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GTMリサーチ社の調査レポート『2010年のスマートグリッド:市場セグメント、アプリケーションおよび業界のプレーヤー』の2章を翻訳しています。今回は2.8節をご紹介しましょう。

なお、文字色=緑の部分は、筆者の追記部分です。それと、全文翻訳ではなく、一部筆者の思いがはいった超訳(跳躍?)になっているかもしれないので、予めお断りしておきます。

2.8 スマートホームおよびホームエリアネットワーク(HAN)

ホームエリアネットワーク(HAN)は家庭内のネットワークで、家庭内の装置や主な電気製品が互いに通信し、電力会社から中継される電気(あるいはCo2排出量)が現在高いか安いかの価格シグナルにダイナミックに応答するために用いられる。
皿洗い機をまわすのを3時間待てば、電気代が50%節約できるとしたら、それを望まない人はいるだろうか? さらに言えば、屋根にはソーラーパネルとマイクロ風力タービン、最新のエネルギー貯蔵装置と電気自動車充電用のスマートチャージ機能まで装備した(そして、ウェブ・ベースのホーム・エネルギー管理ポータルで、それらの装置の状況をリアルタイムに監視し、リモート・コントロールが可能な)「スマートホーム」を望まない人はいるだろうか? iPhoneで自宅でのエネルギー使用量や発電量がわかるだけでなく、太陽光発電のうち自家消費できなかった余剰電力や、自宅のエネルギー貯蔵装置から系統側に供給した電力に関して電力会社がいくら払ってくれるのかわかるとしたら、それを望まない人はいるだろうか?
これまでは夢物語だった、そのようなHANの楽しい世界が、まもなく、大規模に展開されようとしている。(※ 後書きの絵参照)

HANは、これまで、“先端技術のそのまた先”のものと目されてきたが、今後2012年までに、次のような変化が起きると予想される:

  1. 消費者と電力会社間の通信ゲートウェイとして、数千万台のスマートメーターが設置される
  2. HANに接続される装置間の相互運用性の規格が完成する
  3. 消費者は、オンライン・バンキングや自動引き落としのアプリケーションを使用するように、ホーム・エネルギー管理ポータルを使用するようになる
  4. 多くの地域で時間帯別電気料金制への移行が計画され、消費者は、エネルギーの使い方をプログラムし始める(※後書き参照)
  5. 電気製品メーカーは、電力需要がオフピークの時間帯を選んで自動的に運転するようなスマート・デバイスの効用を考慮し、総費用(機器費用+使用時のエネルギー費用)に基づいて製品を市場に出すようになる

電気製品、サーモスタット、冷暖房機器にインテリジェンスを持たせ、通信能力を付け加えることは、電力会社と消費者双方に利益をもたらす。住宅所有者は、エネルギーの使用状況をモニターできるとともに、(例えば、家電機器設置時に運転条件を自分の好みに設定しておくというような)ほんの小さな努力で、電気代を削減できる。さらに、省エネ励行者に対して電力会社から提供されるインセンティブで利益を得ることができる。
一方、家庭の中までスマートグリッドを拡張した電力会社は、以前の単純なデマンドレスポンスよりうまくピーク需要を管理できるようになる。住宅/建物内までスマートメータリングのインテリジェンスを拡張し、スマートメーターの先の家電機器などとインタフェースするのは、従来の電力系統運用から見ると画期的な進歩である。
中には、すでに直接家電機器を制御することで、ピーク負荷需要を管理している電力会社もあるが、HANとHEMSは、住宅内の電気製品その他の装置に対して住宅所有者の電力消費に対する好み(節電で電気代を安くすることを優先するか、電気代が高く付いても使いたい時に自由に電気を使うことを優先するか)を指定することを可能とし、消費者がエネルギー消費に参加する方法を根本的に変化させた。

スマートホームは、これまでも未来志向の好事家にとって面白いテーマだったが、エンドユーザと電力会社の間の通信を支援できるインフラが実運用ベースで展開している点が以前と異なっている。これは重要な変化である。
広帯域ネットワークがFacebook、YouTubeおよびNetflix Instantのようなポピュラーなウェブ・アプリの出現を可能にしたように、AMIネットワークは、エンドユーザ向けの次世代エネルギー管理ツールとアプリケーションの開発を促進するプラットフォームとなるだろう。HANの領域で、インターネットと同じようなことが起きようとしているのである。

北米で最大のAMIプロジェクトをすすめているPG&E社は、HAN装置市場が毎年185%の成長率で成長し、かつ2012年までの市場規模は33億ドルに上ると予測している。下図は、PG&E社が実施した、HANがもたらす便益の評価結果である:

HAN市場には、以下の2つの主要製品/サービス領域がある:
1. 通信ネットワーク
2. ホームエネルギーマネジメントシステム(あるいはポータル)

通信ネットワーク

HANはまだ開発途上にあるが、有線および無線を利用したハイブリッドな形で監視・制御対象機器をホームネットワークにつなぐソリューションとして出現するだろう。無線ホームネットワーク通信では、小電力無線メッシュ・ネットワーキング技術に基づいたZigBeeが現在トップを走っていて、WiFiが、少し離されてはいるが、それに続いている。(WiFiは、所要電力に心配があり、あまり支持を得られていない)その他の無線規格には、無線障害を受けにくいZ-waveや、IPv6に基づいた小電力無線パーソナルネットワークの6LoWPANがある。6LowPANは、インターネット・プロトコルに基づいたオープン・ネットワークで、ZigBeeの閉じたネットワークへの対抗馬となっている。
技術的な違いとは別に、スマートメーター側、家電製品などのリモート・コントロール側の両方でZigBeeの通信プロトコルが採用されており、現在、ZigBeeが優位である。とは言え、HANの通信規格がZigBeeで決まりというのは、まだ早い。

無線に代わるものとして、住居やビルの既存の電線を利用した電力線通信(PLC)がある。HomePlug Power Allianceは、PLCが無線より高性能・高品質であると主張し、この有線のソリューションの普及促進を図っている。
このHomePlug Power AllianceはZigBee Allianceと、(マーケティング活動を行う)共同のワーキンググループを結成しており、有線と無線を併用したベスト・ソリューションとして売り込んでいる。2009年5月に、米国エネルギー省(DOE)と米国立標準技術研究所(NIST)は、「ZigBee/HomePlug Smart Energy profile」を、初めての相互運用可能な標準規格および情報モデルに選んだ。

ホームエネルギーマネジメントシステム(HEMS)

第2の技術領域は、住宅/建物のエネルギー管理システム(HEMS、ホーム・ポータルと呼ばれることもある)である:
HEMSによって、消費者は、(電気の使い方に関する選択と嗜好から、自宅で発電/蓄電してあった電気をどのような条件の場合に売るかのオプションまで)直接、エネルギー・データと向き合うことができる。

スマートホーム実現までにはまだかなりの年月がかかりそうだが、かつてと比べると、身近になってきた。電力会社や、その他の大規模サービス・プロバイダーがこの市場の推進役だが、エネルギー効率がその推進の決め手である。一旦ネットワーク・インフラが出来上がってしまえば、(例えそれがスマートメーターからスマートサーモスタットに話しかけるだけの非常に単純なものであっても)、HEMSの市場を大々的に押し広げるきっかけとなるだろう。消費者が省エネのためのプログラムに慣れ、それがもたらす利益の味をしめれば、HEMSに対してさらに大きな機能性を期待するだろう。
そして、一旦HEMSの市場が出来上がれば、より多くのベンダーが新たな、より面白いHAN関連のイノベーションを起こして、我々を自己構成無線ネットワーク、文字通り「もののインターネット:the Internet of Things」(※後書き参照)の世界に近づけてくれるだろう。

以上、2.8節をご紹介しました。以下は、この節に関する補足とコメントです。

スマートホームについて

2.8節には、スマートホームの絵がなく、文章を翻訳するだけでは分かりにくかったかもしれませんので、最初に、Xcel Energy社とGridpoint社が描いているスマートホームの絵を掲載しておきます。


出典:Xcel Energy


出典:Gridpoint

スマートグリッドというと、とかく「グリッド」、すなわち、電力会社側の目線で考えがちですが、経産省の「次世代エネルギー・社会システム協議会」というネーミングに見られるように、地球温暖化対策を含めエネルギーの使い方全般の最適化までを視野にいれるのが、ここ最近の方向性だと感じています。その場合の主体は「スマートコミュニティ」であり、またそれを構成する「スマートハウス」ということになるのでしょう。
そして、スマートハウスを実現する情報インフラがHANであり、その上でHEMSが住居内のエネルギー使用の部分最適を行うとともに、スマートメーターを経由してグリッド側とM2Mでインタフェースして、地域あるいはさらに広いエリアのエネルギー使用の全体最適を行うのがスマートコミュニティだ-というのが、この2.8節に関する私の拡大解釈です。

「エネルギーの使い方をプログラムする」について

本文中のHEMSの説明の中にあったこの表現は、言葉だけでは分かりにくかったと思いますので、下の図を見てください。左側のProgrammable Communication Thermostatは、すでに製品化されているもので、冷暖房装置(HVAC System)を制御していますが、事前に「これ以上冷房時の設定温度を上げない」とか「暖房時の設定温度をこれ以下に下げない」という値を設定(プログラム)しておけば、デマンドレスポンスで電力会社からスマートメーターを介してエアコン温度設定変更の指令が届いても、自宅側の設定が優先されます。ただし、そのように快適さを優先した場合は電気代がどのくらい高くなりそうかが、下図右側のポータル画面でわかるので、需要家は、経済性と快適さの兼ね合いで、納得してデマンドレスポンス・プログラムに協力できるようです。


出典:Neural Energy Home Energy Management

現状では、サーモスタットの設定程度の機能しかありませんが、今後、ソーラーパネル/マイクロ風力タービンでの発電、エネルギー貯蔵装置への蓄電や電気自動車への充電を、いつどのような条件で行うかというようなことまで“プログラム”できるようになるのではないかと思っています。
2つ前のブログ記事の後書きで、「V2B + B2G = V2G」、「スマートチャージやV2Gの機能をHEMS側の機能とすれば、V2Gという特別なソリューションは不要ではないか」と述べましたが、本レポートでも「電気自動車充電用のスマートチャージ機能まで装備したスマートホーム」という表現があり、意を強くしました。

結局、FANの通信規格は何が主流になるのか?

本レポートの2.1.6(ブログ:その7)では、「将来のアプリケーション統合を考えるとZigBee無線は帯域幅が狭くて役不足」というような表現があり、今後期待できるものとして携帯電話ネットワークとWiMAXがあげられていましたが、この節では紹介されていません。
以下に、スマートグリッドとWAN、FAN、HANと、スマートメーターの関係を再確認する意味もこめて、WiMAX無線通信を利用する場合のスマートグリッドの絵姿を掲載しておきます。


出典:GRID NET

将来のスマートグリッド・アプリケーションの発展を見据えるとZigBee/PLC連合に依存するのは不安だけれども、今の時点でのFANの最適解は、この無線と有線の組み合わせだということで、著者は記載しなかったものと解釈しています。
「今からシステムアーキテクチャを再構築し、将来を見据えて実展開をせよ」という、2.7節の著者の主張(ブログ:その12)と矛盾しているように思えますが・・・

需要家のエンパワーメント

「図27:HANがもたらす便益」で使われている「エンパワーメント」という表現は、翻訳しづらくて、そのままカタカナにしてしまいました。著者が言わんとしていることは、「需要家は今までのようにただ電気を使う人ではなくなる」または「そうなるべき」で、エネルギーの使い方に関して主体的に関与するよう力添えする(=empower)のがHANの便益の1つだということだと思います。
HEMSが自宅内の太陽光パネルや小型風力タービンの発電と、据え置き型のエネルギー貯蔵装置や移動型(つまり、電気自動車)のバッテリーの充放電を管理して、まず家庭内での電力の自給自足の制御を行えるようになると、HEMSを利用する人を、電力の需要家とか消費者とか呼ぶのはふさわしくなくなってきます。最近あまり耳にしませんが、未来学者アルビン・トフラーが1980年に発表した著書『第三の波』の中で示した概念:生産消費者(プロシューマー:prosumer=producer+consumer)を思い起こしました。
そういえば、著者は、スマートメーターを「スマートグリッドの第一の波」と表現したり(ブログ:その7)、レポート冒頭の要旨(ブログ:その1)の部分では「電力業界は、今大きな潮の変わり目にさしかかっている(原文:The electric power industry is in the early stages of a sea change.」と表現したり、ずいぶん「海」や「波」にこだわっています。
『トフラーによると ~ 第二の波が訪れた社会では生産者と消費者が分離し、生産消費者の役割も小さくなった。そして第三の波の社会では、社会の非マス化(均一性が失われること)や製品のカスタマイズ性の向上、生産消費者の活動を助けるサービスや製品の登場などにより分離した生産者と消費者が再び融合する傾向を示し、新しい形で生産消費者が復活すると説いた。』(以上、Wikipedia 生産消費者の項より)ということで、筆者は言外に「今、エネルギーの分野にも第三の波が押し寄せている」、「スマートグリッド自体が第三の波だ」といいたいのかもしれないと感じています。

もののインターネット:the Internet of Things

2.8節最後に出現するこの表現に関しては、以下のIBM社によるYouTubeでの説明がわかりやすくてよいと思います。

スマートハウスというレベルでは、HANで繋がる家電機器をHEMSが監視して、その家庭内のエネルギー利用の最適化を行いますが、更に将来、個々の家電機器がもっとインテリジェントになり、かつ、互いに会話できるようになる(=もののインターネット化する)と、HEMSなどなくても(あるいは、HEMSより大きな概念である「もののインターネット」の仕組みを実現する枠組みの中で)、家電機器などの装置どうしが通信しあって、いつ自分が動けばよいか調整する-というシナリオが紹介されています。

以上で、2章のご紹介が終わりましたので、ブログ上、一旦、このシリーズは完了とさせていただきます。なお、ブログの本シリーズその7~14について、用語上の統一など施し、『「2010年のスマートグリッド:市場セグメント、アプリケーションおよび業界のプレーヤー」第2章紹介』と題して、弊社ホームページの調査実績 No.10として登録しました。通しでご覧になりたい場合に、ご利用ください。

終わり