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Rob Bryan Boat Services at Stoke Golding, Leicestershire

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前回は、電力広域的運営推進機関(OCCTO)の「容量市場かいせつスペシャルサイト」-「容量市場とは」の内容を参照しながら、容量市場の役割が将来の供給力確保を混ざすものなら、日本の現状(日本では火力発電所の開発計画から運転開始までに要する標準的な期間は10年程度とされている)を考えた場合、4年先の供給力を確保する市場制度というのは勘定が合わない(容量市場価格がいわゆる指標価格を上回って、発電事業者が新規に発電所を建設する計画を立てたとしても、後6年待たないと、その火力発電所から電力供給力を受けることができない)点を指摘させていただくとともに、PJMの容量市場のマニュアルM18に記載されたMOPRの定義が、それだけでは意味不明で疑問だらけだったものが、「その3」でご紹介したStoddard氏の解説しているMOPRの説明でだいたい腑に落ちたーというところで終わっていました。

ただ、Stoddard氏の説明は、MOPRのルールに関する補足説明だったので、それだけお読みいただいてもMOPRの全体像が良くわからなかったのではないかと思います。

そこで、今回は、RPM制度として詳細設計が出来上がったばかりの時のMOPRはどのような形をしていたのかをご紹介したいと思います。

以下、和解合意書「PJM Interconnection LLC submits a Settlement of Agreement & explanatory statement of the settling parties resolving all issues under ER05-1410 et al. Part 1 of 4」の「Tab 1 Explanatory Statement And Attachments」-「II. DETAILED DESCRIPTION OF THE SETTLEMENT AGREEMENT」-「K. Minimum Offer Price Rule for New Entry in Constrained LDAs」から、概要をご紹介します。


■ 最低入札価格ルール(MOPR)導入目的

  • 小売電気事業者(buyer-side)が容量市場で市場支配力を行使できないようにする
  • 容量市場のオークションに参入する新規電源や改良電源の入札価格が真に市場の競争を促す価格かどうか(on a competitive basis)を確認する
  • 入札価格が上記の意味での競争力のある価格(competitive)であり、市場参加者が無茶な(uncompetitive)低価格で入札して、RPMオークション市場の市場決済価格を人為的に押し下げないよう、最低入札価格選別手続き(minimum offer screening process)を規定し、運用する

■  MOPRのルール適用対象外の電源

下記の条件に該当する電源はMOPRのルール適用対象外とする

  • 運開までに3年以上を要するベース電源
  • 水力発電
  • 既存電源ユニットのアップグレード
  • 証拠を事前にPJMに提出して容量市場への参加を認可された、州の規制機関や州義会で必要と認められて建造された新規電源

■ MOPRのルール適用候補の電源

  • 3年後に供給力不足が懸念される地域(LDA)の新規電源
  • 入札価格が容量市場決済価格に影響があると思われるもの
  • 該当地域の指標価格の80%より以下
  • 3年後の供給力を手当てするBRA(初期オークション)で、売り手(小売電気事業者)とその関連会社は、地域の信頼性要件の5%または10%(所属する地域の大きさによって変わる)のネットショートポジションを持っている

■ MOPR適用手続き

  • 容量市場のBRA(初回オークション)開催に当たって、市場監視ユニットは、上記の「MOPRのルール適用候補の電源」を検知した場合、指定した入札価格が妥当であることを裏付ける証拠の提出を求める。証拠が提出されない場合や、提出された情報が不十分な場合、該当する電源の入札価格を、その地域の指標価格の90%の価格(=最低入札価格)で入札されたものとし、オークションを実施する。
  • ただし、3年後までに予想される当該地域内での需要増や、地域内の老朽発電所の廃止での結果、合計すると需要が供給を上回る場合は、MOPRの適用を除外する。
  • ただしただし、この条件が満たされている場合でも、新規電源設置総コストが、隣接する地域(LDA)での新規電源設置総コストの150%以上である(つまり、その地域の新規電源設置コストが周りの地域より5倍かかる)場合は、最低入札価格ルールを適用するものとする

和解合意書内のMOPRに関する「Explanatory Statement」の内容はこんな感じでしたが、PJMマニュアルM18のMOPRのルール適用対象と適用対象外の電源設備の情報がより詳しくなっています。
MOPRのルール適用対象外の電源:原子力、石炭火力、風力、水力、太陽光、埋立地ガス発電など、
MOPRのルール適用候補の電源:20MW以上の発電設備容量を持つ新規の燃焼タービン(combustion turbine:CT)、コンバインドサイクル(combined cycle:CC)、 石炭ガス化複合(integrated gasification combined cycle:IGCC)発電プラント
あるいは、CT、CC、IGCC発電プラントで新たに20MW以上に改良されたもの


とりあえず、PJMのMOPRという制度がどのようなものか(どの様な目的で、どの様なものとしてスタートしたか)ということに関しては、これでご理解いただけたのではないかと思います。

このMOPRの生い立ちをベースとして考えると、2019年12月19日FERCが下したMOPR適用対象を原子力や再エネまで拡張するというのは、MOPRの初期の目的(=小売電気事業者の容量市場での市場支配力の行使を阻止する)とMOPR適用対象電源の考えに反するものであることがわかります。

ただ、2005年・2006年当時、将来の供給力確保のことを考えるに当たって、それほど変動性再生可能エネルギー(VRE)が容量市場にまで入ってくるとは想定していなかったので、現在の日本の調整力公募で手当てしている電源でいうと主に電源Ⅰ‘を念頭に置いていたかもしれません。ところが、VREの出力変動をカバーするには、電源Ⅰや電源Ⅱとして使える電源が欲しいので、原発や再エネより火力を優先したい。そこで、MOPRのルールを借用してしまえ。

そういう事かと今は思っています。

ところで、MOPRのルール変更は、この2019年12月19日が最初ではありません。次回は、MOPRが世に出てからの変遷の歴史をたどってみたいと思います。

 

おわり