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以前、ブログ「米国のスマートグリッドの標準規格の動向」で、米国では、国立標準技術研究所(NIST)がまとめ役となって、スマートグリッド標準化のロードマップを作成し、その後も、「NISTスマートグリッド概念モデル」の作成等、ロードマップに従って着々と動き出していることをご紹介してきました。
同じくブログで取り上げたOpenADROpenADEも、NISTが、相互運用可能なスマートグリッド構築に必要な標準規格を確立するためのPAP(Priority Action Plan:優先行動計画)に指定され整備が進められてきたものです。

2011年5月25日サンタクララで開催されたConnectivityWeek2011では、2011年末までにスマートグリッド標準フレームワークversion2のリリースを目指して、その後も着々と進んでいる様子が報じられていましたが、先月気になるニュースを目にしましたので、今回は、それをご紹介したいと思います。

ニュースソースは、Electric Light & Powerの7月21日付の記事「FERC will not adopt five NIST-recommended smart grid standards:米国連邦エネルギー規制委員会(FERC)はNISTが推奨する5つのスマートグリッド関連の標準規格を採用しない」というタイトルです。

では、まず、どんな記事だったかご覧ください。


FERC、NISTが推奨する5つのスマートグリッド関連の標準規格の不採用を決定
2011年7月27日

7月19日、連邦エネルギー規制委員会(FERC)は、国立標準技術研究所(NIST)が推奨するスマートグリッド相互運用性標準規格の法制度化手続きを行わないことを明らかにした。
法制度化の検討対象となったのは、変電所自動化、制御所間通信、送配電のデータ交換等に使われる装置とネットワーク通信に関する5つ標準規格で、国際電気標準会議(IEC)によって整備されたスマートグリッド関連の5つの標準規格をセットにしたものある。
FERCは、不採用決定理由の詳細を明らかにしていない。
ただ、「SGIP(Smart Grid Interoperability Panel)と、それに属する小委員会、作業部会での作業を含め、NISTの相互運用性フレームワーク策定プロセスは、スマートグリッド相互運用性標準規格を策定する最良の手段である」としながらも、「サイバー・セキュリティを含め、現時点でこれらの標準規格を採用するのは時期尚早で意図しない結果を招く可能性がある」との懸念を表明している。

<以下省略>

そもそも、NISTは、2007年エネルギー自立&安全保障法(EISA2007)のSection 1305で、スマートグリッドのデバイスやシステムの相互運用性を実現するため、米国エネルギー省(DOE)およびFERCと協働して相互運用のプロトコルやモデル標準等、相互運用性フレームワークを開発するための調整責任者に指名されています。FERCもそのことは認識しているはずなのに、NISTが選定したスマートグリッド関連標準規格をなぜ拒否したのか? 疑問に思いましたので、事の経緯を調べてみました。

1) 2010年10月6日

NISTは、選定した5つの標準規格を規制当局による法制度化の対象として、文書でFERCに通知

問題の標準規格とは、以下の5つです。
• IEC 61970 およびIEC 61968:主に送電(IEC61970)および配電(IEC61968)ドメインでの、装置・ネットワーク間のデータ交換に必要な共通情報モデルCommon Information Model (CIM) を提供
• IEC 61850:変電所自動化と、共通データによる情報交換
• IEC 60870-6:制御所間の情報交換
• IEC 62351:遠隔制御AP用セキュリティの標準規格

2) 2010年10月7日

FERCは、Docket No. RM11-2-000を発番し、EISA 2007 Section1305(d)に基づいて法制度化手続きを開始

3) 2010年11月14日

FERCは、ジョージア州アトランタ市のOmniホテルでスマートグリッド相互運用性標準規格のテクニカルカンファレンスを開催

と言っても、アゼンダから見るとほとんど顔合わせだけのような感じです。
10:30 am - 開会の辞 Charles Gray氏(全米公益事業規制委員協会NARUC)およびRay Palmer氏(FERC)
10:35~10:45 am - Dr. George Arnold氏(NIST)
10:45~10:55 am - George Bjelovuk氏(SGIP GB)
10:55~11:05 am - Richard Schomberg氏(IEC Smart Grid Standards議長)
11:05~11:15 am - Daniel Thanos氏(NIST – Chief Cyber Security Architect)
11:15~11:30 am - ディスカッションおよび閉会の辞

4) 2011年1月31日

FERCは、スマートグリッド相互運用性標準規格のテクニカルカンファレンス(Webカンファレンス)を開催し、スマートグリッド関係者間で、NISTの提示したIEC標準規格採用することに十分コンセンサスが得られているかどうか確認

以下は、当日のアゼンダです。
1:00~1:05 pm - 冒頭あいさつ (FERCスタッフ)
1:05~1:20 pm - 開会の辞George W. Arnold氏(NIST)
1:20~2:50 pm - パネル1:5つのスマートグリッド関連標準規格を選定したNISTでの過程に関する情報収集
3:00~4:30 pm - パネル2:スマートグリッド相互運用標準規格の開発・特定過程の今後に関する意見収集
4:30~5:00 pm - ラップアップ
この中で、「標準規格を適用(adopt)するといってもあいまいで、いろいろなレベルの適用の仕方がある」というFrances Cleveland氏(Xanthus Consulting)の指摘をはじめ、複数の参加者から5つの標準規格を米国のスマートグリッドの標準規格として適用するのは時期尚早との意見が表明されたようです。

5) 2011年2月16日

FERCは、「SUPPLEMENTAL NOTICE REQUESTING COMMENTS」を発行して、追加コメントを収取

例えば、カリフォルニア州規制委員会(CPUC)からMEMORANDUMとして、「NISTが推奨する5つの標準規格を米国のスマートグリッドの標準規格とするには、まだ関係者間で十分なコンセンサスが得られていない」等の回答が返されています。

6) 2011年7月19日

FERCは、Docket No. RM11-2-000に関する指令(Order)を発行

その中で、スマートグリッド相互運用性標準規格法制度化検討の結果、スマートグリッド関係者間で、NISTの提示したIEC標準規格を米国のスマートグリッド標準規格として採用することに関して十分コンセンサスが得られていないとの判断を下し、Docket No. RM11-2-000の法制度化手続き終了をアナウンス。また、スマートグリッド相互運用性標準規格の法制度化を進めるために、電力会社、スマートグリッド関連製品の製造業者、州規制局その他のスマートグリッド関連者は積極的にNISTの相互運用性フレームワーク策定プロセスに参画するよう勧告しています。

 

第一印象として、NIST(商務省)とFERC(エネルギー省)の覇権争いかと勘ぐってしまったのですが、以上のような経緯で今回は法制度化が見送られたようです。

 

 

P.S.

今回は、全く絵のない殺風景な内容になってしまいました。そこで、冒頭のニュース記事に出てきたSGIP(Smart Grid Interoperability Panel)について、追加でリサーチした内容を、絵等を交えてご紹介したいと思います。

 SGIP誕生の経緯

まず、NIST(National Institute of Standards and Technology:国立標準技術研究所)は、IT用語辞典によると米国の技術や産業、工業などに関する規格標準化を行っている商務省配下の組織。暗号化技術では、世界の最先端を行っており、クラウド・コンピューティングの標準化なども手掛けているようです。

SGIPのホームページを見ると、SGIPは、EISA2007がNISTをスマートグリッド相互運用性相互運用性フレームワーク開発の調整責任者に指名したため出来上がった組織であることがわかります。
設立に先立ち、2009年10月9日、10月28日、11月12日の3度にわたってSGIP Updateと題したWebinarが開催されています。その開催案内によると、NISTは2009年9月24日に『NIST Framework and Roadmap for Smart Grid Interoperability Standards Release 1.0 (Draft)』を公開しましたが、それを継続してスマートグリッド関係者によりアップデートしていく仕組みとしてSGIPを作ろうとしており、一連のWebinarで、興味を持つ関係者にSGIPの計画と進行状況を説明するとともに、SGIPへの参加を募っています。
※当時、IECの標準規格/CIMの資料をダウンロードする都合上UCAIugにユーザ登録していましたので、私にもこのWebinar開催案内が届き、第1回目に参加しています。また、2回目のWebinar開催案内メールで、SGIPへの加入の勧誘が行われています。

この一連のWebinarで参加メンバーを募り、2009年11月16日、デンバーで開催された、NISTとGridWise Architecture Council (GWAC)共同主催のGrid-Interop2009で、正式にSGIPの発足がアナウンスされ、その中で運営委員会(SGIPGB)の役員選出が行われた模様です。(GWACGrid-Interop2009)

 SGIPおよびSGIPメンバーの役割、ミッション、責務

SGIPの設立趣意書(SGIPGB and SGIP Charter)によると、SGIPおよびSGIPメンバーの役割、ミッション、責務は以下の通りです。

SGIPの役割:スマートグリッドの標準規格開発途上で発生する調整・修正や、開発促進・標準規格間の調和を図るため、スマートグリッド関係者が情報を提供し、NISTと協力するための開かれた場を提供する

SGIPメンバーの役割:①ユースケース、要件、NISTとして推奨する標準規格に帰着する技術/ビジネス・ガイダンスの提供、②既存の標準への修正の勧告、③既存標準規格中のギャップの識別、④スマートグリッド試験&認証プログラムのコーディネーション、⑤スマートグリッドの標準規格開発および試験&認証を加速するため優先行動計画(PAP)の提言

SGIPのミッション:標準規格間の調和と開発を加速するための、全スマートグリッド関係者間の調整を行える強固なフレームワークの提供。具体的には、①ユースケースの開発・レビュー、②要件の洗い出し、③ゴール達成のための行動計画の提案

SGIPの責務:①スマートグリッドの標準規格開発を促進するために必要な技術ガイダンスの提供、②スマートグリッド標準規格を適用して相互運用性が達成されているかどうか査定するために必要な試験&認証要件の規定、③これらの活動の成果の監視

 SGIPの守備範囲

同じく、SGIP設立趣意書には、SGIPのScopeとして、以下の記述があります。

スマートグリッド標準規格:標準規格を策定する組織間で議論と調停を行うためのフォーラムを作り、スマートグリッドに使えそうな標準の選定、推奨を行う

優先行動計画(PAP):SGIPは、PAPドキュメント、推奨する標準規格リスト、スマートグリッド概念モデルを管理する

標準規格の試験&認証:ベンダーが提供する製品やサービスを、試験を通してスマートグリッド標準規格に適合しているかどうかを検証するための明確な認可基準を開発・確立する

スマートグリッド概念モデル:NISTフレームワークとして作成したスマートグリッド概念モデルの有効性と内容の維持管理を行う

スマートグリッドのサイバー・セキュリティ:スマートグリッドのサイバー・セキュリティを支援するため、標準規格に何が必要かを分析し、要件を検討する

相互運用性ナレッジベース:相互運用性ナレッジベース(Interoperability Knowledge Base :IKB)を作成し、SGIPの作業結果をIKBで提供する

関係者の関与:標準規格ベースでの系統の相互運用を促進するため、Architecture Committeeの指導の下で、相互運用を可能とするために必要な概念、標準規格、アーキテクチャーを同定し優先度をつける。また、米国内の系統運用にかかわるシステム、装置、組織間の相互運用を促進するための、明確で実用的なステップを描き、優先度をつける。更に、Testing and Certification Committeeの指導の下で、スマートグリッド相互運用性標準規格への適合度を評価する

SGIPの守備範囲外のもの:SGIP自体では、標準規格文書の作成・発行は行わない。また、SGIPは、その成果物が示唆する製品や技術の設計、宣伝、販売を行わない。

 SGIPの最後のP(Panel)の意味

2005年に組織されたHealth IT Standards Panel(HITSP)が、ANSI(American National Standards Institute)内に設置された、医療関連のあらゆるセクターの代表者で構成される官民パートナーシップで、いろいろな標準策定団体が策定している医療ITに係る標準について、その調整・調和を行い、採択すべき標準を特定し、ガイダンスを策定しています。
これが、SGIPでやろうとしていることとよく似ているので、同様のネーミング、すなわち、最後の委員会を表す略語に、P(Panel)を用いたようです。

 SGIPの組織

SGIPには、下図の通り、運営委員会(Governing Board:SGIPGB)の他に、スマートグリッド試験&認証を行う小委員会(Test&Certification Committee:SGTCC)とスマートグリッドのアーキテクチャーを取り扱う小委員会(Architecture Committee:SGAC)の2つの常任委員会(Standing Committee)、スマートグリッド相互運用性のサイバー・セキュリティを取り扱う作業部会(Cyber Security Working Group:CSWG)、優先行動計画を検討し、進捗状況を管理するPAPチーム、B2G/H2G/V2G等の専門家の作業部会(Domain Expert Working Groups)、調停機能を果たすグループなどから構成されています。


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出典:2010年10月8日テクニカルカンファレンス プレゼン資料

 SGIPメンバー構成

下図は2010年10月4日時点の情報ですが、SGIPホームページのMembership情報によると、2011年8月現在の法人会員は656、個人会員は1700で、米国以外の法人会員は66。法人会員のカテゴリーは、Undeclaredを入れて23種類ですが、相互運用性に関する委員会なので、ITベンダー(IT Application Developers and Integrators)の会員が一番多いことがわかります。


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出典:2010年10月8日テクニカルカンファレンス プレゼン資料

 SGIPと標準化活動団体の関係

下図は、平成22年4月20日開催された総務省の「IPv6を用いた環境分野のクラウドサービスワーキンググループ(第2回会合)」で、シスコシステムズ合同会社の説明資料「低炭素社会に向けた“インターネット”のネクストステージ」(資料WG環2-2)の中にあった、SGIPと標準化活動団体の関係を表した図です。


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終わり