Blobs of rain, Learden Lower

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このブログでは、一旦トランザクティブエネルギー(Transactive Energy:TE)を取り上げながら、前回、前々回、「DRがどこへ向かうのか」シリーズの補足を行いました。DRがこれから進む方向を考えた場合に、単に用途、および技術的な方向性を考えるばかりでなく、米国での政策面での方向性を見ておく必要があると思ったからです。
この、前2回のブログの内容を含め、今週(2013年6月23日)電気学会の需要側対策ワーキンググループ(正式名称:安全・安心社会の電気エネルギーセキュリティ特別調査委員会-再生可能エネルギー大量導入に向けたデマンドレスポンスと需要側対策技術作業部会)で、「デマンドレスポンスはどこへ向かうのか?」と題して講演をさせていただきました。当日使用したプレゼン資料を、弊社ホームページの「調査実績」No.32として登録しましたので、ご興味のある方は、ダウンロードしてご覧いただければ幸いです。

さて、今回はトランザクティブエネルギーの話題に戻って、TheEnergyCollective.comの記事「Transactive Energy: American Perspectives on Grid Transformations」をご紹介します。
例によって、全訳ではなく、超訳になっていることはご承知おきください。 では、はじめます。

米国が考える電力系統の将来の姿:トランザクティブエネルギー

2013年9月17日
The Energy Collective
Christine Hertzog

米国では多くのスマートグリッドの実証試験が進行中である。その大半は、2009年の米国再生•再投資法(ARRA)の資金を利用したものだが、それ以前にスマートグリッドに相当する実証実験を開始していた電力会社がある。
太平洋岸北西部のアイダホ、オレゴン、ワシントン、西部モンタナ州全域および、東部モンタナ、カリフォルニア、ネバダ、ユタ、ワイオミング州の一部に電力供給を行っているボンネビル電力公社(Bonneville Power Administration:BPA)は、そのような先見性のある電力会社の1つである。連邦政府が経営する非営利団体であるため、電力卸売りと送電サービスから得られた収益を事業運営の他に、系統運営のR&Dに投じてきた。
そして、BPAは、今やトランザクティブエネルギー(Transactive Energy:TE)と呼ばれる概念の積極的な支持者となっている。

BPAの最高技術革新責任者であるTerry Oliver氏はTEという、電力業界の全体構造にかかわる非常に重要な実証試験の概要を、以下のように説明している。

BPAは、太平洋岸北西部スマートグリッド実証プロジェクト(Pacific Northwest Smart Grid Demonstration Project)と呼ばれる、この地域全体の実証実験に参加しました。2012年10月下旬に始まったこの実証プロジェクトには、BPAを含む11の電力会社が参加しています。したがって、我々が行ったのは、この実証プロジェクトの一部ですが、発・送・配電のみでなく、消費者までを巻き込んだ、非常に重要な実証試験でした。将来、系統に電力を供給するエネルギーミックスにおいて、供給量を自由に制御できない再生可能エネルギーの締める割合が大幅に増えるとともに、需要側ではデマンドレスポンス、ダイナミック・プライシングが深く浸透した状況で、如何に需給バランスをとれば良いかという、TEの非常に重要な側面に関する実証試験だったからです。
系統の送電容量には限りがあるので、風力発電設備から大量の電気が系統に流れ込むと送電混雑が発生します。そこで、
• この地域にある豊富な水力発電を利用することで、その送電混雑を回避できないか?
• エネルギー貯蔵装置やスマート家電が、配電系統レベル、あるいは、更に狭い範囲の系統レベルでの信頼性・弾力性向上のためにどのような役割を果たすことができるか?
これが、プロジェクトの目的でした。

TEは、技術投資、技術改良以上のものです。電力会社、消費者その他のステークホルダーにとっての市場およびビジネスモデルを根底から転換させるものになると考えます。
Newport Consulting社の常務取締役でカリフォルニア工科大学 Resnick Sustainability Instituteの客員教授を務めるPaul De Martini氏は、TEに関して以下のように述べています。

米国には、TEを推進し電力ビジネスを大きく変革する4つの促進要因がある。
1)従来の消費者は、電気のプロシューマー(Producer & Consumer : Prosumer)へ変貌し、従来の電力会社にとっての「顧客」とは異なる期待と振舞いを持つようになってきた。
2)連邦政府、州政府だけでなく、地方自治体でも電力供給における再生可能エネルギー活用に力を入れるようになり、その結果、地方公益事業者の配電網にも影響が及んでいる。
3)各地でカリフォルニア州が導入した省エネ標準や建築基準法などが採用されつつある。
4)発電技術と情報通信技術の融合が、従来の電力系統管理技術を塗り替える新たな選択肢を提示している。

ただし、この、電力系統の新たな姿への変身を完成させるには、多くの問題を解決する必要がある。まず、現在の電力ビジネスモデルは、電気を作る人から電気を使う人への一方通行しか考えられていないため、従来の消費者がプロシューマーとなるために必要な双方向取引実現の妨げとなっている。プロシューマーという新たな市場参加者を実現させるためには、このビジネスモデルの変更が不可欠である。そのためには、透明性の高い価格決定と、規則基づいた清算の仕組みが必要となる。
例えば、ピーク負荷削減のためのDRプログラムや、リアルタイムに需給バランスを保つためのアンシラリーサービスは、今以上に重要な価値を帯びるようになるだろう。正しい市場と正しいビジネスモデルによって、これらの真の価値が実現される。
次に、このような変貌の実現には、技術投資、市場アクセス、従来の消費者が新たな電力ビジネスモデルに参画する際の障害を取り除くため、規制当局も「変身」が必要である。

今回は以上です。

これに関連して、2013年European Utility Weekで発表されたプレゼン資料がありますので、以下のURLでご覧ください。

Case Study: US Pacific Northwest Demo Project

最後に、Smart Grid Dictionary第5版に掲載されているトランザクティブエネルギーの定義をご紹介しておきます。

A software-defined grid managed via market-based incentives to ensure grid reliability and resiliency. This is done with software applications that use economic signals and operational information to coordinate and manage devices’ production and/or consumption of electricity in the grid. Transactive energy describes the convergence of technologies, policies, and financial drivers in an active prosumer market-where prosumers are buildings, EVs, microgrids, VPPs or other assets.

翻訳すると、こんな感じでしょうか?

トランザクティブエネルギーとは、ビル、電気自動車、マイクログリッド、VPP(仮想発電所)その他の資源からなるアクティブなプロシューマー市場向けに技術、政策、金融分野のノウハウを結集し、市場原理をうまく利用して系統の信頼性・弾力性維持を図るため、ソフトウェアで定義された系統運用の仕組みである。具体的には、価格シグナル等の経済情報を用いて系統内のデバイスの電力供給と消費の協調・管理を行うソフトウエア・アプリケーションにより実現される。

終わり