出すことを念頭においてのことだとは思いますが、コスト試算に当たって、ちょっとしたトリックが隠されていることです。
すなわち、電力需要の時系列シナリオの前提条件には、太陽光発電の最大導入ケースが採用されていますが、系列安定化対策検討の視点を定める段階で、「太陽光発電によって発生する全ての余剰電力を蓄電によってカバーするには、不合理に大きな蓄電池の設備容量が必要となり、非現実的」との理由から、太陽光発電に対して「出力抑制ありき」でのコスト試算となっているのと、電力供給側の数値には、最大導入ケースより大きな「努力継続ケース」を採用していることです。
政治の世界では、その後2月24日に二階経済産業大臣が太陽光発電の新たな買い取り制度を導入して太陽光発電の導入拡大姿勢を表明、4月9日には麻生総理大臣が2020年再生可能エネルギーの比率を10倍から20倍に目標変更する宣言をしています。
2020年ゼロ・エミッション電源50%のうち、太陽光発電が2800万kWになった場合、報告書で言われているような太陽光発電の出力抑制が年末年始やGW期間にとどまらず、すべてのウィークエンドに広がる可能性が十分考えられます。
出力抑制が、年末年始やGW期間だけならそれほど問題にならないかもしれませんが、もっと頻繁に発生する場合、売電機会損失という太陽光発電を設置した需要家側の目線でのものの見方が欠けているように思われます。スマートメータリングでの料金メニューであるCPR(Critical Peak Rebate)のような、機会損失を補償する仕組みを導入するならば、それに要するコストも、ここで見積もる必要があると思います。