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11月4日、4回目の次世代送配電システム制度検討会第2ワーキンググループの会合があり、傍聴させていただきました。
同ワーキンググループ(以降WG2)は、全量買取制度に関連した費用回収スキーム等の検討を付託され、電気事業制度に関連する課題を中心に、以下のような論点で検討が行われてきました。

第1回: 再生可能エネルギーの買取りに関する技術的論点について

(1) 買取りを行う者と買取価格、買取費用の考え方

-買取主体の考え方(一般電気事業者、PPS、特定電気事業者、自家発(自家消費)・特定供給)
-買取契約の在り方(FIT価格への上乗せの可否等)
-買取費用における控除額の考え方

(2)卸供給制度との関係、買取期間終了後の扱い
(3)環境価値の取扱いに関する基本的考え方

第2回:買取費用の回収スキーム等に関する技術的論点について(1)

(1) 電気料金制度上の取扱い(サーチャージの法的な位置付け等)
(2) 買取費用の精算方法
(3) 地域間調整

第3回:買取費用の回収スキーム等に関する技術的論点について(2)

(1)電気料金制度上の取扱い(外生的・固定的な要因に基づくコストの取扱い)
(2)系統安定化対策費用の負担に関する基本的考え方の整理

第4回の今回は、これまでの議論を踏まえて事務局側でまとめられた『次世代送配電システム制度検討会第2ワーキングループ報告書 全量買取制度に係る技術的課題等について(案)』の説明および、それに関する自由討議です。
WG2の作業はこれで完了し、今回出たコメントを上記の報告書に反映し、次世代送配電システム制度検討会に提出され、関連する法律改正に向けて動き出します。

そこで、今回は、この報告書の内容をご紹介したいと思います。

報告書タイトル

次世代送配電システム制度検討会第2ワーキングループ報告書
全量買取制度に係る技術的課題等について(案)

作成日

平成22年11月4日

作成部署

経済産業省資源エネルギー庁

目次

0.はじめに
1.買取主体
2.買取契約の在り方
3.買取費用算定における控除額の考え方
4.卸供給制度との関係・買取期間終了後の扱い
5.買取費用の負担に関する電気料金制度上の取扱い
6.全量買取制度における買取費用の回収タイミング
7.地域間調整に関する考え方
8.その他のコストの取扱い
9.外生的・固定的なコスト要因の料金反映
10.系統安定化対策費用等の負担
11.環境価値の取扱い

では、以降、ポイントをかいつまんでご紹介します。

0章:はじめに

  • 地球温暖化対策、エネルギーセキュリティの向上、環境関連産業育成の観点から、再生可能エネルギーの導入拡大は重要な政策課題
  • 再生可能エネルギーの導入拡大を図るための政策の柱が固定価格買取制度
  • これは、一定の条件を満たす再生可能エネルギー由来の電気を、電気事業者が一定の価格で一定期間買取ることを義務づけ、あわせて、買取費用の回収に関する仕組みを整備することで再生可能エネルギーの導入拡大を目指す制度
  • 平成21年11月に、非事業用(一般需要家)の太陽光発電を対象として、電気事業者が一定の価格・期間・条件で余剰電力を買取る、「太陽光発電の余剰電力買取制度」がスタート
  • (WG2に先行して)同じく平成21年11月に、「再生可能エネルギーの全量買取に関するプロジェクトチーム」が経済産業省に設置され、新たに、全量買取制度を導入するための事前検討を実施
  • 平成22年7月に、全量買取制度の基本的な考え方(制度の大枠)が取りまとめられた
  • WG2では、「制度の大枠」で示された基本的な考え方を踏まえつつ、全量買取制度の導入に当たり必要となる買取費用の回収スキームをはじめ、電気事業法に基づく諸制度とも密接に関連する技術的な事項について、検討を行った
  • 本報告書は、具体的な検討項目ごとに、WG2における検討結果を取りまとめたものである

1章:買取主体

  • 基本的に、既存の電源を活用しながら、再生可能エネルギーの出力変動に対応し、需要家に電気を安定的に供給できる者を買取義務者とする
  • その意味で、現行制度と同様に、一般電気事業者が一義的な買取義務を負うものとすることが適当と考えられる
  • 特定電気事業者も買取義務を負うものとし、買取費用の負担方法や地域間調整のあり方等についても、一般電気事業者と同様に取扱うことが適当である
  • 公平性確保の観点から、特定規模電気事業者(PPS)も、同様に買取制度下で電気を買取ることができ、費用回収についても、買取義務者と同様の扱いとする

一般電気事業者、特定電気事業者、特定規模電気事業者、卸供給事業者については、下図を参照


出典:WG2第1回会合配布資料5-3ページ  拡大表示

2章:買取契約の在り方

  • 全量買取制度において定められる買取価格(FIT価格)は、いわば「基準価格」で、買い手がつかなかった場合には一般電気事業者が「基準価格」で最終的な買取義務を負うことが前提
  • それ以上の価格でPPSなどが買取ることも認める
  • その場合、FIT価格を超える部分については、買取った者が自らの需要家から回収する等、買取制度の枠外で対処する制度とすることが適当


出典:第4回WG2会合資料3-6ページ  拡大表示

  • 水力・地熱・バイオマス発電については、発電設備設置者において、積極的に、入札や日本卸電力取引所のグリーン電力卸取引の活用を行うことが望ましい
  • 買取期間全体に及ぶ一括契約に限定する必要はなく、買取期間中の分割契約も認めるべきである(例:買取期間中、1年ごとに入札/取引所/相対契約を切替え)
  • 一定規模以上の電源に限定した上で、複数の事業者による買取りを可能とする


出典:第4回WG2会合資料3-7ページ  拡大表示

3章:買取費用算定における控除額の考え方

  • 買取費用の算定に当たっては、FIT価格から、買取りに伴う回避可能原価に相当する部分を控除した上で、買取電力量を乗ずることが適当である
    買取費用 = (FIT価格 - 回避可能原価) × 買取電力量
  • 一般電気事業の回避可能原価は、全電源平均可変費を採用することが適当と考えられる
  • PPSの回避可能原価には、一般電気事業者の全電源平均可変費の加重平均値により代替することが適当と考えられる

4章:卸供給制度との関係・買取期間終了後の扱い

  • 卸供給事業者として卸供給制度の下で事業を行うか、全量買取制度の下で事業を行うかは、発電事業者の選択に委ねることが適当と考えられる
  • ただし、全量買取制度では、買取義務の期間終了以後は、法令に基づく買取義務は生じない

5章:買取費用の負担に関する電気料金制度上の取扱い

  • 買取費用の負担については、全ての需要家が公平に負担する観点から、全量買取制度の大枠において、電気の使用量に応じて負担する方式が基本となる
  • 確実に買取費用を回収するため
    • 電気事業者に買取費用を回収するための請求権を付与
    • 規制小売分野については、供給約款に、買取費用の負担を「再生可能エネルギー促進付加金(以下「サーチャージ」と略称)」として、電気事業法における「料金その他の供給条件」の一部として位置づける
    • 自由化分野でも、電気の供給の対価を構成する要素として、電気の本体料金と一体的なものとして位置づけ、規制小売分野と同様の取扱いを確保していく

6章:全量買取制度における買取費用の回収タイミング

  • 買取られた電力は同時に需要家に供給されるため、回収についても、買取りと並行して実施することが適切である
  • 事後回収方式の場合、電気事業者に金利負担が発生し、結果的に国民負担が増すおそれがある
  • 相対的に財務基盤が弱く、かつ、再生可能エネルギー買取量比率の高いPPSほど、財務への影響が大きくなる
  • 事後回収方式の場合、買取りが終了した次年度においては、買取りは行われないにもかかわらず、負担だけが発生する
    ことから、同時回収方式をベースとすることが適当とする意見が多数だった


出典:第4回WG2会合資料3-10ページ  拡大表示

7章:地域間調整に関する考え方

  • 全量買取制度の大枠において、「地域ごとに再生可能エネルギーの導入条件が異なる中で、買取対象を拡大するに当たって、地域間の負担の公平性を保つため、地域間調整を行うことを基本とする。」とされている
  • 各事業者が需要家から回収したサーチャージを、いったん清算を集中的に行う清算機関(クリアリングハウス)に集約した上で、各事業者が清算機関から受け取るべき買取費用については、清算機関が確認を行い、買取実績に応じて分配する清算機関方式が適当であるとの意見が大勢を占めた


出典:第4回WG2会合資料3-11ページ  拡大表示

8章:その他のコストの取扱い

全量買取制度の導入に伴い生ずる、買取費用以外のシステム改修や再生可能エネルギー発電設備設置者への払込みに要する諸経費等の負担については、買取主体となる電気事業者の料金原価に算入することが適当である

9章:外生的・固定的なコスト要因の料金反映

  • 「外生的・固定的なコスト要因」としてのサーチャージの料金反映については、円滑な実施のため、電気料金制度上、より簡便かつ機動的な手続きによることを可能とすることが適当である
  • サーチャージ以外にも、外生的な要因等によるコスト増加として整理できるものが存在する可能性はあることから、こうしたコスト増加については、サーチャージ同様、他の費用項目と区分した上で機動的に料金に反映する仕組みを設けるなど、電気事業制度面での手当について、適切な場において更なる検討を行うべきである


出典:第4回WG2会合資料3-13ページ  拡大表示

10章:系統安定化対策費用等の負担

  • 事業用発電設備の設置に伴う電源線敷設費用の負担ルール:従来通り、発電事業者(設置者)の負担とすることが適当である
  • 事業用発電設備の設置に伴う系統増強費用の負担ルール:こちらも発電事業者(設置者)の負担とする意見が多かった。なお、発電事業者負担方式とすることにより、風力発電等の適地に計画的かつ効率的な設置が順調に進まないといった状況が生ずる場合、政策的に必要であれば、一定の区域において、系統増強が進むような戦略的な支援策を講ずることも一案である
  • 全量買取制度下における再生可能エネルギーの導入状況を見つつ、適切なタイミングで、系統増強に関する費用負担ルールのあり方を改めて検討し、必要に応じてルールを見直していくことが適当と考えられる
  • 住宅用太陽光発電大量導入に起因する系統増強対策費用のうち、トランス増設費用の扱い:トランス増設対策が必要となるタイミングで太陽光パネルを設置した者に当該増設費用を負担させるのは、太陽光パネル設置コストの不平等を発生させ、今後の太陽光発電の普及拡大に支障となる懸念がある。何らかの手段によって、パネル設置者を支援する仕組みを構築することによって、普及拡大のための環境を整備すべきで、太陽光パネルメーカーから、トランス増設費用負担に関して、何らかの協力の意向が示されている


出典:第4回WG2会合資料3-16ページ  拡大表示

  • 事業用発電設備への出力抑制及び抑制に伴う補償措置の可否:一般電気事業者が電力需給上の理由から買取制度の対象となる事業用発電設備に対する出力抑制を行う場合当該出力抑制に対する経済的な補償は行わないこととするが、あらかじめ、電力需給上の理由から出力抑制が行われる際の上限値を設定するとの考え方が大勢を占めた。出力抑制の受忍限度となる上限値については、電力需給上の特異日が14日または30日として、4~8%の間で設定するのが一案である

11章:環境価値の取扱い

地域間調整プロセス等を通じて、全ての電気事業者の原単位(排出係数)を何らかの形で調整し、その結果、負担に応じて全需要家に環境価値が分配・調整されるという扱いが適当と考えられる

前回にも触れましたが、0章で述べられているように、このWG2での全量買取制度検討は、あらかじめ定められた「制度の大枠」の中で、エネルギー業界関係者および学識経験者を交えて、全量買取制度のあり方を検討したもので、日本型スマートグリッドの主役である住宅用太陽光発電は、全量買取対象に入っていません。(唯一10章「系統安定化対策費用等の負担」で住宅用太陽光発電が登場しますが、「太陽光パネルメーカーに費用負担を求めてはどうか」という、報告書の結論としてはきわめてあいまいな検討結果に終わっています)

1章:買取主体は、基本的には一般電気事業者(いわゆる電力会社)ですが、自営線で電力供給している特定電気事業者と、特定規模電気事業者(PPS)までを、全量買取を行う側に入れようということですね。

2章では、FIT価格に上乗せしてPPSなどが(全量)買取することを認める-となっていますが、割高な電源調達を行い、かつ、出力変動のために別途、調整電源も確保するのは、利幅の少ないビジネスモデルのPPSにとっては、非常に苦しそうです。なお、「日本卸電力取引所のグリーン電力卸取引の活用を行うことが望ましい」という点は賛成です。
NISTのスマートグリッド参照モデルと日本型スマートグリッドの大きな違いの1つは、(良し悪しは別として)市場メカニズムを視野に入れているかどうかです。欧米では、1日前市場だけでなく、リアルタイム市場にも市場メカニズムを取り入れようと努力していますが、日本もそのようになるためには、日本の卸電力取引がもっと活発に行われる必要があります。7章に清算機関(クリアリングハウス)の話が出てきますが、海外では卸電力取引所が、取引所取引以外にも、相対契約などのクリアリングハウス機能を持っているところがありますので、日本でも、新たに別の機関を設けなくても、卸電力取引所の新規ビジネスとして実現できるのではないかと思います。

3章に出てくる「回避可能原価」は、「発電コストの高い太陽光発電等の再生可能エネルギーを調達する代わりに、電力会社が自分の発電所で発電した場合にかかるコスト」という意味のようです。したがって、細かなことを言えば、太陽光発電がピークとなる時間帯に用いる「ピーク電源」の発電コストは、原子力発電までも含めた全電源平均可変費よりは高いはずなので、本報告書での「控除額の考え方」は、少々大雑把過ぎると言えるかも知れません。
少し古いですが、平成13年の「新エネルギー導入目標の達成に向けて必要となる追加的費用の試算」時には、気候条件等によって出力が左右される不安定な電源である太陽光発電、風力発電の回避可能原価は、燃料費相当(4円/kWh)、一般廃棄物発電、バイオマス発電については、火力発電コスト相当(7.3 円/kWh)と設定して計算しています。(燃料費は相当当時より高騰していると思いますが)

5章の買取費用と電気料金の関係ですが、「自由化分野でも、電気の供給の対価を構成する要素として、電気の本体料金と一体的なものとして位置づけ、規制小売分野と同様の取扱い」で買取り費用を回収する-というのはなかなか難しいのではないでしょうか?
PPSでは、燃料費調整額が契約電気料金上分離されておらず、燃料費が高騰しても請求額に対して上乗せできない顧客も昔はいた-と聞いた覚えがあります。流石にそのようなことはもうないと思いますが、顧客の預かり知らないところで、PPSが勝手にFIT価格に高額な上乗せをして全量買取した太陽光発電のサーチャージ分をPPSの顧客が納得するのかどうか? 11章:環境価値の取扱いと絡めて、次のステップでよく検討していただきたいと思います。

それでも、5章当たりまでは、まだWG2として、今後の方向性を示せていますが、6章:「同時回収方式をベースとすることが適当とする意見が多数だった」、7章「各事業者が需要家から回収したサーチャージを、いったん清算を集中的に行う清算機関(クリアリングハウス)に集約した上で、各事業者が清算機関から受け取るべき買取費用については、清算機関が確認を行い、買取実績に応じて分配する清算機関方式が適当であるとの意見が大勢を占めた」では、WG2として必ずしもコンセンサスが得られていないことが伺えます。
また、9章:「サーチャージ以外にも、外生的な要因等によるコスト増加として整理できるものが存在する可能性はあることから、こうしたコスト増加については、サーチャージ同様、他の費用項目と区分した上で機動的に料金に反映する仕組みを設けるなど、電気事業制度面での手当について、適切な場において更なる検討を行うべきである」、10章:「発電事業者負担方式とすることにより、風力発電等の適地に計画的かつ効率的な設置が順調に進まないといった状況が生ずる場合、政策的に必要であれば、一定の区域において、系統増強が進むような戦略的な支援策を講ずることも一案である」、「何らかの手段によって、パネル設置者を支援する仕組みを構築することによって、普及拡大のための環境を整備すべきで、太陽光パネルメーカーから、トランス増設費用負担に関して、何らかの協力の意向が示されている」に至っては、検討期間が短く議論をし尽くせなかったのかも知れませんが、明らかに宿題を積み残した形になっているのが残念でした。

以上、最後は辛口のコメントになってしまいましたが、『次世代送配電システム制度検討会第2ワーキングループ報告書 全量買取制度に係る技術的課題等について(案)』のご紹介でした。

終わり