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前回は、PJMの容量市場制度が容量クレジット市場(Capacity Credit Market:CCM)から、信頼度価格モデル(Reliability Pricing Model:RPM)に基づく新たな容量市場に移行するに至った経緯について、FERC Online eLibraryの資料をベースにご紹介しました。

 

簡単に振り返ると、CCMに関する不都合が顕著になってきたので、FERCは2005年6月16日に技術カンファレンスを開催して、何が問題か、どのようにすればよいかの意見を求め、PJMがそれらの意見をベースにして新たな容量市場モデルであるRPMのたたき台を作成して2005年8月31日FERCに提出(Reliability Pricing Model Filing 1/22/2)。これに対して、FERCは2006年2月3日に再度技術カンファレンスを開催。PJMの作成したRPMのたたき台に関して、そこで出た意見及びその技術カンファレンス開催以降1カ月間に寄せられた意見を総合し、寄せられた意見に対するFERCの見解を添えて、2006年4月20日、FERCはPJMの容量市場の制度のRPMへの移行を認め、その制度の詳細化を指示(Initial order on reliability pricing model re PJM Interconnection)。

ところが、2007年度の容量市場オークション開催に向けてPJMが作成した新たな容量市場のマニュアルRevision:00と、2006年4月20日にFERCが示したRPM制度の大枠には2つの大きな相違点があり、①4年先の容量確保を目指していたものが3年先に変更になっていることと、②今回のブログのテーマとなっている最低入札価格ルール(Minimum Offer Price Rule:MOPR)が追加されていたのですが、さてどういう経緯でそうなったのか?

 

ということで、今回は、2006年9月29日付けでFERC Online eLibraryに登録された資料「PJM Interconnection LLC submits a Settlement of Agreement & explanatory statement of the settling parties resolving all issues under ER05-1410 et al. Part 1 of 4, 2 of 4, 3 of 4, 4 of 4」から、その後の経緯をご紹介します。

 

まず、同資料「1 of 4」の「Tab 1 Explanatory Statement And Attachments」-「EXPLANATORY STATEMENT」-「I. BACKGROUND」を見ると:

  • FERC:2006年4月20日の「Initial order on reliability pricing model re PJM Interconnection」の資料に関して、ペーパーヒアリング(いわゆるパブコメの収集)を実施
  • PJM:寄せられた意見に対して5月19日に回答書を公開
  • PJM:6月2日まで回答書に対するコメントを収集し、6月16日に回答
  • (並行して)FERC:6月7-8日に技術カンファレンスを開催し、6月22日に得られたコメントを公開
  • 5月8日、(どうしてこの団体が声を上げたのかよくわからないですが)米国の木材・製紙産業を代表する業界団体のAmerican Forest and Paper Associationは、RPM制度の詳細を最終決着させるために、Lawrence Brenner氏を和解裁判官(Settlement Judge)としてRPM制度制定手続きの実施を申立て
  • 5月17日、FERCはこの提案に合意し、6月5日から7月末にかけて65以上の文字通りPJMの容量市場に関する利害関係団体を代表する150名あまりの人々が新たな容量市場の仕組みについてLawrence Brenner裁判官の下で協議
  • Settlement term sheetとしてまとめあげた項目に関して8月2日採否の投票を実施
  • 協議者間で合意に達しなかった項目に関しては8-9月中に継続して協議し、和解合意書(Settlement Agreement)にまとめられるとともに、個々の項目の説明を行う「Explanatory Statement」とそれを補足する「Supplemental Affidavits」が用意された

 

という流れになっていました。FERCから「Initial Order ~」が出たので、PJMがステークホルダーミーティングで運用手順を含めて制度を詳細化したのではなく、裁判官を立て、利害関係者間で協議を重ねてやっとRPMの制度の詳細が決まり、それに従ってPJMは新しい容量市場のマニュアルRevision:00を作成したわけですね。

制度の詳細化の方向次第で容量市場で支払う/得られる金額が大幅に変わりますので、調停が必要だということは、少し考えればわかることでしたが、今回調査して、FERCがしっかり絡んでいることが確認できました。

※余談になりますが、「Affidavit」という英単語にはこれまで遭遇したことがなかったので調べてみると、「宣誓者本人が把握している情報を基に作成した供述書の内容が真実であることを宣誓した上で署名している書類」ということだそうです。

 

今回ご紹介している「PJM Interconnection LLC submits a Settlement of Agreement & explanatory statement of the settling parties resolving all issues under ER05-1410 et al.」が、和解合意書そのものですが、合意内容のヘッダ情報を英文のままですが列挙します:

A. Use of August 31st Filing as Baseline
B. Implementation Date
C. Variable Resource Requirement Curve
D. Forward Commitment of Capacity
E. Locational Requirements, System Constraints, and Integration of RPM with the RTEP Process
F. Seasonal Pricing and Operational Reliability Requirements
G. Determination of the Cost of New Entry
H. Net Energy and Ancillary Services Revenue Offset to the Cost of New Entry Used to Establish the VRR Curve
I. Auction Clearing
J. New Entry Price Adjustment
K. Minimum Offer Price Rule for New Entry in Constrained LDAs
L. Transfer of Obligation to Pay Locational Reliability Charges
M. Market Power Mitigation
N. Peak-Hour Period Availability Charges and Credits
O. Ability to Cure Rating Test Failure Charge
P. Reliability Backstop
Q. Fixed Resource Requirement
R. Other Issues

①4年先の容量確保を目指していたものが3年先に短縮された変更は項番D、②今回のブログのテーマとなっている最低入札価格ルール(Minimum Offer Price Rule:MOPR)の追加は項番Kになります。

まず、①のオークション開催のタイムスケジュール変更に関してですが、「D. Forward Commitment of Capacity」をみると、PJM地域で新規電源として燃焼タービンプラントを構築する場合、新規プラントの建設調査契約の締結からプラントの商業運転開始までに要する期間は、典型的なケースで33ヶ月間くらいなので、3年前のオークション結果を受けて開発に着手しても、実運用年までに確実に稼働することができるとPJMのRaymond L. Pasteris氏から説明があり、4年から3年への前倒しが承認されたことがわかりました。

次に、件の②のMOPRですが、「K. Minimum Offer Price Rule for New Entry in Constrained LDAs」として以下のように記載されていました。

協議の結果、将来的に容量不足が懸念される送電制約地域(LDA: Locational Deliverability. Areas)への新電源の入札価格に関して、最低入札価格ルールを設定することとした。添付の宣誓供述書で、Stoddard氏がこのルールの詳細について詳しく説明している。―とありましたので、「2 of 4」の資料「Attachment E:Supplemental Affidavit of Robert B. Stoddard」を見てみましょう。

さて、このStoddard氏のAffidavitですが、同氏は、CRA International(経済、財務および経営管理コンサルティングサービスを提供するグローバルコンサルティング会社)の副社長で、今回のPJMの容量市場制度変更に関する協議にはエネルギー会社のMirantグループ(現GenOn Energy)を代表して参加しており、市場設計案のいくつかの重要な側面の開発と交渉に関与したとされています。そして、新規参入価格調整ルール(New Entry Price Adjustment)と最低入札価格ルール(Minimum Offer Price Rule:MOPR)を支持するために宣誓供述書を提出したとされています。

以下が、宣誓供述書の概要です。


最低入札価格ルール(Minimum Offer Price Rule:MOPR)は、ネットショートポジションを持つ買い手が市場のニーズを超えて新規容量を購入または建設した場合に発生する可能性のある容量市場価格への影響(RPM を通じて取得する既存の資源の価格を人為的に抑制することになる)を制限するためのメカニズムであり、相対契約の価値を損ねることなく、無駄な過剰投資をして電源開発を行うバイヤーのインセンティブを減少させるものである。

RPM市場にMOPRがなければ、容量価格として二層構造の価格システムが形成される可能性が高い。すなわち、新規に建設された電源には相対契約で競争力のある「NewCONE」価格が支払われる一方で、既存の資源は(全く同じ信頼性サービスを提供できるにもかかわらず)、過剰建設によって市場価格が押し下げられ、安くなったRPM市場価格が支払われることになる。RPM市場価格が相対契約で新設電源に支払われる価格よりも一貫して低いと、容量市場は弱体化し、既存電源が締め出されて、相対契約を結ぶ資格のある資源のみが参入可能な市場になってしまう。

また、容量市場価格が人為的に低くおさえられると、(容量市場向けのDR等の)需要サイドの資源開発も抑制されることになる。

例で示そう。送電制約のあるLDAがあり、現在のところは地域内の電源とそのLDA地域外からの送電の合計が15,300MWで15,000MWの地域要件を満たしている(供給量は地域要件の102%)ものとする。また、容量市場価格はNetCONEの80%、その地域のNetCONEは$120/MW-dayとすると、その地域のRPM市場価格は$96/MW-day となり、当該LDA 地域内の容量拠出金総額は、$536,112,000($96 × 15300 × 365)となる。

そのLDA地域内のある小売事業者(LSE)が1,500 MW(地域要件の10%)のネットショートポジションを持っているとすると、RPM オークションでそのネットショートポジションをカバーするためのコスト(容量拠出金)は $53,611,200 となる。

このLSEが、容量拠出金支払額を削減するには、2つのオプションがある。

オプションa:
LDA管内の既存電源と相対契約を結ぶ。既存電源との相対契約は、長期的に価格を固定し確実性を高めるなどのメリットはあるが、必ずしも RPM市場価格以下で調達できるとは限らない。

オプションb:
1500MWすべては無理だとしても、ショート・ポジションの一部について新設電源と相対契約を結ぶか、あるいは自社で新設する。新設電源の MW 当たりのコストは既存電源よりも高くなるかもしれないが、一般に、市場に新しい資源が追加されると、RPM市場価格は下がる。その他の新設電源の RPM 市場への参入状況によっては、RPM市場価格が低くなる可能性がある。したがって、相対契約で調達する新規電源の1MWあたりのコスト増は、LSEが残りのショートポジションをカバーするために支払うRPM市場価格の低下によって相殺されることが考えられる。

このオプションbについて、具体的に考えてみよう。上記のLSEが新たに300MWの電源を建設することを決定したとする。このLDA内の追加資源は、リザーブマージンを104%に押し上げ、RPM市場価格をNetCONEの40%、つまり$48/MW-dayに引き下げたとすると、LSEが支払う残りの1200MW(1500-300)をカバーする容量拠出金のコストが$21,024,000($48×1200×365)、新規に建設した電源の年間費用はNetCONEが$120/MW-dayの場合は、$13,140,000($120×300×365)なので、合計$34,164,000となり、新設電源を手当てしない場合のコスト$52,560,000($96×1500×365)と比べた場合、1年間の節約額は$18,396,000となる! このコスト節減額は、「新規建設戦略」を採用しなかった場合の総コストの約3分の1にのぼる。LSEは、新設電源に対して、NetCONEが倍の$240/MW-dayであったとしても、初年度$5,256,000節約できたことになる。

なお、この例で重要なことが2つある。

  1. この行動(オプションb)で利益を得るためには、LSEは、新設電源の相対契約か自己保有を考慮した上で、市場でのネットショートポジションを持つ必要がある。そして、ネットショートポジションの一部をカバーするために支払われた新設電源の年間コストを、ヘッジされていない残りのショートポジションをカバーするために市場価格の下落で相殺できなければならない。
  2. また、新設電源の容量は、市場価格を大幅に引き下げるのに十分な量でなければならない。そうでなければ、ヘッジされていないポジションの節約分は、新設電源の年間コストを相殺するほど大きくはならない。

 

提案されている MOPR には、ネットショートテストとインパクトテストが含まれており、価格を競争力のある水準に回復させることが保証されない限り、MOPR が市場価格を変更しないことを合理的に保証するものとなっている。

ネットショートテスト:LDA で大幅なネットショートポジションを持たない(または契約中の)当事者が提供する資源は、競争的に提供されている資源と推定される。例えば、独立した発電事業者が、容量の支払いなしで発電資源を建設する意思があり、それが可能な場合、開発者は容量のネットショートではないため、容量市場に$0/MWで入札しても、MOPR によって再値付けされることはない。同様に、買い手が全容量義務を購入または自己提供し、BRA(第1回目のオークション) でのネットショートポジションを持たずに残したい場合、MOPR は相対契約には適用されない。

インパクトテスト:供給過剰ではない状況でのMOPRの規則適用を制限するため、MOPRには、以下の2つのインパクトテストが含まれている。

  1. 入札価格のしきい値:入札価格が予想より低くても、電源の実際の経済性を反映した入札価格の場合、MOPRを適用してはならない。したがって、電源のクラス固有のNetCONE推定値の20%以内、または(資源のクラス固有のNet CONE推定値がない場合は)一般的なNetCONE値の30%以内の入札価格は、(a) 競争的な入札レベルと一致する可能性が高く、(b) 最悪の場合、価格を20~30%抑制する可能性があるため、MOPRによる再値付けを行わない。
  2. 価格インパクトのしきい値:いくつかの入札価格に関して、MOPRの適用による再値付けを行っても、再値付けした効果が大きくない場合、再値付けしない。各 LSEが 新設電源の自社保有や相対契約によってネットショートポジションをカバーした場合、資源の総量は、必要とされていた量に、負荷の増加や、プロジェクト投資の不調などについての見通しの違いを反映したプラスまたはマイナスの量を加えた程度になるだろう。これらの資源がすべて$0/MWで入札されたとしても、RPMは目標調達量に近い値をクリアし、それに対応する価格はNetCONEに近い値となる。価格インパクトのしきい値は、Net CONE付近での自然な変動は許容するが、しきい値から外れて利益を得ようとしている者がいれば、Net CONE付近の価格に再値付けする。

なお、MOPRには、「サンセット」条項も含まれており、残りの市場エリアで新たな資源が必要とされた場合に発動する。このような場合、歴史的に制約を受けたゾーンとその他の市場との間の価格差は小さく、プール全体の清算価格はほとんどの年でNetCONE またはそれに近い値となる。その場合、LDA 内の価格を抑制するメリットも小さい。しかし、和解合意書では、一部のLDAのNetCONEが周辺地域のNetCONEを50%以上上回った場合、その高コストLDAにはMOPRが適用されると規定している。この規定は、根本的なコスト差に起因する価格差が消去されないことを保証するものである。

MOPRは、可能な限り新設電源の入札を対称的にチェックするように設計されている。一般的な問題として、新設電源の入札は競争的であるべきであるが、市場に放置された場合、容量市場価格が競争的なレベルから不当に(上下に)シフトする可能性がある状況を特定し、競争力のあるレベルを超えて他の新設電源の入札価格からかけ離れた入札は拒否し、市場価格の歪みを回避するものである。MOPR は、競争力のある水準以下の入札価格に対しても並行してチェックを行う。

MOPRは、これらのオファーを市場に残すかどうかで公平なバランスを取り、契約当事者に特定の契約で利益を与える一方で、予測された信頼性ニーズを大幅に超える購入によって生じる大きな価格の歪みを中和するものである。


本日はここまでとします。

実は、自分が想定していたMOPRの位置づけと、ここでのStoddard氏のMOPRの説明が一致していず、翻訳・紹介している内容も完全には理解できないままなのですが、とりあえずブログにアップし、読者諸兄のご意見を伺いたいと思います。(自分自身も、じっくり検討したいと思います)

このブログのシリーズでは、その後FERCの指示によりPJMのRPM市場におけるMOPRの内容が変更される経緯をフォローし、一体MOPRで何をしようとしているのか?それは容量市場の仕組みとして正しい使い方なのかを検討していきたいと思っています。

おわり