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前回のブログのタイトル「PJMの周波数調整市場の制御信号RegDのルール変更とその顛末」が長すぎたので、今回はその続編ですが、タイトルは「PJMのRegDルール変更」と短くしました。

早速、PJMが2017年1月に公開したドキュメント「Implementation and Retionale for PJM’s Conditional Neutrality Regulation Signals」に入ってもよいのですが、何が問題になっているのかを手っ取り早く理解していただくため、今回は、エネルギー貯蔵装置メーカーの団体であるエネルギー貯蔵協会(Energy Storage Association:ESA)がどのような苦情をFERCに申し立てたのかを確認したいと思います。

2017年4月18日付けでEnergy Storage Newsは「PJM’s frequency regulation rule changes causing ‘significant and detrimental harm’」の記事で以下のように伝えています。(例によって、全訳ではないことと、個人的な思い込みの入った超訳になってしまっている可能性があることにご留意ください)

PJMの周波数調整制度変更で、「甚大な損害」発生

2017年4月18日 Andy Colthorpe

2017年4月13日、エネルギー貯蔵協会(ESA)は、2度にわたる周波数調整ルールの変更によって、PJMの周波数調整市場に参加していたESAの協会メンバが甚大な経済的損害を被ったとFERCに苦情を申し立てた。

では、どのようなルール変更だったのか振返ってみよう。

現在PJMは、2種類の周波数調整を併用している。1つ目は、応答性がそれほど早くない資源(従来の火力発電)を用いて周波数制御を行なうもので、そのために用いられる制御信号はレギュレーションA(RegA)と呼ばれている。

これに対して、蓄電池等応答性能は早いけれども供給できる容量に限りがある電源に対する周波数制御用の制御信号はレギュレーションD(RegD)と呼ばれている。ここで重要なのは、PJMは、RegD信号の生成に当たって、「供給できる容量に限りがある」という、その資源の性格上、エネルギー中立性(Energy Neutrality)を保証するという条件を設定していた点である。

2015年になって、PJMは、RegD電源(蓄電池等RegD信号に従う資源)の増加に伴い、朝晩の需要が大きく変化する時間帯に、系統運用上不都合な状況が起きていることに気づいた。そこで、PJMは、RegD電源とRegA電源の比率である「利益係数(benefits factor)」を変更し、RegDの比率を低くするとともに、RegD電源の最大調達量を全体の26.2%以下に制限することにした。

更に、今年(2017年)1月、PJMはRegD信号に関してエネルギー中立性を維持するという制約を取り除くとともに、RegA電源同様、(そもそもRegD電源が「供給できる容量に限りがある」という性格を認識していたにもかかわらず)制御信号に従って供給することを義務付けた。そのため、RegD電源は、必要に応じて系統から電力を購入する必要が出てきた。

これは、当初のRegD信号の設計およびRegD電源の運用設計と矛盾する

-というのがESAの主張である。

また、この一連のRegD電源に関する制度変更は、PJM管内の周波数制御市場の料金/契約条件に重大な影響を及ぼしたが、そもそも、このような重大な変更は、実施する前に規制当局(FERC)の認可を受けるべきではないかとも主張している。

ESAに所属する組織のうち、少なくとも7つの組織がPJM管内でエネルギー貯蔵施設を用いて周波数調整市場に参入しており、この規則変更により「甚大な損害を受けた」と主張。 FERCに対して、PJMの利益係数の見直しと、RegD資源の調達上限の廃止、およびRegD信号の生成に当たって「エネルギー中立性」を復活させるよう要請している。

Energy Storage Newsの記事は以上ですが、「エネルギー中立性」に関して、何となくどんなものかお分かりいただけたでしょうか?
元来、PJMは、火力発電所等(=RegA電源)のみで周波数調整の運用を行なっていました。そこに、蓄電池やフライホイール等、従来電源に比べて発電指令に対する応答性能の良い電源が入ってきて、FERCがオーダー755として、周波数調整電源の実績(パフォーマンス)に応じた報酬の支払い(Pay for Performance)を行なうよう、系統運用者に命令。こうして出現したのがRegA/RegD2本立ての信号による周波数調整メカニズムです。

出典:2016.12.6、PJM State & Member Training Dept.「Regulation」p.11

上図は、PJMの周波数調整市場に関する資料にあったものですが、RegD信号はPJM管内の周波数偏差(ACE)のデータのうち、ハイパスフィルタを通過した高周波成分に基づいているというだけで、この資料の中には「エネルギー中立性」の制約に関する説明は一切ありません。

今回の記事で、PJMとしては、RegD電源の「供給できる容量に限りがある」という性格を「忖度」して、一定時間(t)ごとに、Regulation-UP信号の合計とRegulation-Downの信号を合計すると0に戻すようにRegD信号を生成するということのようです。

RegD電源提供者としては、蓄電地でいうとSOCレベルの初期値を50%にしておき、周波数調整市場に提供するΔKWを2/t時間で100%あるいは0%とならない範囲で指定すれば、実運用時間中、SOCレベルが100%を超えてしまわないか、逆に空っぽになってしまわないか気にする必要がない-というありがたいものだった訳ですね。

ところが、2回目の制度変更で、RegD電源提供者は、SOCレベルが100%を超えてしまわないか、空っぽになってしまわないか絶えず気にしなければならなくなったので、確かにこれは大変です。そんなに気安く変えてくれるな!と苦情を訴えるのも、わからない訳ではありません。

#「利益係数(benefits factor)」と、その変更に関しては、別の機会に説明しようと思います。

本日は、ここまでですが、1つお知らせがあります。

筆者が事務局を務めさせていただいている日本KNX協会では、2月26日午後、ヒルトン東京お台場のシリウスの間で、KNXフォーラム 2019」を開催いたします。

今回のイベントでは、建築設備綜合協会にご協賛いただき、秋元会長のご挨拶をいただくとともに、KNX協会本部のLux会長も来日し、ご挨拶させていただきます。

「あかり/光の制御」のサブタイトルの下、外部講師の方の基調講演の後、日本でもようやく導入事例が出てきたKNXの現状を紹介させていただきますので、是非皆様にもお越しいただきたく、よろしくお願いします。

以下は、このイベントの概要と、ご参加いただく場合の登録ページへのリンクです。 当日のプログラムはここをご覧ください。

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KNXフォーラム2019

                   ~あかり/光の制御~

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開催日時:2019年2月26日 13時30分~19時00分

開催場所:ヒルトン東京お台場 1Fシリウス

〒135-8625 東京都港区台場 1-9-1 ヒルトン東京お台場

主催:一般社団法人日本KNX協会

協賛:一般社団法人建築設備綜合協会

受講料:無料(事前登録制)

参加は無料ですが、 席数には限りがございます ので、お早めに参加ご登録下さい。

登録先: https://eventregist.com/e/KNXJForum2019

おわり