本来、どう考えるべきなのか?

© Copyright Roger Cornfoot and licensed for reuse under this Creative Commons Licence.

• 米国のスマートグリッド実証実験に暗雲:コロラド州のスマートグリッドシティ崩壊!

• デマンドレスポンス:潜んでいる危険(と、単純な業界全体の解決策)

• 電気自動車に関する6つの嘘?

• NVエナジーのHEMS連動デマンドレスポンス・プログラム

と、これまでSmartGridNews.comの気になったニュースをご紹介してきましたが、先月末(7月27日)、無視できない記事が届きました。それが今回のタイトル『Why demand response is the wrong idea ( and how we should think instead) 』というWarren Causey氏の主張の紹介記事です。
今回は、その内容と、それに対する読者の反応をいくつかご紹介します。

例によって、全訳ではないことと、独自の解釈および補足/蛇足が混じっていることをご承知おきください。

では、はじめます。

なぜデマンドレスポンスは誤った考えなのか?
本来、どう考えるべきなのか?

 SmartGridNews.com編集長:Jesse Berst氏による紹介

Warren Causey氏は、著名な研究者、作家であるとともに、90年代の初めから公益事業の業界コンサルタントでもあった。以前、Energy Centralの調査部門であるSierra Energyや、Five Point Partnersの副社長を務めていたが、現在は、Warren B. Causey, Ltdというリサーチ会社を起こし、毎週業界向けの有料ニュースレターを発行している。

同氏は、近年「ピーク需要抑制のためにピーク時間帯の電気料金を引き上げるデマンドレスポンスの考え方は間違っているのではないか」という主張を展開しており、その内容が(本人のものではなく、知人の記事として)ニュースレターで紹介された。

• 本来、電気料金をもっと安くし、一日中いつでも使いたいだけ電気が使えるよう努力するべきだ。

• 太陽電池、燃料電池やエネルギー貯蔵技術でブレークスルーが起これば、電気代は今よりずっと安くなり、すべての人にとって使いきれないようになる(いつの日か)。

• 我々は、ピーク時間帯に電力使用を制限するような技術開発に注力するより、もっと良い目標に向かって努力すべきではないか?

これが、ニュースレターで紹介されている同氏の主張の概要だが、許可を得て、件のニュースレターの抜粋を以下に掲載する。

 Warren Causey氏のニュースレター

私の友人でMilsoft Utility Solutions社事業開発部門副社長のSteven Collier氏は、エネルギーおよび環境問題に関する意見の投稿サイトtheenergycollective.comに「’Energy rationing’ ≠ a smart grid」という記事を投稿している。彼は、その記事の中で、私がスマートグリッド/デマンドレスポンスに対して抱いている疑念を見事に代弁してくれている。以下(文字色=青の部分)は、その投稿記事の内容である。

 論点1:

Causey氏の主張を私なりに理解し、言い換えると、次のとおりです。
『なぜ、我々は、今、デマンドレスポンスなどという、使い勝手が悪く、消費者に不便を強いるようなものに注目しているのだろうか?
この国(米国)において、我々の生活の質およびビジネスの生産性が飛躍的に改善したのは、合理的な価格で電気が供給されてきたからではなかったか?
それなのに、デマンドレスポンスと称して、わざと不当に高い電力価格を設定して消費にエネルギーを使わせないよう仕向けるのは、果たして正しい方向なのか?』

 論点2:

Collier氏は、更に、テキサス州オースチンで進行中のスマートグリッド・プロジェクト Pecan Street Projectの 事務局長Brewster McCracken氏の話も、その記事の中で引用している。
ある日、McCracken氏は講演会で聴衆に尋ねたそうです。
『みなさん、スマートグリッドをつぶす秘密の計画があるのをご存知ですか?
その計画は、2段階で構成されています。
最初に、皆さんが一番電気を使いたいピーク時に電気を使用しないように仕向けます。
それでも、ピーク時間帯に電気を使い続けるような消費者は、(ピーク時間帯の電気料金を高くすることで)、破産させてしまうのです。』

これら2つの論点は、私(Causey氏)のスマートグリッド/デマンドレスポンスに対する考えを非常にうまく要約してくれている。
先進技術によってグリッドを賢くすること自体は素晴らしいことだし、消費者がエネルギーの使用法に関して賢明な選択を行えるように教育・啓蒙活動を行うことに対して異論はない。ただ、今や、電気は我々の日常の活動に欠かせないものであり(米国では)いつでもどこでも低価格で提供されてきたものなのに、「スマートグリッド/デマンドレスポンス」と呼ばれるものが、消費者の電気料金を押し上げ、McCracken 氏の過激な表現にあったように、私たちを「破産に至らしめる」可能性のあるものだとしたら、どこかおかしい。一日の中で最も暑い時間帯、消費者が最もクーラーを効かせたい時間帯の電気料金を高く設定するということに関して、私には意味がわからない。その代わりに、Collier氏が以下で提案していることを実行すべきではないだろうか?

電力会社は、「グリッドがもはや消費者が使いたい時に使いたいだけ電気を供給することができなくなったことに対して消費者自身が責任ある行動をとろう」というような啓蒙活動をする暇があったら、もっと消費者にやさしく、電気を安く提供できるよう努力すべきではないでしょうか?

 ニュースレターに対する読者の反応

以下は、このニュースレターに対するいくつかの読者のコメントです。

 DRに勝る方法があるかもしれない
NextWatt Solutionsパートナー John Cooper
07/27/2012 – 06:49

1995年1月、私は、とある民間電力会社で新米の規制制度対応コンサルタントとして働きだしました。その頃、同僚が話すDSM(デマンドサイド・マネジメント、今デマンドレスポンスと呼ばれているもの)は、無数のビジネス公理を頭に詰め込んだばかりの新米MBAだった私にとって、全く不可解極まりないものでした。

電力会社は電気を売って利益を得る。それなのに、規制機関は、一番需要が高い時(ピーク時間帯)に電気を売るなと言っている。電力会社の収益を減らしてしまうのに。百歩譲って、電力会社は規制機関の言うことに従ったとしても、消費者は、一番電気を使いたい時に電気の使用量を減らすことを望むのだろうか?
先輩がピーク・エネルギー価格の考え方を説明してくれるのを聞いていた時、私の頭の中は混乱を極めていました。

やがて時間が経ち、電力会社の仕組みがわかるようになって、私の頭の中の霧も晴れ、DRの論理的な根拠も理解しました。すなわち、年間数十時間のピーク需要に合わせて発電設備容量を確保するのは電力会社に大きなコスト負担を強いている。もし、ピーク需要を縮小できれば、電力会社は発電所建設のための初期投資ばかりでなく、運転費用も圧縮することができる-ということなので、規制機関もピーク需要削減を主張していた訳です。

そして、電力会社は、AMI、MDM、電子請求、TOU料金、更にDRプログラムに挑戦し、一定の成果を上げてきましたが、ここ数年、私は更にやっかいな問題に気づきました。それは、価格弾力性という根本的な問題です。
TOU料金におけるピーク価格とオフピーク価格の差額が、消費者が本来使いたい電気の使用を阻止するのに十分かどうか?特に仕事場から帰宅して、いろいろな家電機器を使い始めた時に、その時間帯の電気料金が高いからと言って、例えばIHクッキングヒーターでの夕飯の支度を午後10時まで待つでしょうか?そう考えると、DRというのは、本当に最善の方法なのか?との疑問が生じてきたのです。

2009年アメリカ再生・再投資法(American Recovery and Reinvestment Act of 2009:ARRA)によるスマートグリッド関連の助成金や米国エネルギー省(DOE)が後援するスマートグリッド関連のプログラムの興奮から冷めやった今、私は、非常に良くできたTOU料金やDRプログラムの設計がどれくらい大変か、電力会社は一連のAMI等の導入・試行経験から思い知らされたのではないかと思います。
消費者のピーク需要低減を成功させる唯一の方法は、実は、小手先で価格を調整することではなく、消費者を顧客としてではなくパートナーとして取り込み、様々なプログラムについて、その意図・必要性をじっくり話し合い、理解を得ることだと思います。
そのプログラムの中には、TOU料金ばかりでなく、プリペイド方式や従来の定額料金を含め、更にグリーン電力や、高品質電力といった新たなエネルギーサービスから、破格の高額CPP設定のワイルドな電気料金制、更には、消費者のエネルギー自給自足を基本とする分散電源まで、ピーク需要削減に関連する要素をちりばめた様々なプログラムを消費者に提示し、納得できるものを選んでもらうのが良いのではないかと考えます。

結論 : ピーク需要削減のために消費者の振る舞いを変えたければ、電力会社はマーケティング会社のように考え、行動する必要があるのではないでしょうか?DRというのはピーク需要削減の手段であり、電力会社が実現すべき目標そのものではありません。結果として、今日われわれが目指しているDRとは違った姿が実現するかもしれませんが、それはそれで良しとすべきだと考えます。

 電力の使用法とDR
  Joe Huber 07/27/2012 08:52

Warren Causey氏の主張は、良いところをついていると思いますが、ニュースレターで引用されている誇張された表現が、かえって主張内容の正当性を台無しにしているところが残念です。

消費者に(電気代を通じて)実際の発電コストを認識してもらうのは重要なことで、AMIを導入してTOUの料金制度を導入するのは、その大きな第一歩と考えて良いでしょう。今日、電力会社が推進しているDRには、基本的に欠陥があると思っていますが、HEMS側に消費者が一度電力の使用に関するポリシー(生活の快適性を優先させるか、節電による電気代の節約を優先させるか等)を覚えさせ、電力会社側から通知される系統の状況に応じた電力価格のDRシグナルに応じてHEMSが家電機器を制御する方式には将来性があるのではないでしょうか?

ところで、話は変わりますが、Bob Metcalf氏は、Enernetと呼ぶ彼のビジョンについて語っています。それは、通信ネットワークの世界でこの25年間に起こったようなことが電力網にも起きたら、将来の電力網はどのような発展を遂げるかというものです。エネルギーは、有り余るほど豊富で、安くなるでしょう。新しい電気の利用法が出現し、生活の質も著しく向上するでしょう。特にこれまで貧困だった地域で。興味がある方は、ここで彼の素晴らしいプレゼンのビデオを見てください:
http://inphobe.blogspot.com/2009/10/enernet-bob-metcalf.html

省エネというのは、現時点での重要なキーワードではありますが、我々の長期的な目標は、Warren氏の言うとおり、豊富なエネルギー供給の実現に設定すべきです。

ちなみに、私個人の取り組みを紹介しましょう。自宅では、照明とエアコンを省エネ型のものに買い替えるとともに、屋根に太陽光パネルを設置したので、年間を通してみると、エネルギーの自給自足を達成しています。したがって、私の妻は、暑いときにエアコンのスイッチを入れることに何の罪悪感を持つ必要もありません。

私たちは、省エネとエネルギー供給改善の両方に取り組む必要がありますが、ニュースレターにあった『DRに協力しなければ破産させる』というような脅し戦術を使うべきではないと思います。

他にも読者からの意見が寄せられていましたが、自分の心に響いたものだけを御紹介していますので、どのような意見が寄せられているか興味をお持ちの方は、原文をご覧ください。

この記事を読んでの感想ですが、1つは実現時期の問題ではないかと思いました。

理想的な絵姿を描いて、何年先になるかわからないけれども、その実現に向かって何かを実行することと、喫緊の課題があって、待ったなしの対応を迫られている場合に行うことでは、方向性が異なっていても仕方がないのではないでしょうか?

Causey氏の指摘は正論ではあるけれども、電気代が今よりずっと安くなりすべての人にとって使いきれなくなるような技術的ブレークスルーが起きるまで何年かかるのか?

⇒ それまで現状の発電設備と電力系統で大丈夫なのか?

⇒ 大丈夫ではない場合、これから新規に発電所を建設したり、系統を増強したりして間に合うのか?

⇒ 間に合わないとしたら、他に何か打つ手はないのか?

というところから、発電所(メガワット)の代わりに需要削減(ネガワット)という流れが出てきたのだとすると、一見、これまでの米国繁栄のシナリオとは反対方向かもしれませんが、それもまた正しい選択だと思われます。
日本でも、以前はあまりデマンドレスポンスに注目が集まっていませんでしたが、3.11以降急に脚光を浴びているのは、DR自体にそのような性格(理想像ではないけれども、現実的な電力需給バランスを保つための方法)が備わっているからではないでしょうか?

これが、Warren Causey氏のニュースレター記事そのものに対して抱いた最初の感想です。

次に、同氏が指摘した(いつの日か)電気代は今よりずっと安くなり、すべての人にとって使いきれないようになるという指摘で連想したことがあります。

自分がコンピューター業界で働きだしたころは、今のようにパソコンなどという代物はなく、いわゆる「超大型コンピューター」が幅を利かせていました。コンピューティング性能は、今のパソコンクラスだと思いますが、その1台のコンピューターシステムに何十台ものダム端末を接続して(当時Time Sharing System:TSSと呼ばれていましたが)みんなで限られたコンピューティングパワーをシェアしていました。それが、今、このブログ原稿を作るのに使っている自宅のパソコンはIntel Core i7プロセッサーで動いているので、Windowsのタスクマネージャを見るとCPUが8個あるように見えます。そのうち半分のCPU使用率は0%、動いている4つのCPUの使用率は最大でも25%以下。コンピューティングパワーは一足先に、非常に安く、すべての人にとって使いきれないようになってしまっています。そして、TSSという言葉も一般的には、いつの間にか聞かなくなってしまいました(仮想マシンの世界で生き残っているようですが)。
デマンドレスポンスも、「足りない」ことを前提とした利用技術であり、将来的には消滅する運命にあるのだということを(再)認識しました。

その意味で、やがて消滅するような技術開発に血道をあげるのではなく、「もっと良い目標に向かって努力すべき」というCausey氏の指摘はもっともであるとは思います。

政府、エネルギー業界、およびICT業界は、このようなDRの位置づけを正しく理解した上で、将来にわたっての投資対効果を見据えて、それに見合った対応をしていただきたいと思います。

これに関連して、ブログでは今までに以下のような提言を行ってきました:

 スマートメーターを導入すること自体が主目的であるようなスマートメーター化を急いでいないか? ←固まってきた?日本版スマートグリッドの中身-その3

 米国と同じくピーク削減にデマンドレスポンスを利用するのだとすれば、一般家庭ではなく、オフィスおよび卸・小売店部門の空調と照明の電力消費を削減すべきではないか? ←第11回スマートメーター制度検討会について思うこと(後書き部分)

新たなシステム化投資=0でのピーク需要削減策として、非現実的かもしれないが、スペインのシエスタのような制度を取り入れて、クリティカルピークが予想される日は、13~16時の時間帯を昼休みとし、オフィスおよび卸・小売店の照明・空調を最低限に抑えることを、政府・経済界などの間で合意できないか? ←第11回スマートメーター制度検討会について思うこと(後書き部分)

 (東京電力のスマートメーター通信仕様へのパブリックコメントとして)高出力1:N無線方式として、FM放送の空き帯域を利用すれば、通信インフラに関するハードウェア的な追加投資なしにピーク需要抑制信号の配信が可能となる。当面のピーク需要対策として、中途半端な機能のスマートメーターを拙速に一般家庭全戸に導入・設置するより、当面はピーク需要削減に協力できるすべての大口ユーザにFM放送によるピーク需要削減信号に反応する装置を付ければよいのではないか。 ←機能を限定したスマートメーターの拙速な導入は、結果的に電力料金の無駄遣い以外の何物でもない。(添付EXCELファイル)

今回は、以上です。

終わり