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以前、『固まってきた?日本版スマートグリッドの中身』のブログシリーズで、次世代送配電システム制度検討会、および、スマートメーター制度検討会での検討の経緯を何度かリアルタイムにご紹介しましたが、2月末、これらの検討会から公開された最終報告書(正式タイトルはスマートメーター制度検討会報告書、次世代送配電システム制度検討会第1ワーキンググループ報告書、および、次世代送配電システム検討会第2ワーキンググループ最終報告書)に関して、フォローできていませんでした。
• 2020年型日本版スマートグリッドはこれでよいのか?
• とりわけスマートメーターに関して、これで2020年代を見据えた機能範囲と言えるのか?
• 標準化しなくてよいのか?
• エネルギー基本計画に記された「双方向通信のスマートメーター普及時期」に間に合わせるより、もう少し遅くなっても良いからスマートコミュニティとしてあるべき通信インフラとの整合性を持たせた方が良いのではないか?
と、何度かブログの中で発言してきましたが、今回、スマートメーター検討会の最終報告書を読み、もう一度、考えをまとめてみました。

 

日本版スマートグリッドはこれでよいのか?

第1回スマートメーター制度検討会の議事録によると、冒頭、林座長が『10年後 20年後にこの制度検討会で決めたメーターに関する方向づけが正しい方向性だったと言われるような検討会を目指したい』と発言されています。
ところが、最終報告書44ページの「スマートメーターの満たすべき要件」によると、この制度検討会で得られた結論は

「機能」・・・遠隔検針(インターバル検針)、遠隔開閉

「情報」・・・取扱う情報は電力使用量、逆潮流値、時刻情報の3つ

電力使用量の粒度は 30分値
(ガスは使用量、時刻情報の2つ、粒度は1時間値)

「情報の提供先」・・・需要家及び電力会社等双方への電力等使用情報の提供

「情報提供のタイミング」・・・現時点においては原則翌日まで

となっており、伝え聞く海外のスマートメーターの使われ方と比べると、良く言えば地に足の着いた(悪く言えば、エネルギー基本計画にある「世界最先端の次世代型送配電ネットワーク」という表現とは程遠い)内容です。

なお、これらの要件は、いわばスマートメーターの初期機能であり、その時点の社会的ニーズ、技術進歩の状況等を踏まえ、必要に応じて最適なスマートメーターについては再度検討されるべきである

と付記されているものの、いわゆる「検満」のタイミングでスマートメーターへの付け替えを行っていくとすると、今すぐ(=2011年ももう半ばですね)スマートメーターの付け替えをやり始めても、全国展開が終わるのは2021年。
HANとのインターフェースの標準化を置き去りにした見切り発車の機能範囲で、果たして10年後の2021年に、「正しい方向だった」という評価が得られるかどうか、心もとない限りです。
また、例えば3年後にやっとスマートメーターとHANとのインターフェースが定まったとしても、その間に設置してしまったスマートメーターは、もう一度取り替えるのでしょうか?

 

スマートメーター制度検討会での論点と、報告書での結論

まず、第4回検討会で提示されている論点(資料8)に対して、最終報告書では、どのような結論になったのか、確認してみました。
下表は、その結果をまとめたものです。

表拡大

資料8では、論点を、大中小3段階に項目分けしていますが、ここでは「論点1:スマートメーター情報の取扱について」、「論点2:スマートメーターの普及について」、「論点3:スマートメーター導入に期待される効果」の下位の中小項目をフラットにナンバリングしています。

以下、論点の細目ごとに、最終報告書に見られる結論を文字色=緑で示し、該当する報告書の記述の章番号・章タイトルを文字色=赤、該当する記述部分を文字色=青で示し、感想を文字色=黒で補足しました。

論点1-1:メーター情報は誰がコントロールすべきか

⇒ 電力会社等

該当する報告書の記述:4.電力等使用情報の取扱

(1)電力等使用情報の取扱について
いわゆる需要家による情報の自己コントロールを確保するという基本的考え方に基づき、当該情報は電力会社等から需要家に対して適正に提供されるべきものであり、需要家が第三者への提供も含めその利用を行うことができるものである。
一方、電力会社等は需要家から了解を得ている範囲内において、電力等使用情報を管理し、自らの事業に利用することが可能である。
また、スマートメーターを通じて、どの程度の量の情報をどの程度の頻度・スピードで需要家が取得可能なのかについては、技術やコストとの兼ね合いもあり、需要家及び電力会社等双方のニーズも含めて検討されるものである。

難しい表現ですが、以下のように理解しました。
データを誰に使わせるかコントロール(=選択)する権利は需要家にあるけれども、スマートメーターで計測を行う電力会社等(電力会社やPPS)が需要家から了解を得ている範囲内で電力等使用情報を管理(=コントロール)する。同じく、電力会社等は、需要家から了解を得ている範囲内で電力等使用情報を管理し、自らの事業に利用することができる
すなわち、実質的なメーター情報管理は電力会社等ということになると理解しました。
なお、報告書の脚注42によると、需要家から了解を得ている範囲内とは、「個人情報保護法上の観点での需要家の了解のこと。プライバシーポリシーの公開等も含む。」となっていましたので、試に東京電力のホームページの「当社の個人情報の取扱いについて」を見てみました。
「2.個人情報の取得、利用について」の「取得した個人情報は、当社の業務を適切かつ円滑に運営するために必要な範囲内において利用いたします。」、「3.個人情報の安全性、正確性の確保について」の「当社は、個人情報の漏えい、滅失、き損または不正アクセス等を防止するために必要な措置を講じ、個人情報の適切な管理を行います。」が、該当箇所だと思われます。

論点1-2:提供情報

省エネ・省CO2、新産業の発展、コスト低減、メーター導入の時間軸等の観点から、計測・提供されるメーター情報はどのようなものが考えられるか。

⇒ 電力使用量、逆潮流値、時刻情報

該当する報告書の記述:4.電力等使用情報の取扱

(2)スマートメーターから提供される情報
メーターにより計測される電力使用量、太陽光発電の余剰買い取り分を示す逆潮流値、時刻情報のほか、電流、電圧、周波数及び停電情報等が考えられる。
このうち、電圧や周波数などは送配電系統において適正に管理されており、メーターを用いて計測する必要性は低いほか、電流については、保安上の観点から通電状況の確認に使用しており、正確な数値の計測を必要としていない。

提供情報に基づいた省エネ・省CO2、新産業の発展までを考えた場合、明らかにこれでは不足している気がします。
本当に新産業の発展までを視野に入れるなら、(もちろん需要家のパーミッションが得られればですが)家族構成(家族x人同居/単身等)や大まかな住所(東京都xx区等)情報などデモグラフィックデータを公開して欲しいものです。そうすれば、隣近所と比較した省エネ診断(例えば、ご近所の同じ家族構成の需要家と比べると、夏場の気温の上昇に対して、電力量の増加が激しいので、使っているエアコンを買い替えた方が良い等)が可能となります。そのようなデモグラフィックデータの開示を承諾した需要家には電気料金を割引きする代わりに、省エネ・省CO2の事業者からは、データ提供料を徴収することで、電力会社としても新たな収益が見込めるのではないでしょうか?

また、「電圧や周波数などは送配電系統において適正に管理されており、メーターを用いて計測する必要性は低い」とのことですが、多くの家庭からの太陽光発電の逆潮流が配電線になだれ込むと電圧上昇が起きるということが、太陽光発電の大量導入の課題として議論されていました。したがって、省エネコンサル会社から見ると、電圧や周波数というのも有益な情報ではないでしょうか?

昔の黒電話機と、いろいろなサービスが付いた多機能電話機のアナロジーを持ち出すのは、良いたとえかどうかわかりませんが、電力使用量、逆潮流値、時刻情報しか計測しない標準スマートメーターと、もっといろいろなサービスのできる多機能メーターがあってもよい気がします。

論点1-3:メーター情報の提供ルート

HEMSへの直接の情報提供と電力会社等の通信ネットワーク経由の情報提供とがあるが、どのように考えるべきか。

⇒ 結論出ず

該当する報告書の記述:4.電力等使用情報の取扱

(3)電力等使用情報の提供ルート及びタイミング
需要家が自らの電力等使用情報を取得する方法については、A:電力会社等の通信ネットワーク~Web 経由、B:メーターからの直接取得、C:第三者経由、の3通りが考えられる。いずれの方法においても、需要家が取得する電力等使用情報に差異はない。<途中省略>したがって、現在、一部電力会社等において Aルートによる需要家への情報提供が行われているが、引き続きこれを積極的に進めるとともに、即時性を追求する観点から、HAN側機器の技術動向も踏まえ、Bルートによる情報提供についても検討を行っていくことが重要である。


図の拡大

現実的なのは、電力会社経由のルートA、家電機器制御を考えるとルートBですが、事務局としては、海外で検討されているOpenADEに準拠したルートCに未練がある様子。
これも、黒電話機と多機能電話機のアナロジーで考えると、料金計算用の精密なメーター情報はAルート。標準のスマートメーターではこのルートしかないけれども、需要家が(計量法の検定を受けた)多機能スマートメーターを購入・設置した場合、例えば1分ごとに家庭内の各コンセントの使用電力量を集約してBルートでHEMSに知らせる-といったサービスが可能だと思います。

論点1-4:プライバシー、セキュリティーの確保

メーター情報を提供する際、需要家プライバシー保護等の観点から、講ずるべき対策は何か。

⇒ 結論出ず

該当する報告書の記述:6.プライバシー・セキュリティー

報告書では「(1)我が国における個人情報保護制度上の整理」、「(2)第三者提供に関する現行の個人情報保護制度上の整理」をしているだけで、結論は出ていません。
ただし、「米国におけるOpenADEの議論」が紹介されており、事務局としては、この方法が望ましいと考えているのではないかと思われます。

OpenADEは、気になったので、弊社ブログでご紹介しました。(その1その8

論点1-5:電力会社等のネットワーク

スマートメーター普及の観点から電力会社等の通信ネットワーク形成はどうあるべきか。

⇒ 当面、電力会社が整備してきた(配電制御用の)ネットワークをベースとして、ラストワンマイルには、携帯電話などの通信事業者の設備を活用する方向か?

該当する報告書の記述:5.通信について

(1)電力会社等の通信ネットワークの構築
②双方向通信が可能な世界最先端の次世代型送配電ネットワークの構築(当面目指す機能)
技術的実現可能性や社会的受容性等を踏まえると、当面(今後 10年程度)は、遠隔検針、遠隔開閉、電力等使用情報の提供といった狭義のスマートメーターの機能を実現可能とする双方向通信を目指すこととする。<途中省略> 双方向通信に向けた課題としては、電力系統と末端の需要家との通信インフラ(ラストワンマイル)の、スマートメーターの導入に合わせた早急な整備が必要不可欠であるとともに、通信インフラの整備の際は、電力会社がこれまで整備してきた既存の電力系統等における通信インフラの有効活用や通信事業者の設備の活用など社会的コストの最小化を図る必要がある。また、通信方式の選択の際は各電力会社が通信システムの拡張性・信頼性、地域性等を考慮して最適な通信方式を選択していく必要がある。

報告書にはっきり書かれていないのですが、ここから読み取れるのは、スマートメーター導入に係る社会的コストを最小化するために、電力会社の配電系統の制御に用いられている通信ネットワークを基本的に利用し、ラストワンマイルは必要に応じて携帯電話会社等通信事業者の設備を活用するということだと思います。

論点1-6:HEMSとのインターフェースの標準化

メーター情報の利用を可能とするため、HEMSとの通信インターフェースの標準化を進めるべきではないか。また、HAN(家庭内機器のネットワーク)の標準化と整合性を持って進めるべきではないか。

⇒ 本検討会の対象外

該当する報告書の記述:3.スマートメーターの機能

(2)HAN 側インターフェースの標準化
スマートメーター-HAN間のインターフェースについては、海外の様々なサービスの動向も踏まえつつ、標準化の動向、市場環境、ユーザーの設置環境、コスト、利便性などを考慮して選択することが望ましい。<途中省略>スマートメーター-HAN間のインターフェースについては、本検討会とは別の場において引き続き検討することとし、まずは、海外の様々なサービスの動向も踏まえつつ、提供されるデータフォーマットの統一に向けた検討を行うことが適当である。

スマートコミュニティの標準化の動きと歩調を合わせようとすると、ものごとが進まないということでこのような対応になったのかもしれません。しかし、スマートグリッドがスマートコミュニティに内包されるものであるとするならば、このような見切り発車が、後々スマートコミュニティ全体の社会インフラとしてみた場合、二重投資となってしまわないか危惧するところです。

論点2-1:メーターに求められる機能

メーターに求められる機能については、メーター導入の時間軸や、海外事例、および我が国の現状を踏まえたシンプルなものとすべきであるが、それは何か。

⇒ 当面(=今後10年程度)は遠隔検針(インターバル検針)、遠隔開閉、計測データの収集発信の機能を具備した狭義のスマートメーターの導入を図る

該当する報告書の記述:3.スマートメーターの機能

(1)我が国におけるスマートメーターに求められる機能
普及を目指すスマートメーターとして、将来の HEMS等のあり方によっては、広義のメーターも考えられる。広義のメーターのメリットとしては、HEMSを別途設置しなくとも、全ての需要家において、HAN の構成やそれによる需要家側の機器制御等が可能となること等が期待される。<途中省略> スマートメーターに求められる機能については、メーター導入の時間軸や、海外事例、および我が国の現状を踏まえたものとすべきであり、よって、当面は遠隔検針(インターバル検針)、遠隔開閉、計測データの収集発信の機能を具備した狭義のスマートメーターの導入を図ることが適当である。また、広義のスマートメーターについては、需要家側の機器制御の必要性、HEMSのニーズ等を踏まえて将来時点において改めて検討することが適当である。

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出典:第4回検討会資料7:世界のメーター市場の動向より

この図を見ると、日本も早くスマートメーター化しなければ。。。という気持ちはわかりますが、エネルギー基本計画で示された「メーター導入の時間軸」で全ての需要家にスマートメーターを導入するためには、スマートメーターの通信インフラとして電力会社の配電制御ネットワークおよび携帯電話など現在利用可能なラストワンマイルの通信サービスをベースにせざるを得ません。そうすると、通信帯域の余裕度から考えてスマートメーターでの計測は30分間隔で、一日1回計測したデータをまとめてホスト転送するしかありません。
将来あるべき日本型スマートグリッドの絵姿からではなく、このような形でスマートメーターの機能範囲が固まったのではないでしょうか。

論点2-2:メーターに求められるコストの低減

メーターコストの低減、更には国際競争力の観点から、メーターの標準化をいかに進めるべきか。

⇒ 標準化によるメーター本体のコスト低減には関しては断念した。スマートメーターとHAN間の標準化に関しても本検討会とは別の場での検討を示唆

該当する報告書の記述:8.スマートメーターの普及に向けた課題への対応

(4)コストの低減
スマートメーターの普及に向けて、既存のメーターの取組と同様、引き続き共通化・標準化等によるスマートメーターのコストダウンの取組を継続していく必要がある。
一般的に、製造物の開発に当たっては、コスト低減の観点から一体的な標準化が望ましい。ただし、電力メーターについては、現状において、設置スペース、気候制約による耐候要件等が電力会社各社により異なることから、電力各社及びメーターメーカーが共同で部品レベルでの標準化及び共通化等に取り組んでいる。 <途中省略>上記の取組以外に、HAN 側との通信に係る部品の標準化によるコスト低減が普及拡大の観点からも求められるが、それのみでは普及に十分なコスト低減の達成が難しい場合には、通信部分も含めたメーター全体の観点から標準化も含めたコスト低減の方法についても検証する必要がある。

図の拡大

出典:最終報告書8章(4)コスト削減より

という認識のもと、基本的には、スマートメーターになっても、(これまで通り)メーター本体の標準化はあきらめ、電力会社ごとにばらばらになっても仕方がないことを容認した模様です。事務局側としては、せめてHAN側の通信インターフェースは標準化したいという希望を持っていたようですが、本検討会では検討されていません。

論点2-3:制度上の課題

メーター本格導入に当たって、計量法等制度において支障となっている事項はあるか。

⇒ なし

該当する報告書の記述:なし

第7回検討会の議事要旨によると、「計量法における耐侯性等の規定」がこの回話題となっており、計量法の適用範囲は計量部のみで、通信部や開閉器は対象外であると確認されていますが、制度上の新たな課題などは指摘されていません。

論点2-4:費用負担の在り方

電力会社等にとってのメリット(海外との比較、時間軸)と、社会全体としての便益等を踏まえ、メーター導入に係る費用は誰がどのように負担すべきか。

⇒ 電力会社等?

該当する報告書の記述:なし

報告書の「8.スマートメーターの普及に向けた課題への対応」に「(6)費用負担の考え方」という箇所がありますが、記述内容は、スマートメーターにHAN側通信機が外付けされる場合の費用の負担について記載されたもので、メーター導入にかかる費用についての明確な記述は見当たりません。
第7回検討会資料3「スマートメーターの普及に係る論点等について」の「4-1.(メーター本体の)費用負担の在り方について」では、「諸外国におけるスマートメーター導入に係るコスト回収については、国・企業毎に異なっており、政府による導入の義務付けと併せて料金認可が行われる事例が多く見られる。これらは、スマートメーターを電力事業の業務効率化の観点から導入しているものであることから、料金による回収を基本としているものと考えられる。
とされており、これが事務局の考え方ではないかと思われます。
それに対して、第7回検討会の議事要旨を見ると、「費用負担について」の項で、電力会社出身の委員から、「スマートメーターの導入については、システム全体の効率化の観点から検討するもの。業務効率化の中でコストを吸収していきたい。需要家への転嫁はしない」との発言が記録されています。

論点2-5:普及のスピード

海外事例、我が国の現状、メーター関連技術の開発状況等を踏まえつつ、普及スピードをいかに考えるべきか。

⇒ エネルギー基本計画で示された導入完了目標時期に合わせることが大前提

該当する報告書の記述:1.スマートメーターに関するこれまでの議論

(3)我が国における取組
我が国においては、 2010年6月に改定されたエネルギー基本計画において、「費用対効果等を十分考慮しつつ、2020年代の可能な限り早い時期に、原則全ての需要家にスマートメーターの導入を目指す」ことが示された。

第1回検討会の議事録で、エネルギー基本計画にある「2020年代の可能な限り早い時期に、原則全ての需要家にスマートメーターの導入を目指す」ことが前提であることが確認されています。
報告書では、1章に上記の記述があるのみで、すべての回の議事録/議事要旨を見てみましたが、普及スピードに関するディスカッションの形跡は見当たりませんでした。

論点3:スマートメーター導入に期待される効果

電力会社等、需要家、産業などにどのような効果がもたらされるか。また、現時点で想定が困難な便益をどのように評価するか。

⇒ ①電力会社等の業務効率化、②提供されるエネルギー使用情報を活用した新しいサービスの創出による国民の生活の質の向上、③関連産業の創出による経済の活性化

該当する報告書の記述:2.スマートメーター導入に期待される効果

スマートメーターの導入により、電力会社等の業務効率化や、提供されるエネルギー使用情報を活用した新しいサービスの創出による国民の生活の質の向上、さらには関連産業の創出による経済の活性化(グリーンイノベーション)等も期待されている。<途中省略>当該情報活用のあり方については、現時点で固定的に考えるのではなく、むしろ情報が提供されることで、実際に情報を活用する需要家自身やサービス事業者等を中心に、様々な取組や実務的な検討が進められることにより、大きく発展していくことが期待される。

と大きな期待が寄せられていますが、当面は①の電力会社が業務効率化の一環で推し進められる範囲までで、公開される情報の種類も貧弱であるため②は限定的、③に関しては、新たなビジネスモデルを生み出す余地はほとんどないといってよいのではないかと思います。

 

スマートメーター制度検討会報告書について思うこと

A) エネルギー基本計画法の呪縛

報告書内容を見ると、どうしても、一般家庭全戸にスマートメーターを配備完了する時期から逆算して、スマートメーターの仕様が決定された感じがします。しかし、エネルギー基本計画にあるスマートメーターの導入完了時期を優先するより、日本型スマートグリッドがいかにあるべきかを優先し、そのためにはスマートメーターの仕様はどうすればよいかと考えるべきではないでしょうか?

B) スマートグリッドのためのスマートメーター/電力量計測への固執

第1回検討会の資料4-1の10ページで、「都市ガス・LPガス・水道業界との共通化を視野に入れたユビキタスメータリングシステム(仮称)の開発が進められている」ことが報告されているにも関わらず、本検討会では、電気・ガス・水道共通インフラを検討するのではなく、独自のメータリングシステムを考えようとしています。
更に、HAN側インターフェースなどを検討対象外とし、スマートグリッド・インフラの単体構築を目指しているように見受けられますが、本来は、スマートメーターの通信インフラは、スマートコミュニティ用インフラの一部と考えるべきではないでしょうか?

C) すべて自前主義

第6回スマートメーター制度検討会のNTTプレゼン資料を見ると、スマートメーター情報の活用のための情報ネットワークに求められる基本要件が十分認識されており、ネットワークの品質・信頼性、セキュリティー、拡張性など、懸念事項があるならば、なおさら、「餅は餅屋」ということで、その部分は通信事業者に任せた方が良いのではないでしょうか?

D)複数タイプのスマートメーターを想定しても良いのでは?

スマートメーター導入の効用として、新産業の創出が認識されているものの、最終報告書に規定されたメーター機能/情報のみでは、新たなビジネスなど生まれそうにありません。計測主体が電力会社でなければ、スマートメーターの種類/電力計測サービスの種類を最初から1種類に決めてしまう必要はないと思います。

E)メーターデータ提供ルートも、1つに絞る必要はないのでは?

ルートAでのデータは、電力会社が料金計算に使用、ルートBでのデータはHEMSが省エネのための家電機器制御に使用、ルートCでのデータでは、OpenADE経由で省エネコンサル会社が、個人情報をマスクオフした地域全体のエネルギー利用情報を基にした省エネサービスに利用するといったことが考えられるので、どれか1つに絞る必要はないと思います。

実現時期から逆算して実現可能性を最優先するのではなく、第1回検討会での林座長の言葉通り、後世に恥ずかしくないスマートメーターの在り方をまず検討すべきだと思います。

日本版スマートグリッド/スマートメーター実展開に関する提案

A)エネルギー基本計画を見直しに際して、「2020年のなるべく早い時期」というスマートメーター導入完了時期をずらすか、完了時期を削除する

B)スマートメーターの通信インフラとして、電力会社の通信インフラを流用するのではなく、スマートコミュニティの様々なデータ授受で共用できるハイスピードの通信インフラを目指す

C)HEMS連動や、通信上のプライバシー・セキュリティーに関しては、OpenADE、SEP2.0といった標準の適用も検討し、かつ、通信ネットワークは専門の通信事業者に任せた方が良い

D) 電話機同様、今回の機能範囲の基本的なスマートメーターの他に、多機能スマートメーターを用意し、需要家がどのようなサービスを希望するかで、好きなタイプのメーターを購入できるようにする。
例えば、5分間隔で計測値を収集する多機能スマートメーターも用意して、需要家に選んでもらう。通信事業者は、そのような高機能メーターで収集したデータを基にして、電力会社が30分間隔の計測値しか必要ないのなら、30分ごとに計測値を集約して翌日まとめて提供し、PPSや、一般家庭向けESCO事業者には5分間隔での計測値をリアルタイムで(あるいは翌日)提供する。
また、スマートメーターのメーカーは、多機能スマートメーターとして、通信事業者を通さず、近距離無線で家庭/ビル内のHEMS/BEMSに、コンセント/部屋ごとの計測値を1分間隔で提供するといったことが可能になると思います。

将来「結局、スマートコミュニティの通信インフラへスマートメーター経由のデータ授受を載せ替えることになったが、スマートメーター制度検討委員会の報告書のおかげですでに設置したスマートメーターを取り替えざるを得ず、全く無駄なことにお金を使ってしまった」というような悔いが残らないよう、インターフェースの標準化も含めてよく検討した上で、スマートメーターの仕様/通信インフラを決定していただきたいと思います。

逆に、一般家庭でも電力使用量の「見える化」が大事だと考えるなら、今考えている限定された機能のスマートメーター+通信インフラを導入しなくても、各家庭にスタンドアローンで稼働する「省エネナビ」を配れば、機能的には十分で、かつ、導入費用はずっと安上がりではないでしょうか?

終わり