House by the river, Hampton Wick
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前回、11月13日付でPJMがFERCに提出したMOPR関連のCompliance Filing「COMPLIANCE FILING CONCERNING THE MINIMUM OFFER PRICE RULE AND MOTION TO REINSTATE THE DEADLINE FOR A CERTAIN RPM PRE-AUCTION ACTIVITY」に添付されていた、第3回目のMOPR改定に関連する料金表(Open Access Transmission Tariff:OATT)の改定部分の資料のうち、州の補助金を得た電源が容量市場に参加する場合のMOPR前半部分をご紹介しましたが、今回は後半部分のご紹介です。


h-1) 州の補助金を得た電源に関する最低入札価格ルール(MOPR)

(1) 一般規則:PJMのMOPR-その11でカバー

(2) 最低入札価格のルール(MOPR):PJMのMOPR-その11でカバー

(3) 資源固有の特例申請

州の補助金付き電源で容量市場に新規参入するにあたって、デフォルトのMOPRフロア価格を下回る額での入札を希望する場合、RPMオークションに先立って、PJMまたはFERCの承認を得なければならない。個々の資源固有 MOPR フロア価格は、以下に基づいて決定される:
1)汽力発電資源とエネルギー貯蔵資源:資源別事故停止率(Equivalent Forced Outage Rate:EFORd)
2) 太陽光発電及び風力発電:設備容量に対する連系接続容量(Capacity Interconnection Rights:CIR)の比率
3) DR資源とエネルギー効率化資源:予想プール要件(Forecast Pool Requirement:FPR)

特例申請にあたっては、以下の要件に基づき、個別に裏付けとなるデータを提供しなければならない。

(A) RPM オークション実施期間開始日の120日前までに、資源固有の特例申請をPJM及び市場監視ユニットに提出しなければならない。PJMは、それに先立ってRPM オークション実施期間開始日の 150 日前までに、料金表別紙DD第14(h-1)(2)(A)(B)項に従って決定されたデフォルトのMOPRフロア価格を公示しなければならない。

(B)州の補助金を得た新規参入電源の資源固有特例申請にあたって、入札者は、当該電源の固定的な開発、建設、運用、保守のコスト、及び相殺される純収益の見積もりを裏付ける文書を提供しなければならない。
新規参入費用(Cost of New Entry:CONE)計算のための財務モデルの前提条件は、以下の通りとする。
(ⅰ) 総コストの平準化(nominal levelization of gross costs)
(ⅱ) 資産の耐用年数20年
(ⅲ) 残存価値なし
(ⅳ) すべての事業費を含み、サンクコストを除外しない
(ⅴ) 初年度収入(州が義務づけたプログラムや州が後援するプログラム以外の目的での再生可能エネルギークレジットの販売収益等)
(ⅵ) 電源の建設を提案する事業体の実際の資本コストに基づいた加重平均資本コスト。<耐用年数を20年以外とする場合の要件省略>

プロジェクトコストの裏付け文書には、プロジェクトの完全な説明書、環境許可証、プラントや設備のベンダーの見積書、最近の類似プロジェクトの実際のコストの証拠、電気およびガスの相互接続コストのベース、およびあらゆるコストの偶発性などが考えられる。固定資産税、保険、オペレーション・アンド・メンテナンス(O&M)請負業者のコスト、その他の固定的なO&Mおよび管理費や一般的なコストの根拠と裏付け、建設期間中および恒久的な資金調達のための資金調達書類、または類似投資のための売主の最近の負債コストの証拠、および資本化率、収益率、コスト回収期間、インフレ率、または財務モデリングで使用されるその他のパラメータの根拠と裏付け資料も必要となる。
請求書には、入札者の役員が署名したものであることに加えて、請求されたコストが、すべての重要な点で売主の合理的に期待される新規参入のコストを正確に反映していること、及び請求書が本条に基づく資源固有の特例のためのすべての基準を満たしていることの証明書を含めなければならない。また、請求は、請求された固定費を相殺するために入札価格に依拠した全ての収益源(州補助金を除く)を特定し、そのような相殺された収益が、入札者が特定した合理的な期間にわたり、上記に規定する基準と一致していることを証明しなければならない。そのような実証を行うにあたり、入札者は、一般に容易に入手可能な情報源からの入力データを用いて、将来の燃料価格、変動運転保守費用、エネルギー需要、排出枠価格、及びPJM地域における電力料金の予測に影響を与える環境政策又はエネルギー政策の予測を文書化した資料や、明確に定義されたモデルに基づくPJM地域の競争力のある電力料金の予測資料に依拠してもよい。
純収益を示す文書には、利用可能/適用可能な場合、熱量、起動時間とコスト、強制停止率、計画的停止スケジュール、保守サイクル、燃料費とその他の変動O&M費用、およびアンシラリーサービスを含むプラントの性能と能力に関する情報も含める。純収益の評価は、燃料費、保守費、および運転コストの考慮を含め、それらは運転契約、発電計画と一致していなければならない。
エネルギー効率化資源の資源別新規参入費用を計算するための既定の前提条件としては、エネルギー効率化プログラムの実施またはエネルギー効率化装置の設置に要する名目上のレベル化された年間コスト、およびエネルギー効率化プログラムの実施またはエネルギー効率化装置の設置により提供される、回避された卸売エネルギーコストおよびその他のエネルギー効率化に関連して相殺された節約費用を基にする。
負荷削減型DR資源の資源別新規参入費用を計算するための既定の前提条件は、入札者から提供された文書に裏付けられた、DR資源の容量義務を満たすために当該資源に必要とされるプログラム費用(すべての固定運転維持費及び加重平均費用を含む)に基づくものとする。DR資源の開発を提案する事業体の実際の資本コストに基づいて、資源タイプ別MOPRフロア価格を決定する。
発電支援型DR資源については、資源別のMOPRフロア価格の決定は、DR資源を支える発電機に関連する全てのコストを考慮しなければならず、また、小売レベルでのデマンドチャージの管理の利点(最終消費者レベルでの文書による裏付けがあるもの)も、追加的なオフセットとして考慮される必要がある。
最終使用顧客レベルでの裏付けとなる文書には、過去の最終使用顧客の請求書や、発電ユニットの運転による年間小売回避コストを特定する関連分析が含まれるが、これに限定されるものではない。

(C)州の補助金を得た電源のうち、発電資源で資源固有特例申請を行う場合、入札者は、料金表別添DD第6.8節に従い、発電ユニットごとの最高入札制限額と整合性のある入札額で入札しなければならない。入札者は、本特例の申請にあたって、予測されるエネルギー市場及びアンシラリーサービス市場の収入を裏付ける文書を含める。そこには、請求された固定費を相殺するために入札価格に依拠した(州補助金を除く)すべての収益源を特定し、長期的な電力供給契約、料金設定契約、または州の規制機関に提出されている料金表を含むがこれに限定されないものとし、かかる相殺収益が、入札者が特定した合理的な期間にわたって、上記に定める基準に合致していることを証明しなければならない。このような実証を行うにあたり、入札者は、一般に容易に入手可能な情報源からの入力データを用いて、将来の燃料価格、変動運転保守費用、エネルギー需要、排出枠価格、及びPJM地域における電力料金の予測に影響を与える環境政策又はエネルギー政策の予測を文書化した資料を含め、明確に定義されたモデルに基づくPJM地域の競争力のある電力料金の予測に依拠してもよい。純収益のための文書には、利用可能で適用可能な場合には、熱量率、起動時間とコスト、強制停止率、計画された停止スケジュール、保守サイクル、燃料費とその他の変動運転と保守費用、およびアンシラリーサービスの能力を含むプラントの性能と能力に関する情報も含める。収入の評価には、運転契約書スケジュールに基づき、燃料費、保守加算器、運転コストを考慮しなければならないが、これに限定されるものではない。
州からの補助金を受けた発電支援型DR資源の資源タイプ別MOPRフロア価格は、DR資源を支える発電機に関連するすべてのコストに基づいて決定され、小売レベルでのデマンドチャージ管理のメリット(最終使用顧客レベルでの文書による裏付け)も、そのようなコストの追加的なオフセットとして考慮しなければならない。(最終使用顧客レベルでの)裏付けとなる文書には、過去の最終使用顧客の請求書や、そのような発電ユニットの運転による年間の小売回避コストを特定する関連分析などが含めるが、これらに限定されない。

(D) 提供された情報で売り手に競争力があることが合理的に証明される場合、資源固有の特例申請を承認する。
<途中省略>
PJMは、入札者の費用又は収益を十分に裏付ける資料がそろっていない場合、資源固有の特例申請を却下する。

(E)入札者は、当該事業者の正規役員が資源固有の特例申請について知識を持ち、かつ、その役員の知識と確信の範囲内で、次のことを証明する宣誓し、公証した証明書を提出しなければならない。
(1)特例の要求を裏付けるために市場監視ユニット及びPJMに提供された情報が真実かつ正確であり、
(2)入札事業者が特例の要求に関連する全ての重要事実を開示しており、
(3)申請要求が特例の基準を満たしていることを証明する宣誓書の提出

(F)市場監視ユニットは、入札者及びPJMとオープンかつ透明性のある方法で、申請を裏付ける情報及び文書を検討し、提案された入札価格が、以下の基準に従って受入れ可能であるかどうかの調査結果を、当該オークションの入札期間開始日の90日前までに、入札者及びPJMに書面で提供しなければならない。PJMは、オープンかつ透明性のある方法で、すべての特例申請を検討して受領したデータ及び文書に基づいてフロア価格を算出し、提案された入札価格が受け入れられるかどうかの判断を、当該RPMオークションの入札期間開始の65日前までに当該入札者に提供しなければならない。そして、PJMが市場監視ユニットの助言及びインプットを得て許容可能なフロア価格を通知後、当該入札者は、オークションの募集期間開始の60日前までに、その価格を承諾することを市場監視ユニット及びPJMに書面で通知しなければならない。その決定に際して、入札者は、適用されるデフォルトのMOPRフロア価格を考慮することができ、それが資源固有の決定よりも低い場合には、デフォルトのMOPRフロア価格を選択することもできる。PJMは、FERCの命令がない限り、適用されるデフォルトのMOPRフロア価格と資源固有のフロア価格決定のうち低い方の値に基づいて、本料金表及び市場規則の管理を進める。


長くなってきたので、今回のご紹介はここまでとします。

下記の通り、まだ先は長いです。
(4) 競争的適用除外事項
(5) 自家供給事業体の適用除外
(6) 再生可能ポートフォリオ基準の適用除外を有する電源
(7) DR資源及びエネルギー効率化資源の適用除外事項。
(8) エネルギー貯蔵資源の適用除外
(9) 州の補助金を受けた電源に関連して、不正が疑われる場合、または重要な虚偽表示や不作為があった場合の手続きと救済措置

ただ、今回ご紹介した「(3) 資源固有の特例申請」部分は、現在問題となっている日本の容量市場制度を見直すにあたって参考になるのではないかと思い、しっかり翻訳しました。
#この手の、1つのセンテンスが非常に長い法律関係の文書は、さすがのDeepLの自動翻訳も苦手なようで、翻訳結果に結構手を入れなければならなかったので時間がかかりました。

さて、今年9月14日に発表された日本における容量市場第1回メインオークション結果について、いろいろ意見が出ていますが、個人的には、海外の容量市場の制度/約定価格と比較して、制度的に問題があったのではないかと思っています。

まず、小さな問題点から始めると

1)約定結果の検証に手間取り、オークション結果発表が遅滞した

メインオークション締め切り後、約定結果発表まで約1か月半かかったのは、事前審査ではなく、オークション結果が出てから、問題となりそうな落札者に関して事後検査を行ったからではないでしょうか?
今回の「(3) 資源固有の特例申請」では、PJMでの最低入札価格に関するルールをご紹介しましたが、これを最高入札額の制限に読み替えて、例えば、

  • OCCTOはオークション実施期間開始日の150日前までに、(全国一律ではなく)エリアごとの指標価格、目標調達量、および需要曲線を公開する
  • 入札エリアの指標価格より高い価格での入札を希望する入札者は、120日前までに資源固有の最高入札額特例申請をOCCTOに提出する。提出しない場合の最高入札額=そのエリアの指標価格とし、たとえ指標価格以上の額で入札されても、そのエリアの指標価格で入札があったものとみなす
  • 資源固有の最高入札額特例申請を提出するにあたって、入札者は、電源の固定的な開発、建設、運用、保守のコスト、及び相殺される純収益の見積もりを裏付けるデータ/文書を提出する。
  • OCCTOは、メインオークションの入札期間開始の65日前までに、受領したデータ及び文書に基づいて、その資源の適切な入札上限価格を算出し、その資源固有の最高入札制限額とともに、当該入札者の入札希望額が認められるか否かを通知する。

このような事前の手続きが行われていれば、オークションの結果発表はスムースに実施できたのではないかと思われます。
また、今回メインオークションの約定価格が高騰した原因として、「容量市場にコミットした電源の未履行時のペナルティーが大きく、発電事業者は確実に容量を提供できる分しか入札しなかったのではないか」という意見がありますが、これに関しても、入札ガイドラインに、「入札事業者は、容量市場にコミットした電源の未履行時のペナルティーを勘案し、確実に容量を提供できる分しか入札しないこと」とし、かつ、入札事業者の登録時に、確実にコミットできる入札量を登録させれば、オークション結果が出てから「なぜ、登録した容量分の入札を行わなかったか」などと確認する必要はなかったと思います。

2)入札ガイドラインで細かく規定されていなかった部分があった

今回、電力・ガス取引監視等委員会では、第1回メインオークションの結果について「問題はなかった」としながらも「ガイドライン上、5項目について、その合理性に疑義があるものも見受けられた」と報告されています。
次年度の容量市場メインオークション開催に向けて、コストばかりでなく、収益予想側でも、PJMの「(3) 資源固有の特例申請」(B)(C)を参考にして、入札ガイドライン上、抜け漏れがないか確認していただきたいと思います。

3)シングルプライスオークション方式

今回の日本での容量市場第1回メインオークション結果に関して様々な意見/考察が出ていますが、あまり注目されていない事項として、九州エリアは本来市場分断を起こしていたことがあげられます。

この図を掲載したOCCTOの「容量市場メインオークション約定結果」によると、同エリアの電源は 100%落札されていて、かつ、¥14,137/kW・年より高い入札価格の電源がなかったため、結果的に九州エリアも他のエリアと同一約定価格になっているようです。
ところで、PJMの容量市場もシングルプライスオークション方式ですが、PJM管内で1つの容量市場価格が決定するのではなく、LDA(送電線制約地域)ごとに指標価格を計算し需要曲線線を作成し、エリアごとにシングルプライスオークションで約定価格が決定されています。
もし、日本の容量市場制度もPJMに倣って旧一般電気事業者ごとにエリアを区切って、エリアごとに指標価格、目標調達量を計算し需給曲線を作成していたなら、いくつかの供給信頼度の高かったエリアの容量価格は、全国の応札価格の加重平均だった2、182円/kW・年程度に収まっていた可能性があると思われます。(下表参照)

そこで、すでに、上記の「1)約定結果の検証に手間取り、オークション結果発表が遅滞した」の手続きの説明に含めていますが、日本でも、全国で1つの容量市場ではなく、エリアごとに容量調達を行う市場都市、エリアごとに指標価格、目標調達量、および需要曲線を作成して市場調達することを検討してもよいのではないかと考えます。

以上、今回は、PJMのMOPR第3回改訂版のなかで、州からの補助を受ける電源の資源固有の特例申請についてご紹介するとともに、そのルールを日本の容量市場制度に最高入札額制限としてあてはめた場合の提言と、さらに、次年度の容量市場メインオークション開催にあたって制度の見直しが行われる際、 「日本の容量市場はPJMと英国の容量市場を参考にしている」と言われながら、見過ごされていたPJM
の制度(LDAごとのシングルプライスオークション制度)について言及させていただきました。

終わり