Woodstown beach at sunrise
© Copyright tony quilty and licensed for reuse under this Creative Commons Licence.

明けましておめでとうございます。
このブログもおかげさまで開設して11年目を迎えることができました。

近年次第に更新が少なくなり、昨年度は、年明けに「PJMの周波数調整市場の制御信号RegDのルール変更」と題して、仕事の合間を見て調査しつつブログを更新する積りでいましたが、本業が忙しくなり、振り返ってみると、シリーズ「その3」までアップしたところで年が変わってしまいました。

にも拘わらず、「PJM」と「RegD」でGoogle検索すると、弊社ブログが未だにトップページにリストアップされており、ご期待に背かないよう、今年こそはブログの更新にも力を入れていかねばと思っておりますので、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

今年も、PJMの動きをウオッチするとともに、自分としては、VPP、PRD、トランザクティブ・エネルギーなど、電力業界のビジネス構造が今後どのようになっていくのか、広い意味でスマートグリッドの今後の行方を示唆するような情報提供に努めたいと思います。

本日は、仕掛中だったPJMのRegD信号のルール変更について、その後の状況をご紹介しようと思いますが、その前に、時間もたったことですので、自分自身の記憶の整理もかねて、時系列でどのようなイベントが起きて現在に至っているかをまとめてみます。

1)2011年10月:FERCオーダー755

2011 年 10 ⽉に連邦エネルギー規制委員会(Federal Energy Regulatory Commission、以下 FERC)が、ISO/RTO の卸電⼒市場に周波数調整を提供する調整電源への対価が公正かつ妥当となるように、①周波数調整として提供する容量への⽀払い、②パフォーマンスに応じた⽀払い、という 2 段階式⽀払制度の導⼊を義務付けた最終規程(FERC Order 755)を公表

(出典:電力改革研究会 「電源のパフォーマンスを評価するアンシラリーサービス制度」)

このFERCオーダーはPJMばかりでなく、すべてのISO/RTOに対するものだったので、それぞれのISO/RTOがオーダー755に基づいたルール変更を行っており、上記の出典ではCAISOでのルール変更が詳細に説明されています。

2)2012年5月: Docket No. ER12-1204-000 ORDER ON COMPLIANCE FILING

FERCオーダー755を受けてPJMは、周波数調整信号にPerformance Based Regulationの仕組みを導入。従来通りの低速応答(5分以内)の電源向けの信号:RegAに加えて、数秒以内に高速応答できる装置向けの信号:RegDを設けることを含めたルール変更案を3月にFERCに提出。FERCはこれを概ね承認し、この年の10月よりRegA/RegD制御信号による周波数制御が開始されています。
なお、RegD信号に従う設備(RegD電源)は蓄電池等、容量に限りがあるので、応答性は良いものの、一定時間連続して同一方向(いわゆるReg-UP又はReg-Down)の周波数調整信号が来ると、そのうちPJMからの制御信号に従えなくなります。一方、RegA信号に従う電源(RegA電源)は、応答性ではRegD電源にかなわないものの、連続して同一方向の周波数調整信号が来ても、対応可能です。そこで、パフォーマンスの良いRegD電源一辺倒とならないよう、RegD信号の新設とともに導入されたのが便益係数(ベネフィットファクタ)で、RegD信号に従う電源(RegD電源)がRegA信号に従う電源(RegA電源)より周波数調整に関して有効な範囲に限りRegD電源を採用する-というコンセプトになっていました。

※ そして、もう1つRegD信号に関して、当時のRegD電源の容量(の少なさ)を考慮して、「エネルギーの中立性(Energy Neutrality)」を維持するための考慮がなされていたということなのですが、マニュアル(M11「Energy & Ancillary Services Market Operations」、M12「Balancing Operations」)等にはそのような記述はなく、後にエネルギー貯蔵装置メーカーの団体であるエネルギー貯蔵協会(Energy Storage Association:ESA)からFERCに提出された苦情申し立てで初めてそのようなことが考慮されていたことを知りました。

3)2015年12月: PJMマニュアルM11「Energy & Ancillary Services Market Operations」Rev78での改定

2015年頃になると、RegD電源の増加に伴い、朝晩の需要が大きく変化する時間帯に、系統運用上不都合な状況が起きていることにPJMは気づきました。そこで、RegD電源とRegA電源の比率である「利益係数(benefits factor)」に手を加え、RegDの比率を低くするとともに、RegD電源の最大調達量を全体の26.2%以下に制限することにしました。

※この変更をFERCの承認を得ずに行ったことが、後で問題となりました。

4)2017年1月: PJMが、RegD信号に関するルールを変更

通常、周波数調整信号は長い目で見ると上げ下げ相半ばすると思うのですが、カリフォルニア州の電力需要の日負荷曲線のダックカーブにみられるように、今後も太陽光発電がどんどん増え、それが自家消費に回ると、従来はピーク需要時間帯だった真昼の時間帯は系統電力の需要は減り、その代わり、朝晩の太陽光発電量が急に多くなる/少なくなる時間帯に、継続して大幅な系統電力の需要減/増が起き、それが長時間一定方向の周波数のズレとなってしまいます。RegD信号は、その間+/-の一定方向の指示を継続しようとしますが、「エネルギーの中立性」のロジックが働き、15分経つと無条件に15分前と同じ電力貯蔵レベルに戻るようにRegD信号が生成されてしまうので、例えばRegA信号としてはReg-UPの指示が出続けているのに、突然RegD信号はReg-Downの指示に変わり、RegD電源が、周波数のズレ(ACE)を助長するような現象が発生しだしたのです。
そこで、PJMでは、RegD信号生成に関して「30-minute conditional neutrality Regulation signal」へと舵を切りました。すなわち、これ以降はRegA電源に余裕がある場合に限り、30分経つと30分前と同じ電力貯蔵レベルに戻すこととしたのです。

5)2017年4月: ESAがPJMのルール変更に関してFERCに苦情申し立て

PJMのRegDルール変更-その2」でご紹介した通り、ESAは、PJMのRegDに関する2015年12月及び2017年1月のルール変更は、ESAの協会メンバ企業の一部に甚大な被害を及ぼしていることと、これらのルール変更は、PJM周波数調整市場への参加者の収益にも影響する事項なので、単に「運用ルールの変更」とするのではなく、FERCの承認を得るべきであったとの申し立てをしています。

ここまでを去年ご紹介しましたが、その後PJMの周波数調整市場の運用ルールが変更されたのか調べてみました。

6)2017年6月: ESAの苦情申し立てに対するPJMからの回答

※ESAがFERCに対してPJMのルール変更に関する苦情申し立てをしているので、PJMもFERCに対して、回答を「MOTION FOR LEAVE TO FILE ANSWER AND ANSWER OF PJM INTERCONNECTION, L.L.C.」として提出していました。
以下、ESAの苦情(文字色=青)に対するPJMの回答を紹介します。

周波数調整信号のルール変更により、PJMは応答速度の遅い電源により多く依存するようになってしまった。

そんなことはない。2017年1月までは、RegA信号と、RegD信号は独立して生成していたので、時にはRegD信号が周波数のズレを助長する方向に出てしまったが、それを是正するために、RegA電源に余裕があれば本来RegD電源が受け持つ部分をRegA電源に肩代わりさせることで、RegD電源が周波数調整の邪魔をしないようにしたものである。

2017年1月のルール変更で、ESAのメンバ企業は、PJMからのRegD信号をフォローするためにほぼ毎日釘付けになっている。

ESAの主張は、PJMの周波数調整市場の取引が1時間単位であることを忘れており大げさではないか?
PJMとしては、ESAのメンバ企業が提供するRegD電源は、その他多くのRegD電源の1つに過ぎず、当該時間に使えるならRegD信号を送るし、使えないなら信号を送らない。

今回の変更は、FERCオーダー755を実現すべく作成された、RegD信号に追随するエネルギー制限のある資源の運用上の特徴を無視したものである。

系統運用者として周波数のズレが継続して起きていればいずれかのRegA/RegD電源を用いて周波数を一定に保つ責務がある(ので、RegD電源で継続して周波数調整力を提供する場合は、新たな「30-minute conditional neutrality Regulation signal」ルールに従ってほしい)。とはいえ、苦情の向きは理解したので、2017年6月2日よりRegD電源に対して、長時間同一方向の制御信号を送るケースを減らすようシステムを調整したので、毎日RegD電源の貯蔵電力量の監視でくぎ付けになる頻度は減ったものと思う。

PJMは、これらの制度変更に伴に、RegDリソース提供者への対価の改定を一切行わなかったが、ESAとしては承服しがたい。

法律上、PJMが周波数調整のニーズを満たすためどのようにシステム運用を行うかは、PJMの裁量の範囲と考えているが、業務慣行を改善する方法を議論することにはやぶさかではない。
そこで、いきなりFERCの訴訟プロセスに持ち込むのではなく、PJMの利害関係者での協議、またはPJMが最近発行した価格形成に関するホワイトペーパーに類するものを作成し、FERCに提出して、パブリックコメントを求めてはどうかと提案する。

7)2018年3月:本件に関するFERCの判断

2017年4月にESA等が提出したPJMの周波数調整市場ルール変更に関する苦情申し立てからずいぶん時間がたっていますが、2018年3月30日に「ORDER ON COMPLAINTS AND ESTABLISHING TECHNICAL CONFERENCE」が公開されました。

これまで、PJMのルール変更に反対した組織の代表としてESAのみを取り上げてきましたが、それを見ると、FERCには、ESAの苦情に賛成する意見として、ESAの協会メンバ企業であるAES、Duke、EDF、NextEraやRESA/Invenergy、逆にPJMを支持する意見としてPJMの電力市場監視機関であるMonitoring AnalyticsやAEP、部分的に賛成・反対意見を述べたAlevoなど、様々なコメントが寄せられており、FRECはこれらの意見を勘案して

- PJMの周波数調整市場ルール変更に関して、便益係数とそれに基づいてRegD信号を管理するパラメタが不透明であるとして、ESAから提出された異議申し立てを部分的に認可していますが、
- 寄せられたコメントでも多くの問題提起が行われているので、訴訟による解決ではなく、それらの問題を解決するための技術会議の開催を提案しています。

ところが、この技術会議はなかなか開催されませんでした。

Monitoring Analyticsが2018年5月13日に提出した「COMMENTS OPPOSING SETTLMENT OF THE INDEPENDENT MARKET MONITOR FOR PJM」によると5月3日にFERCが技術会議の開催案内を出したものの、PJMやESA等双方から時期尚早との理由で開催延期依頼が出され、5月30日に開催延期が決定されています。

まだ調査中なのですが、2019年1月公開された「ORDER ACCEPTING TARIFF REVISIONS」によると、この時点でもまだ技術会議は開催されていないようです。

少し長くなったので、今回はこの辺で

おわり