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8回の低炭素電力供給システムに関する研究会開催を経て、平成21年7月28日、低炭素電力供給システムに関する研究会報告書(118ページ)が経済産業省・資源エネルギー庁のホームページ上で公開されました。
また、同日午後、電気新聞社主催セミナー「低炭素電力供給システムとスマートグリッド」が開催され、本シリーズのブログ-4で言及しましたが、その中で本研究会報告書の説明が行われていますので、今回は、公開された資料と、セミナーでの話をまとめて報告します。

低炭素電力供給システムに関する研究会報告書

1)低炭素電力供給システムに関する研究会報告書 第1部 総論について

総論部分については、低炭素電力供給システムに関する研究会とスマートグリッド – 11で概要を説明しました。
そこで、第8回研究会の総論の資料との違いがあるか照合してみたところ、同じでしたので、今回は、内容紹介を割愛します。詳しくは、上記のリンクをたどって、総論本文をご覧ください。最終的な、総論の目次構成と、各々のページ数は以下のとおりです。

1 . 検討の背景(3ページ)
2 . 太陽光発電等の新エネルギーについて(3ページ)
3 . 原子力発電について(2ページ)
4 . 水力・地熱発電について(4ページ)
5 . 火力発電について(3ページ)
6 . 低炭素電力供給システムを実現するための系統安定化対策等について(9ページ)
7 . 負荷平準化対策について(2ページ)
8 . まとめ(2ページ)

2)低炭素電力供給システムに関する研究会報告書 第2部 各論について

各論部分も、第8回研究会の各論の資料内容と相違ありませんでしたので、内容紹介は割愛します。詳しくは、上記のリンクをたどって、本文をご覧ください。

ただ1点、第8回の各論資料とは別立てで作成されていた用語集が、各論の最後に付加されていました。系統設備・運用関連用語からエネルギー関連の最新技術用語、経済用語までカバーされており、この研究報告書を理解する助けになります。
ここでは、各論の目次構成と、各々のページ数のみ記しておきます。

Ⅰ.電力分野における新エネルギーの普及見込(5ページ)
Ⅱ.新エネルギーの大量導入時の系統安定化対策とコスト負担の在り方(11ページ)
Ⅲ.原子力発電について(10ページ)
Ⅳ.水力・地熱発電について(7ページ)
Ⅴ.火力発電について(14ページ)
Ⅵ.低炭素電力供給システムを実現するための系統安定化対策について(8ページ)
Ⅶ.負荷平準化対策について(5ページ)
Ⅷ.低炭素電力供給システムにおける技術課題について(18ページ)
Ⅸ.今後の取組への期待(2ページ)
低炭素電力供給システムに関する研究会委員名簿(1ページ)
低炭素電力供給システムに関する研究会審議経過(1ページ)
用語集(6ページ)

電気新聞社主催セミナー「低炭素電力供給システムとスマートグリッド」

スマートメーター、スマートグリッドに興味を持ち出して数年になりますが、この低炭素電力供給システムに関する研究会の存在を知ったのは、今年に入ってからでした。
資源エネルギー庁のホームページをみると、すごく立派な資料が公開されているので、自分が勉強するついでにブログで紹介していこうと思って、「低炭素電力供給システムに関する研究会とスマートグリッド - 1」を書いたころ、全く同じように、低炭素電力供給システムとスマートグリッドを題名に持つセミナーが開催されることを知り、早速申し込んだ次第です。
開催場所は、経団連会館。セミナー案内をよく見ず、昔の経団連ホールをイメージしていたのですが、今年5月オープンしたばかりの目新しいビルでした。

講演1 「低炭素社会に向けた電力供給のあり方」

講師の山地憲治氏は東京大学大学院教授で、本研究会の座長を務められた方です。研究会報告書の公開が7月28日ですので、この講演=研究会の成果発表会の場の感がありました。
講演内容は、(下記1~5のハイパーリンクは、当日発表に近い資料です)

1. 低炭素社会への動き
2. 電力部門の大きな役割
3. 原子力の実力
4. 化石燃料の高度利用
5. 再生可能エネルギーへの期待
6. スマートグリッドとは

ということで、低炭素社会実現に向けての外部環境の現状把握(政府の動きや、エネルギー供給の推移)、内部環境の現状把握(温室効果ガス排出削減で電力部門の果たすべき役割)と対策(原子力・火力発電)、特に再生可能エネルギー(風力、太陽光、地熱など)への期待(と不安)の表明があり、最後は、単に低炭素社会実現に向けた電力供給システムを構築するのではなく、熱やガスの輸送ネットワークも含めてICTによる協調運用を図る「スマート・エネルギーネットワーク」で話を終えられました。
この「スマート・エネルギーネットワーク」は、最終報告書に反映されていませんが、第8回研究会の自由討議のコメントにあったもので、座長としては、本当は、最終報告書に盛り込みたかったものではないかと推察します。

その他、講演内容で印象に残っている事を列挙します。

  • 原子力の実力:原発の設備利用率を98年水準に戻すだけでCO2削減効果を5%改善できる。また既存原発出力を5%拡大できれば原発2基分増設と同じ効果がある
  • 再生可能エネルギーへの期待:長期エネルギー需給見通しの太陽光発電最大挿入ケース(5300万kW)は非常に難しい目標である。また、地熱発電は地味だが設備利用率が高いので2007年度年間発電電力料で見ると、風力発電、太陽光発電をしのいでいる
  • スマートグリッドとは:(電力供給のみに拘泥しないで)エネルギー間、供給者・需要者間にシステム境界を拡大して、コスト、効率、CO2削減などの最適化することが重要

講演2:「IBMのスマートグリッドの事例と普及への取り組み」

講師の宮坂修司氏は、なんとか日本でもスマートメーター/スマートグリッド(IBM用語で言うとIUN:Intelligent Utility Network)を普及させようとがんばっておられる方で、今回の講演の中でも紹介されたIBM消費者サーベイのレポートをIBMのホームページから請求させていただいたところ、ぜひ一度ディスカッションしましょうとのご連絡を頂き、お話を聞かせていただいたことがあります。また、単にビジネス方面だけでなく、インターネットで調べてみると、電気学会全国大会に向けて「高効率電力使用のための計測と制御」を発表したり、その他様々なセミナーで「布教活動」をしておられるようです。
さて、当日の講演内容ですが(下記のハイパーリンクは、当日発表に近い資料です)、

1. スマートグリッド推進の背景
2. スマートグリッドの定義
3. IBMの市場認識
4. IBMのスマートグリッド領域での取組み
5. IBMの欧米における取組み事例(ご支援実績)
6. 日本版スマートグリッド推進の論点

という形で進行しました。
ここでも、以下に講演内容で印象に残っている事を列挙します。

  • スマートグリッド推進の背景:日本での消費者サーベイ結果を昨年のものと比べると、少々高くついても環境にやさしい非エネルギー関連製品を買う割合が低下しているものの、エネルギー利用に関しては「倹約型目標追求者」のセグメントに属する人が多く、例えば電力料金メニューで時間帯別のメリハリを利かせばデマンドレスポンスが成功する可能性を感じました。
  • IBM市場認識:電力ネットワークは、現在の「受動的現状固執型:から「顧客参加型ネットワーク」に移行することが望ましいが、移行に当たっては、まずスマートメーターを導入した「オペレーション変革型」を経由するのが良いのではないかということでした。
  • IBMのスマートグリッド領域での取組み:スマートグリッドの中にも、競争する領域と、標準化の推進など協業すべき領域があり、IBM Global Energy & Utilities Industryの担当者がGridWise Allianceの議長を務めている。
  • IBMの欧米における取組み事例:いろいろな事例が紹介されましたが、豪州Country Energyに提供している、系統への売電も含めた分散電源最適化事例が目を引きました。
  • 日本版スマートグリッド推進の論点:「日本にはスマートグリッドはいらない!」 vs 「北米に負けずに導入しよう!」という単純な二元論ではなく、監督官庁部門横断、産業界横断での研究会・実証実験等で、将来を見通した日本の成長に資するスマートグリッドの導入についての検討が必要 -というのは、正にそのとおりだと思います。

講演3:「スマートグリッドの動向」

講師の合田忠弘氏は九州大学大学院教授で、略歴を見ると、大阪大学(私の出身校)電気工学修士課程終了後三菱電機で重電計画部、電力系統技術部、電力流通プロジェクトを担当された後、現職に就かれているようで、電力供給システムに関して非常に造詣の深い方であることがわかります。
講演の副題は「スマートグリッドと、その標準化動向」ということで、IEC(International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議)を中心に、以下のような講演内容で話されています。 

1. IECの組織と戦略グループ(SG3)の役割
2. スマートグリッドの企画化とSG3
3. 日本からの技術発信活動
4. スマートグリッド各論
5. まとめ 

冒頭、「現在日本独自の規格というものが海外から見て参入障壁となっており、海外からは国際障壁をなくし参入の自由化を実現するために国際標準規格への準拠が要請されているので、現在の日本の規格は高い水準にあるものの、今後は国際標準に移行するのも1つの策である」との意見を述べられたのが印象的でした。

国際規格に関して、海外の方が日本に抱くイメージは、模様眺めあるいは(日本固有の規格の)守りの姿勢が強く自国の規格を積極的に世界標準にしようとする攻めの姿勢が少ないということで、最後のまとめで、規格活動に従事してきての雑感として、攻守のバランスを考え、ビジネス戦略(市場開拓、技術開発)の一環として国際規格活動に参画することが大事だと話されていました。

講演資料の中に、「スマートグリッド関連の委員会と既存規格」という表があり、それによると技術仕様に関する送配電の規格22のうち、実に12個がTC(Technical Committee:技術委員会)57となっています。日本から委員が参加しているかどうか質問したのですが、その場ではわからないということでしたのでインターネットで調べたところ、TC57の歩みという資料を見つけました。
以下、その内容を少し引用します。

TC57 委員会の名称は「電力システム管理と関連する情報交換」、ワーキンググループが9 もあり、幅広く活動している。
その中で日本は、TC57国内委員会の中に各ワーキンググループに対応した国内作業会を設置し、国際ワーキンググループに登録したメンバーを中心に国内でのバックアップ体制を確立し、日本の実情に即した意見提出を行っている。 また、国際ワーキンググループへの登録メンバーの頻繁な出席や新規格提案時からのメンバーの参加等の積極的な規格策定活動への参加により、国際ワーキンググループでも日本のメンバーの位置付けが高くなってきている。
現在、日本の電力会社の電力用通信は、独立した自営網で構成されており、システムの相互接続ニーズが諸外国に比べて少ない等の事情からIEC 規格が採用されている事例は少ない。しかし、今後、電力自由化やグローバルな経済活動の進展により、電力会社間の相互運用性や相互接続性が求められ、国際標準の機器導入が進む可能性があることから、国際的な技術動向を迅速・的確に把握し、これまで以上にIEC規格への適切な対応を行うことが必要であると考える。

低炭素電力供給システム、あるいは、日本のスマート・エネルギーネットワーク構築に当たっては、ぜひ、国際標準の採用も視野に入れて欲しいものです。

以上、12回にわたって、低炭素電力供給システムに関する研究会の内容を紹介しながら、自分自身のスマートメータリング/スマートグリッドに対する考えを披露させていただきしました。
このタイトルでのブログのシリーズは、これで終了しますが、また良い題材があれば、シリーズで検討したいと思っています。