GTMリサーチ社の調査レポート『2010年のスマートグリッド:市場セグメント、アプリケーションおよび業界のプレーヤー』の2章を翻訳しています。今回は2.7節をご紹介しましょう。

なお、文字色=緑の部分は、筆者の追記部分です。それと、全文翻訳ではなく、一部筆者の思いがはいった超訳(跳躍?)になっているかもしれないので、予めお断りしておきます。

2.7 次世代電力統合システム

ここでは、電力網の監視、制御および最適化をサポートするために必要な様々な基幹システム、アプリケーションおよびバックエンドの技術インフラの最新版と、現在、それらが統合化されつつあるものを、次世代電力統合システムと呼ぶことにする。
次世代電力統合システムの主要構成要素は、以下のとおりである:
・エネルギー管理システム(EMS)
・監視制御およびデータ収集(SCADA)システム
・配電管理システム(DMS)
・その他、エネルギー取引やメーター・データ管理(MDM)のようなアプリケーション

統合の必要性

今日、AMIとグリッド最適化プロジェクトが大規模に展開されつつあり、(数百万ものエンド・ポイントから届く)大量のリアルタイム・データを有益な情報に変換する必要がある。しかし、そのためには、往々にして、従来独立していた複数のシステムを横断して処理する必要が出てきている。例えば、停電が発生しそうな状況をスマートメーターが電力会社に伝えるため、(AMIを自動検針のためのインフラとしてだけ用いるのではなく)AMIと停電管理システム(OMS)とを統合する必要がある。
指数関数的に増大するデータを会社の業績向上に役立つ情報に転換するには、電力会社は統合されたシステム一式を必要とする。真のスマートグリッドでは、EMS、SCADA、DMS、OMS、従業員管理、再生可能エネルギー管理、その他関連するシステムはすべて、互いに情報を共有する必要があるのだ。
歴史上、電力会社のシステムは業務ごとに独立して開発・運用されてきたが、スマートグリッド実現の成否は、システム(と、その情報)が電力会社全体で統合化されるかどうかに依存する。そうしないと、視界が開けず、とても迅速な意思決定支援などできない。
次世代電力統合システムは、デマンドレスポンスの実施など電力業務をまたがったビジネスプロセスや、再生可能エネルギーの系統へのインデグレーション、さらには、(消費者レベルでも、同様の意思決定ができるように)エンドユーザへの情報伝達をサポートするだろう。

配電管理システム(DMS)は、配電ネットワークと地図情報システム(GIS)を統合したことで、配電業務のビジビリティと予測能力を飛躍的に進歩させた、次世代電力統合システムの好例である。電力網の性能と保護機能に巨大なインパクトをもたらす、もう一つの先進システムの例として、天気予報(センサー情報に基づくリアルタイム・ビジネスインテリジェンス・アプリケーションなどの分析予測システム)の統合があげられる。実は、「スマートグリッドの恩恵」としてよく引用される多くの機能は、これらの新しいアプリケーションとその改良版が組み合わさることによって実現されるのである。


図26:電力会社のシステム統合ビジョン

出典:Reliance Energy

電力業務全般にわたるシステム・アーキテクチャ再構築の必要性

アプリケーションの統合に当たっては、顧客情報システム(CIS)や配電管理システム(DMS)のような既存のアプリケーションに必要な修正を施すという個々の対応ではなく、メーター・データ管理(MDM)や高度な予測分析ソリューションのようなすべての新しいアプリケーションが、従来の機能的なドメインをまたがって統合できるよう、トップダウンでのシステム・アーキテクチャの検討が必要である。
次世代電力統合システムは電力会社の事業活動を統合し、(新しいアプリケーションとシステムを通じて)よりよいネットワークの制御と監視を可能にし、現場のデータ収集、ローカル制御と自動化を改善するだろう。

今後のビジネス展開

現在、次世代電力統合システムの領域では、IBMやオラクルのような巨大企業が活発に活動している。新興ソフトウェア会社は、負荷分析や、従業員管理のような、重要ではあるがニッチな課題を解決する最高のソリューションを開発できるかもしれないが、会社のシステム・アーキテクチャの再開発や改良を行うに当たっては、信用力のあるパートナーがもてはやされる。DMSを自社システムに加えるに当たってはABBやSELのような配電自動化に関する深い経験を有する企業を、エンタープライズ・アーキテクチャの開発に当たっては、オラクルやIBMのような大企業を選ぶだろう。
しかし、スマートグリッドが具体化し始めると、次第にスマートグリッドの個々のソリューションは(入れ替え可能な)モジュールと看做されるようになり、電力会社も、(大企業かどうかに関わらず)自社の特定の課題を解決してくれるパートナーと手を組むようになると思われる。現段階では、「何でもそろうスマートグリッド会社」がもてはやされているが、今後ベンダーは、自社製品に更なる磨きをかけ、コア・コンピタンスにフォーカスする必要がある。

今回は、来るべきスマートグリッド時代の電力会社のシステムはどうあるべきか、スマートグリッドに商機を見出しているベンチャー企業はどうすべきか-といった内容でした。
ICT投資額を抑えながら最大の投資効果を出すためには、AMIを自動検針インフラとして構築するのではなく、停電管理システムと統合し、更に、スマートメーターだけでなく配電機器のセンサーの通信インフラと共用して配電自動化システムと統合するという風に、今後電力業務システムの統合化が必要である。そして統合化をスムーズに行うためにも、エンタープライズ・アーキテクチャを再構築すべきであるというのは、どこかのITベンダーのセールス戦略の片棒を担いでいるような趣がしないでもないですが、正論は正論だと思います。

ところで、節のタイトルである「Advanced Utility Controls Systems」をどんな日本語にすべきかで結構時間をとられました。直訳すると、「先進的な公益企業の制御システム」とでもなるのですが、まず本レポートが対象にしているのは、公益企業といっても、電気事業が主(少なくとも水道事業は含まれない)ので、これまでも、分かりやすく、Utilityを電力会社と訳してきました。また、制御システムというと系統制御(EMS/DMS/SCADA)のためだけのシステムという意味にとられかねません。そこで、この節で強調している「統合」の必要性と、そのために電力業務全般にわたる「エンタープライズ・アーキテクチャ再構築」の必要性のニュアンスが含まれることを期待して「次世代電力統合システム」に落ち着いた次第です。

次回は、いよいよ2章の最後、2.8節 スマートホームとHANをご紹介したいと思います。

終わり