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スマートグリッド業界のプレーヤーを概観するため、GTMリサーチ社の調査レポート『2010年のスマートグリッド:市場セグメント、アプリケーションおよび業界のプレーヤー』の5章を簡単にまとめています。今回は第5.2節です。

なお、従来どおり、文字色=緑の部分は、筆者の追記部分です。それと、また、一部筆者の思いがはいった超訳(跳躍?)になっているかもしれないので、予めお断りしておきます。

5.2 AMI - ネットワーク構築と通信

5.2.1 カレント・グループ:Current Group

様々なスマートグリッド・ソリューションを提供するため、カレント・グループは低いレイテンシーのIPベース通信ネットワークおよびソフトウェアと、高度なセンサー技術を組み合わせ、配電の最適化、信頼性向上、再生可能・分散エネルギー源の統合、および顧客管理などのソリューションを提供している。包括的なエンドツーエンドのスマートグリッド・ソリューションを達成するため、ハードウェアとソフトウェアの両方を開発し、センサー・ゲートウェイ、ネットワーク・インフラおよび、設備管理、電力品質の計測、故障分析その他系統運用上の重要なシステムを開発し、市場に提供している。

そのイノベーション性、ビジネス・社会へのインパクト、将来の発展および持続性、明確なビジョンなどがWorld Economic Forum 2009で評価され、テクノロジーのパイオニアとしていくつかの賞を授与されている。また、グリーン・テクノロジー企業として「GoingGreen East Top 50」、ダウ・ジョーンズの「2008 Ten Most Innovative Clean Tech Companies in Europe」、2006年にはプラット(Platts)の「Global Energy Commercial Technology of the Year」やRed Herringの「Top 100 North America」にも選ばれている。

展開】

カレントは、エクセル・エナジーが推進するSmartGridCityプロジェクトの技術パートナー企業の1つで、この米国初の完全に統合されたスマートグリッド・コミュニティのプロジェクトで同社の技術が実証された。
その他に、ダラス・フォートワース地域でOncor配電会社と、10万軒を超える家庭および業務顧客へのスマートメーター展開を実施している。
また、世界で4番目に大きいIberdrola電力会社主導のものを含め、いくつかEUがスポンサーとなっているスマートグリッド・プロジェクトに参加している。

【戦略】

スマートグリッド導入に当たっては、スマートメーターに注目が集まりがちだが、通信・ネットワーキング分野で競争する他のほとんどの企業とは異なり、カレントは、スマートメーターを導入したところで消費者のエネルギー消費パターンを変更することはできないという立場をとっている。
発電する必要性、温暖化ガス排出、停電の発生を低減させ、投下資本をより効果的に使用するには、スマートな通信インフラを持つ必要があり、そのためには、送配電の最適化と配電管理の改善をとおしたグリッド最適化が非常に重要である。また、それを実現するためには、より低いレイテンシーの通信ネットワークが必要であると主張し続けている。

【アナリスト ノート】

カレントのネットワーキング・ソリューションは、将来、より広い帯域幅(あるいは、より低いレイテンシー)を必要とするという予想の下、光通信/携帯無線通信をベースとして開発されている。したがって、より高いレイテンシー(あるいは狭い帯域幅)のRFメッシュ技術を採用しているトリリアントやシルバースプリングといった競合他社のソリューションより価格が高い。
カレントの主張はこうだ。『将来、電気自動車が普及し、太陽光・風力発電の配電系統連系が増加すると、配電ネットワークの改善が余儀なくされ、その際、低いレイテンシーが絶対必要となる。RFメッシュネットワークではとても信頼性を確保できない。』
これは真実かもしれないが、「将来の保証:future proofing」という名のもとにPUC(公益事業委員会)が進んで高価なネットワーク・インフラ構築を承認するかどうか、今のところ不明である。
カレントは、明らかに競合他社よりスマートグリッドについて包括的なビジョンを持っているように思われるが、公益企業規模のネットワーク契約がどこに着地するか、今後の成り行きに目が離せない。

5.2.2 エカ・システム:Eka Systems

エカ・システム社は、スマートメーターのメッシュネットワーク構築のためのハードウェアとソフトウェアの両方を提供するAMIネットワーキング・ソリューションの会社である。競合には、シルバースプリング・ネットワーク、トリリアント、カレント・グループ、グリッドネット(Grid Net)、スマートシンク、その他に、アイトロン、エルスター、ランディス+ジルのような独自のAMIインフラを提供するスマートメーターのベンダーがある。
この会社は、インターネットから監視、制御可能な無線ネットワーク技術を持ち、「EkaNet住居用メーター」を用いたAMIのソリューションを提供している。「EkaNetワイヤレスゲートウェイ」は、同一ネットワークで、複数のメーター・タイプをサポートし、「EkaNetネットワーク・マネージャー」がメッシュネットワークを管理、「EkaNetフィールドツールセット」が、ネットワーク展開用のツールとして用意されている。
メータリング機能(使用状況の追跡と分析、デマンドレスポンスの実施、負荷削減、停電の即時検知、送電ロス防止など)、サブメータリング機能(多世帯住宅や、一般住居と商業施設が共存する施設の計測など)、配電自動化(無線遠隔操作による変電所統合や、配電線の障害分離・管理を実施)のソリューションを、公益事業会社、装置製造メーカー並びにシステム・インテグレーターに提供している。

【戦略】

堅牢で、廉価、スケーラブルなセンサー・ネットワークの提供。

【展開】

テキサス州サンマルコスで、2万台の電気メーターと1万台のガスメーターを導入。このプロジェクトは、2009年2月、送配電事業者向けの業界誌:Utility Automation and Engineering T&D Magazineにより、年間最優秀AMIプロジェクト:AMI Project of the Yearに選ばれている。
また、2005年以来、ロシアのサンクトペテルブルグで3万台のメーターを束ねるAMIインフラが実運用されている。

【アナリスト ノート】

現在、公衆携帯電話キャリアー、およびCiscoのような大手IT企業もこの領域に乗り出してきており、エカ・システムの将来を予測するのは難しい。カレント・グループ同様、今後、大規模な公益企業のスマートグリッド契約が取れるかどうかが、試金石となる。
シルバースプリングのように成長できるかどうか今のところわからない。今後5~10年、スマートメーターの需要が落ち込むことはないと思われるが、その需要をビジネスにつなげるためには、電力会社の信頼を勝ち得なければならず、「言うは易く行うは難し」である。

5.2.3 シルバースプリング・ネットワーク:Silver Spring Networks(SSN)

SSNは、北米AMIネットワーキング・ソリューションのリーディングカンパニーである。
PG&Eの大規模な公益企業AMIプロジェクトに関与しており、FP&L、Pepcoホールディングス、オクラホマ・ガス・アンド・エレクトリックその他2つのオーストラリアの公益企業のスマートグリッド・プロジェクトに関わっていて、これらの契約を合計すると、SSNのソリューションが取り扱うスマートメーターは1000万台を超える。

競合会社には、シスコ、トリリアント、スマートシンクのようなAMI用ネットワークを構築する企業と、アイトロン、エルスター、ランディス+ジルのような独自のAMIインフラを提供するスマートメーターのベンダーがある。

SSNはネットワーキング専業会社で、顧客のスマートメーター(および、配電設備のインテリジェントなデバイスやセンサー)と、「ヘッドエンド:head end」と呼ばれる公益企業の制御および管理システムの間での双方向リアルタイム通信機能の提供にフォーカスしたビジネスを展開している。SSNが提供するソリューションの「Smart Energy Network」は、インターネット・プロトコルに基づき、複数のトランスポート技術を用いて、共通のネットワーク・インフラ上で多数のアプリケーションおよびデバイス入出力を実行する課題に挑戦している。(注:スマートメーターの製造販売は行っていない)
SSNが目指すのは、公益企業の運用効率改善、温室効果ガス排出削減と、顧客がエネルギー消費を管理・監督する新しい方法を提供で、スマートメータリング、デマンドレスポンス、配電自動化および分散電源管理その他を実施するのに必要なハードウェア、ソフトウェアおよびサービスを提供している。

同社のソリューションはオープンで、IP標準ベースなので、グリッド上のすべてのデバイスと公益企業の間で連続的な双方向通信が可能である。

2008年、世界経済フォーラムは、Technology PioneerとしてSSNを表彰している。また、公益企業ネットワーク最適化の分野で特許を取得している。

【アナリスト ノート】

2009年、SSNとABBは、ABBの変電所用コンピュータおよび電力制御デバイス(PCD)の遮断器()と、SSNのスマートエネルギー・ネットワークの相互運用性試験が無事完了したことを発表した。この試験は、グリッド最適化、先進的な制御システムとAMIプロジェクトの間の垣根が低くなりつつあることの重要性を我々に気づかせてくれた。SSNには、今後も継続してこのようなタイプのサービスを提供してもらいたい。なぜなら、電力会社は、理想として、多くの(できればすべての)スマートグリッド・イニシアチブを同一の通信ネットワークに乗せることを望んでいるからである。
なお、本レポートではレイテンシーの高いRFメッシュネットワークの潜在的な欠点への注意を喚起したが、ちょうどインターネットがそうだったように、これらのネットワークも時間が経てば改善される可能性がある。少なくとも、現在SSNはマーケットリーダーとして波に乗っており、非常に利益をあげていることは確かである。

【要注意】

2009年、シスコがスマートグリッド・ビジネスに参入してきたのは、大企業がAMIネットワークに目を向けだした証拠である。FP&LのAMIプロジェクトでは、シスコとSSNは提携していたが、6月にシスコがデューク・エナジーとの業務提携を発表した時、SSNは「かやの外」だった。シスコは多分自前のハードウェアを用いて単独でネットワークインフラを構築する自信がついたのではないかと思われる。

シスコは世界最大のネットワーク企業であり、スマートグリッド・ネットワーク・プレーヤーとしての新規参入は、SSNにとっては非常な脅威である。北米やオーストラリアでは、SSNは依然として支配的なAMIネットワーク・ソリューションプロバイダーであり、今後もその強いブランド力を利用し続けるだろう。多くの関係者は、SSNが株式公開する最初のスマートグリッド会社の1つであると期待している。

5.2.4 スマートシンク:SmartSynch

スマートシンクは、公衆無線ネットワーク上で標準IP通信を行うスマートグリッド・ネットワークインフラを提供する会社で、大規模AMI展開を支援する競合他社とは非常に異なったビジネスモデルを持っている。
シルバースプリング・ネットワークやカレントが必要な通信インフラを構築しているのに対して、スマートシンクはAT&TやT-Mobileのような公衆無線ネットワーク事業会社と提携し、リアルタイムにエネルギー使用量などのデータを任意のデバイス間でやりとりすることができるIPベースのエンドツーエンドのソリューションを提供しているのである。
SmartMeters、SmartBoxesとsmart softwareから構成されるIPベースのSmartSynch Platformがあり、電力会社とその顧客、並びに、ソーラーパネルからPHEVまでを遠隔通信・制御するクリーン技術企業向けに製品・サービス提供している。
設立は2000年で、当初は防災無線などを扱うPagerネットワークを構築する会社だった。しかし、現在は、GSMやCDMA技術など、携帯無線ネットワークをベースとしている。
現在までに、パイロットプロジェクトを含め、北米で約75の電力会社のスマートグリッド関連プロジェクトに関わっている。それらのプロジェクトの多くは、まだ本格的なスマートグリッド導入規模ではないが、Hydro One、AEP、SCE、PG&E、Excelonなど北米の錚々たる電力会社と組むことにより、同社はこの分野で一定の地歩を築いている。
従業員は約84名。

【注】

2009年3月、同社は、AT&Tと公式に事業提携し、携帯無線ネットワークで公益企業と家庭の電気メーターを接続するという、スマートグリッド用ネットワークとして非常に興味深い提携を発表した。その直後の4月には最初の契約が成立。テキサス州のニューメキシコ・パワー社がパイロット・プロジェクトとして約1万世帯とスマートメーター展開に、スマートシンクとAT&Tの仕組みを使うことを決定したのである。
公益企業から発信する情報の伝達に公衆無線は使われていたが、電力会社のシステムと一般家庭のスマートメーターを直接結び付けるために公衆無線を使うのはこれが初めての事例である。

5.2.5 トリリアント:Trilliant

トリリアントは、スマートメータリングその他のスマートグリッド・アプリケーション用に無線通信のバックボーンを提供する、AMIネットワーキング・ソリューションの会社である。
競合には、シルバースプリング・ネットワーク、スマートシンク、エカ・システムその他の主要AMIネットワーク・プロバイダーがいる。また、アイトロン、ランディス+ジルおよびエルスターのような、自前のAMIネットワークインフラを提供するスマートメータリングの会社も競合会社である。
同社のAMI通信ネットワークはSecureMeshと呼ばれ、RF無線メッシュネットワーク・オペレーティング・システムを提供している。また、電力計をスマートメーター化し、通信ゲートウェイとなる通信チップのようなハードウェアや、デマンドレスポンス、負荷制御および配電監視のようなアプリケーションソフトウェアも提供しており、これまでの累計で、スマートグリッド・アプリケーション用の双方向インテリジェント通信装置を100万台以上出荷している。

【展開】

カナダの電力会社Hydro Oneのスマートグリッド・イニシアチブでトリリアントがAMIネットワーキング企業に選ばれた。現在までに、75万台以上のスマートメーターが同社のAMIネットワーク上で稼動している。

以上、5.2節 AMI用ネットワークの構築と通信に携わる主要プレーヤーについてご紹介しました。GTMリサーチのスマートグリッド・マップ上で、これらのプレーヤーの占める位置を確認しておきましょう。

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GTMリサーチは、スマートグリッドの将来形を考えた場合、データ転送容量的にRFメッシュネットワークでは役不足で、早晩、もっと帯域幅の広いネットワークが必要と見ています。したがって、今流行のRFメッシュでスマートグリッド用ネットワークインフラを整備してしまい、後になって全面的にネットワークインフラを入れ替えるのは、膨大な二重投資になるので、今から将来を見越した投資を行うべきであるという考えのようです。

そこで?、AMIネットワークインフラのプレーヤーとして、今をときめくシルバースプリング・ネットワークではなく、カレントグループを先頭に位置づけたものと思われますが、「アナリスト ノート」部分に記述されているとおり、「競合他社のソリューションより価格が高」く、先日ブログでお知らせした「スマートグリッドシティ崩壊」を招いたコストオーバーランに拍車をかける結果になってしまったのではないかと懸念しています。
導入・運用コストを正しく評価しない限り、いくら素晴らしいスマートグリッドのビジョンを描いていても、所詮「絵に描いた餅」。どれだけスマートグリッド用ネットワークインフラに投資できるのかの見極めが大事ですね。
その際、そのスマートグリッド用ネットワークインフラが誰の所有であるべきかも問題です。電力会社の業務効率化/次世代ICT化の一環なのか、スマートコミュニティ用のネットワークインフラとして共有するのか?
後者なら、ネットワークインフラは、国や地域の所有とする方が良さそうですが、そうすると、そのネットワークインフラ上のアプリケーションの種類も増えるので、RFメッシュネットワークという選択肢はなくなりそうです。
シルバースプリング・ネットワークの栄華はいつまで続くのか?いつの間にかシスコに買収されてしまったなんていうことにならなければ良いですが。。。

シルバースプリング・ネットワークに関して、もう1つ気になったのは、同じく「アナリスト ノート」部分の記述で「電力会社は、理想として、多くの(できればすべての)スマートグリッド・イニシアチブを同一の通信ネットワークに乗せることを望んでいる」という箇所でした。日本の場合はどうなのでしょうか?
各電力会社の方のご意見を伺ってみたいですね。

では、次回は5.3節 デマンドレスポンス部分をご紹介します。

終わり