© Copyright Chris Newman and licensed for reuse under this Creative Commons Licence.

GTMリサーチ社の調査レポート『2010年のスマートグリッド:市場セグメント、アプリケーションおよび業界のプレーヤー』をご紹介しています。
今回は、1章 スマートグリッドの分類:TAXONOMY OF A SMARTER GRIDから、1.3スマートグリッドの課題:Challenges Associated With Smart Gridをご紹介します。

では、はじめましょう。

1. スマートグリッドの分類:TAXONOMY OF A SMARTER GRID (続き)

1.3 スマートグリッドの課題:Challenges Associated With Smart Grid

GridWise Allianceなどの主導的な業界団体や、Austin EnergyやXcel Energyのような電力会社がスマートグリッドに対してどのようなビジョンを持っているのか理解するに当たって、まず、彼らが検討している一連の課題に焦点を当ててみよう。

1) 相互運用性の標準策定が喫緊の課題
2) 旧式化しない適切なシステム・アーキテクチャの構築
3) 省エネと効率化は、元来電力会社の収益を低下させるものだが、スマートグリッドを推進するに当たって電力会社にインセンティブを与えるような制度設計はいかにあるべきか
4) 再生可能エネルギーを大量導入するに当たって、元来一方向に流れるよう設計された電力網を用いて、いかに双方向の電力潮流の制御を実現するか
5) (最後に、エンドツーエンドのスマートグリッド実現のために欠かせないものとして)いかにして消費者を、従来のようなエネルギー消費の態度から、(積極的に省エネ、効率化、ひいては地球温暖化阻止の貢献する)新しいプログラムに参加させられるか

では、これら個々の課題について詳しく見てみる。

1.3.1 相互運用性標準:Interoperability Standards

スマートグリッドを実現するためには、無数のアクターが様々な技術を用いてエンドツーエンドでインテリジェントに「会話」する必要があるため、各プレーヤーが思い思いに固有の技術を用いてシステム開発を行った場合、会話が成立しない。物理的な装置間での通信とデータフローに関する相互運用性の標準的な枠組みがなければ電力網に真のインテリジェンスをもたらすことは不可能である。

・相互運用性の標準がなければスマートグリッド技術に「プラグ・アンド・プレイ」が使えず、モジュラー形式のソリューション開発ができない
・相互運用性の標準がなければ、電力会社もベンダーも、膨大な投資をして、非互換で、かつ早晩時代遅れとなってしまうようなシステム開発を行わない
・相互運用性の標準は、スマートグリッド技術(および、その産業)の商業的な成長を促し、消費者および社会全般のために普及する
・共通するプロトコル群が定義されることで、電力会社から、スマートメーターの製造メーカー、スマート家電メーカー、PHEVメーカーまで、すべてのプレーヤーが安心してスマートグリッド関連の技術、アプリケーション、システムの研究開発および配備を行うことができる

課題は、すでに多くのプロジェクトが進行している中で、すべてのステークホルダーが、いかに早く広範で複雑多岐に亘る技術要素に関して優先順位を付け、どれをスマートグリッドの相互運用性の標準として採用するかを決定し、必要に応じて変更を加えられるかである。また、標準策定組織が、ハイレベルのスマートグリッド・システム設計において実践の場で使われている標準やベストプラクティスを正しく認識しているかどうかも問題である。スマートグリッドの機能範囲をどう捉えるかによっても、標準がカバーする範囲が異なってくる。
安全でインテリジェントなエンドツーエンドで接続された電力網の早期実現は、電力会社にとっても社会にとっても価値がある。電力会社では、スマートグリッドにとって相互運用性とセキュリティに関するオープン・スタンダードの開発・制定が不可欠であるとの認識が広まっている。

1.3.2 旧式化しないシステム・アーキテクチャ:Future Proofing Utility Systems Architecture

電力会社は、スマートグリッド化を機に、業務全般のシステム・アーキテクチャを見直すべきである。歴史的に電力会社では、個々のシステムがサイロ化され、データ共有やシステム統合は考えられてこなかったが、スマートグリッドの実現には、電力会社の企業大のシステム統合と、ビジネスプロセスの統合が不可欠である。なぜなら、スマートグリッドのアプリケーションやソリューションは、統合されて真価を発揮するものであり、スケーラブルな本質を備えているので、この際、コストと時間のかかる縦割りのアプリケーション展開パラダイムから脱却し、一から、トップダウンで企業大のシステムアーキテクチャを開発・採用すべきである。例えば、スマートメーターを導入し、停電などの障害検知ができるにもかかわらず、既存の(ユーザからの通報ベースでの)停電管理システムを使い続けるのは、得策ではない。
とは言え、一度にすべての既存システムを改定できないと思われるので、システム基盤としては、すべての電力業務に拡張できるアーキテクチャを採用し、将来的にすべてのアプリケーションが同一アーキテクチャの元で、必要なデータは共有して稼動するようにすることで、今後のシステム開発・保守およびデータ保守コストを大幅に削減できる。

1.3.3 電力会社のビジネスモデルとインセンティブの再定義

スマートグリッドを推進するに当たっては、電力の売上を増加させなくてもある程度ユーティリティの収益が保障され、エネルギーの保全と効率化推進のインセンティブが働くような料金体系を確立するために、規制改革が必要である。さもなければ、(多くの場合、ユーティリティも民間投資家からの資金で事業を行っているので)ユーティリティに電力売上を落とすよう頼むのは、スターバックスにコーヒー販売量を減らすように言うのと同じである。
電力会社の収益は提供する電力のkWh当たりの差益に依存しているが、デマンドサイドマネジメント(DSM)をうまく機能させるためには、電力会社の利益と電力供給量を分離(デカップリング:Decoupling)し、供給電力量が減っても収益が上がる構造にする必要がある。また、電力会社の努力によって達成された電気利用の効率向上の成果(その結果として電力使用量は減る)に関しても、電力会社に利益が還元されてよい。
今日、カリフォルニア州、メリーランド州、マサチューセッツ州など一握りの州でデカップリングが施行されているが、今後もっと多くの州でデカップリングが行われるようになるだろう。再生可能エネルギーほどもてはやされることはないが、デカップリングの普及によるエネルギーの利用効率向上は、電力会社を含むいろいろな当事者にとって魅力的なものとなるだろう。

1.3.4 大量の再生可能・分散電源のインテグレーション

まず、再生可能エネルギーの有効利用を考えるに当たって2つ個別の課題があることを確認しておきたい。すなわち送電上の課題と配電上の課題である。従来、高圧送電線レベルの議論(遠隔地のウィンドファームやメガソーラーの再生可能エネルギーをいかに効率的に都心の需要地まで届けるか)が展開されてきたが、スマートグリッドの観点から見た場合、主要な課題は配電レベルに存在する。すなわち、一方向に流れるように設計された配電網を使って、
・ いかに再生可能エネルギーの電力を双方向に流すか
・ 必要なインテリジェンスを用いることで出力変動の大きな再生可能エネルギー資源をいかに自動的に管理できるか という課題である。
再生可能エネルギーは地球温暖の救世主として脚光を浴びているが、電力網の再設計なくして、この新しいエネルギーの大量導入は不可能である。

1.3.5 消費者のスマートグリッド・サービスの採用

最後の、そして実現可能かどうか現時点でもっとも不確かな課題は、いかにしてスマートグリッド・サービスを採用するように消費者を仕向けるかである。スマートグリッド信奉者は、消費者にもっと情報を提供すれば、彼らは消費性向を見直し、省エネを目指すと唱えている。従来のような一律料金ではなく、時々刻々(あるいは時間帯ごとに変わる)電力価格情報や地球環境へのインパクト、隣家とのエネルギー消費性向の比較情報などを提供することで、消費者にも電力会社にもメリットのあるWIN-WINの関係をもたらすことができると。しかし、家屋やビルのエネルギー管理システムとの連動は、消費者の発電・蓄電・売電への参加とともに、スマートグリッドのビジョンに入ってはいるものの、このような顧客との相互作用がうまく機能するかどうか、現時点では不明である。
人々がスマートグリッド技術とサービスを使うようにするためにはどのように教育・奨励すればよいかが課題として残っている。スマートメーターを入れたところで、人々の電力消費性向が変わるわけではない。ホームエネルギー管理システム、ホームエリアネットワークが進歩し、電気自動車や太陽光発電、燃料電池が家庭に普及したときに、スマートグリッドの提供するサービスを使えばそれらの発電・蓄電・売電をいかに最適化できるかが成功の鍵となるだろう。

いかがでしたでしょうか? このレポートの一番ユニークな1章のご紹介が終わりました。
2章はスマートグリッドのアプリケーションと技術の解説、3章はAMI導入事例、4章は、スマートグリッドをビジネス的な観点から投資対象としてみた場合の情報、5章はスマートグリッドに関連するメジャープレーヤーの紹介となりますが、長くなるので、ブログ上、一旦このシリーズは完了とさせていただきます。
なお、このブログのシリーズの内容をまとめ、『「2010年のスマートグリッド:市場セグメント、アプリケーションおよび業界のプレーヤー」概要および1章紹介』と題して、弊社ホームページ調査実績No.9として登録しましたので、通しでご覧になりたい場合は、そちらからダウンロードしてご覧ください。
また、同じく、調査実績No.8では、このGTMリサーチ社のレポートで紹介されている分類にしたがって、スマートグリッド関連技術を整理したものを作成・登録していますので、興味のある方は、あわせてダウンロードし、ご覧いただければと思います。

(終わり)