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前々回、MISOの1日前市場、リアルタイム市場の仕組みについてご紹介しました。今回は、いよいよMISOでのDRプログラムについてご紹介しようと思いますが、その前に1日前市場、リアルタイム市場の入札情報と、市場での最近の取引実績データを見ておきましょう。

 

 MISO1日前市場の入札情報


出典:MISOトレーニングマニュアル「Level 200 – Day in the Life of a Market Participant」

MISOの1日前市場では、翌日1時間ごと24時間分、地点別に売買入札のマッチングが行なわれ、地点別限界価格(LMP)が計算されますが、上図中、「Resource Offers」が売り入札、「Demand Bids」が買い入札で、「Physical Schedule」は、MISOの市場外ですでに相対取引で手当てした電源の翌日の運転スケジュールです。

【売り入札のパラメタ】

売り入札で指定される主なパラメタには以下があります(売り入札を行う市場参加者には、発電事業者の他にDRアグリゲータなどが考えられますが、とりあえず、ここでは、電源を想定して説明します):

  • Unit Capabilities: 前々回も強調しましたが、MISOでは1日前市場とリアルタイム市場の両方で、電力(Energy)と運用予備力(Operating Reserve)の同時調達が行われます。そこで、入札する電源ユニットが周波数調整力(Regulation)や緊急予備力(Emergency)にどれだけ使えるのか、その電源の性能(最大/最小値やRamp Rate)を指定します。  

    出典:MISOトレーニングマニュアル「Level 100 – Foundational Overview of MISO and MISO Markets」

 

  • Start Up/No Load costs:待機予備力(Supplemental Reserve)用電源を起動するためのコストや瞬動予備力(Spinning Reserve)用電源をスタンバイさせておくためのコストを指定します。

 

  • Offer Curve:いわゆる指値入札ではなく、入札価格($/MWh)と入札量(MWh)をペアにして複数の入札データを指定します。「市場価格が高くなれば大量の電力を売るけれども、市場価格が安いとコスト割れするので売らない」という供給側の条件別入札を可能にするものです。

出典:MISOトレーニングマニュアル「Level 100 – Foundational Overview of MISO and MISO Markets

  • Commitment and Dispatch Status:電源の状況(Outage:供給不可、Emergency:緊急時のみ供給する、Economic:MISOのdispatch指令に従う、Must Run:Self-schedule(下記参照)で運転する、Not Participating:運転可能だがMISO市場には参加しない)を指定します。
 
  • Self-scheduled MW:自社利用またはMISO管内での相対取引で必ず発電するMW数を指定します。

【買い入札のパラメタ】

ところで、MISOの1日前市場での買い手は誰でしょうか?電力(エネルギー)市場は、当然、電力小売事業者(LSE)や、垂直統合の電力会社、マーケッターが電力調達の場として利用するでしょうが、1日前の運用予備力市場はMISO自体が調達するためのものなのでしょうか?
実は、PJMと同じく、MISOでもLSEには、自らの顧客に確実に電力供給できるよう、予備力マージン確保義務(Planning Reserve Margin Requirements :PRMR)が課されていて、LSEが相対契約で手当てできない予備力を1日前市場で調達しています。
また、買い入札には2つのパターンがあります:

  • Fixed Demand Bid:電力供給を受けたいゾーン(CPNode)で特定の時間に買いたい電力MW数と価格($/MW)を指定します
 
  • Price Responsive Bid:売り入札同様、買い入札でも、指値入札ではなく、入札価格($/MWh)と調達量(MWh)をペアにして複数の入札データを指定することができます。

出典:MISOトレーニングマニュアル「Level 100 – Foundational Overview of MISO and MISO Markets」

【Physical Schedule】

Self-ScheduleがMISO管内での相対取引分の入札であるのに対して、Physical Scheduleは、MISO管轄外の事業者との相対取引結果をMISOに通知するもので、以下のパラメタを指定します(説明は省略します):
• Open Access Same-Time Information System (OASIS) reservation
• Point-of-Receipt (POR)
• Point-of-Delivery (POD)
• Source Point
• Sink Point
• MW quantity (representing Energy only)
• Applicable time period.

出典:MISOトレーニングマニュアル「Level 100 – Foundational Overview of MISO and MISO Markets」

 

MISOリアルタイム市場の入札情報


出典:MISOトレーニングマニュアル「Level 200 – Day in the Life of a Market Participant」

1日前市場で決定した供給量に変更がある場合、もしくは、リアルタイム市場価格高騰が予想されるので、供給量を増やしたい場合、供給者は30分前までにUpdated Supply Offerを行なうことができます。入札情報は1日前市場の場合と同じです。Physical Schedulesも、1日前市場入札情報から変化がある場合、30分前までにMISOに通知します。一方、MISOは四六時中系統監視を行い、系統内の送電線の混雑状況などを把握するとともに、短期の需要予測および系統状況のシミュレーションを実施し、そのアウトプット(上図中、Network Model、State Estimator Solution、Constraints、Short-term Load Forecast)と、先の供給側の状況変化と合わせ、予想される需給インバランスを解消するために、系統信頼度を確保しつつ、調達コストが最適となるよう電力、周波数調整力、予備力を同時調達し、その結果に基づいて発電指令(Dispatch Generation)が出されます。

 

MISO1日前市場(DA)、リアルタイム市場(RT)の取引実績

以下は、今年10月に公開されたMISOの「Informational Forum September 2015」の資料の情報です。

• 2014年8月~2015年8月のMISO DA&RT市場の月別平均電力取引価格

• 2015年8月、MISO管内の拠点別ピーク/オフピークのDA&RT市場のLMP比較

• 2014年8月~2015年8月のMISO DA&RT市場の月別平均アンシラリー市場取引価格比較

• 2014年8月~2015年8月のMISO DA&RT市場の取引電力量比較

以上、MISO DA&RT市場での最近の取引実績をグラフでご覧いただきました。解説は省略させていただきます。
では、いよいよMISOのデマンドレスポンスに関してのご紹介に移りましょう。

 

MISOにおけるデマンドレスポンスの取り扱い

MISOでは、DRプログラムという観点からではなく、資源の観点でデマンドレスポンスを3つのカテゴリに分けて考えています。

1) 容量資源(Capacity Resource:CR)
2) 負荷変動資源(Load Modifying Resource : LMR)
3) 緊急DR(Emergency Demand Response:EDR)

CRは、更に次の2つの資源として区別されます。
• Demand Response Resource-TypeⅠ(DRR-Type Ⅰ): 需要家/LSEが電力取引市場/予備力市場を通じて提供するリソースで、MISOからの指示で負荷の全部あるいは、あらかじめを約束したMW分を物理的に削減するもの
例:一般家庭の電気給湯器の直接負荷制御
• Demand Response Resource-TypeⅡ(DRR-Type Ⅱ):需要家/LSEが電力取引市場/アンシラリー市場を通じて提供するリソースで、発電機への発電指令と同じMISOからの指示で、負荷を変更できるもの
例:ALCOAのアルミ精錬炉のような大口需要家設備の遠隔制御による負荷量変更

LMRも、次の2つの資源が区別されます。
• Demand Resources(デマンド資源):MISOからの指示で負荷量を変更できる任意の負荷。(DRR-TypeⅠ/ⅡのDR資源で、容量資源として登録しないものを含む)
• Behind-the-Meter Generation(BTM電源):負荷を制御するのではなく、負荷量を測るメーターの後ろ側でオンサイト発電機の起動等により負荷量を変更できるもの

これら4つのDR資源タイプのどれにも属さず、系統ひっ迫時など緊急事態にリソースとして利用できるものがEDRです。
そして、需要家が提供するDR資源が上記のどのタイプに属するかで、MISOのどの市場に参加できるかが、以下の通り異なってきます。

  • MISOの市場に参加するにはDRR-TypeⅠ/Ⅱでなければならない
  • 基本的に、DRR-TypeⅠ/Ⅱは、1日前市場/リアルタイム市場どちらにも参加できるが、周波数調整(Regulation Reserve)市場に参加できるのはDRR-TypeⅡのみである
  • 市場に参加しなくても、MISOにLMRとして登録したDR資源は、系統に緊急事態が発生した場合、DR資源を提供しなければならない
  • EDRとしてMISOに登録したDR資源は、系統に緊急事態が発生した場合のみ、DR資源を提供できる

以上の条件を図と表にまとめると、以下の通りとなります。


出典:MISO「Demand response Primer and Training Guide」

長くなりましたので、今回はここまでとします。MISOのDRの続きは、年明けになりますが、次回に持ち越したいと思います。
なお、今回ご紹介した通り、MISOではDRをプログラムとして区別するのではなく資源として区別しているので、今回、タイトルを「MSIOのDRプログラムとDIR」から、「MISOのDRRとDIR」に変更しました。

終わり