Farmland off Wigsley Road

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前回は、TE(トランザクティブエネルギー)と同じく、将来の電力流通に関する構想がまとめられた書物「デジタルグリッド」の読書感想文を掲載させていただきました。その第4部「エネルギー主体の経済」では、一旦、デジタルグリッドの技術的な観点から離れて、経済面から見た電力ビジネスの未来像が語られ、デジタルグリッドとブロックチェーン技術の親和性についても語られていましたが、あいにく、ブロックチェーン技術に関しては勉強不足のため、第4部は消化不良のまま残っていました。 今回は、NEMA(National Electrical Manufacturers Association:アメリカ電機工業会)の定期刊行物「electroindustry」1月号(January 2017, vol.22 No.1)がブロックチェーンに関する記事(Demystifying Blockchain: How It Will Grow Demand for Distributed Energy Resources)を掲載しているのを見つけましたので、その内容をご紹介しようと思います。例によって、全訳ではないことと、独自の解釈および補足/蛇足/推測が混じっているかもしれないことをご承知おきください。 では、はじめます。

最近、ブロックチェーン技術がエネルギーの取引、特に分散エネルギー資源(Distributed Energy Resources:DER)の取引に有効だというような話を耳にしたことがないでしょうか? ただ、ビットコイン利用者でもない限り、ブロックチェーンとは何か、あるいは、言葉は聞いたことがあっても、それが電力系統とどう結びつくのか、皆目見当がつかなかったのではないでしょうか?
実は、私もそうでした。
ここでは、ブロックチェーンとは何か?それが、太陽光発電のようなDERばかりでなく、マイクログリッド、エネルギー貯蔵装置、電気自動車、デマンドレスポンスその他の技術の普及にどのようにかかわるのかについてお話ししようと思います。

ブロックチェーンを一言で表すと、取引データを確実に記録するための方法を提供するテクノロジーということができます。例えば、ジェニーが自宅の太陽光発電装置で発電した100kWhの電力を2017年1月3日の午後1時46分にハワードに$10で売ったとしましょう。そのような電力取引情報は、従来だとクラウド側のデータサーバで一元管理されたことでしょう。ところが、ブロックチェーンでは、ネットワーク上に分散配置された複数のコンピュータにそのようなデータが保持されるので、ハッカーは、ある1つの取引について内容を改ざんしようとしても、「あるデータベースサーバのレコードを1件改ざんすれば事足りる」という訳にはいきません。ブロックチェーン・ネットワーク上の、場合によっては何千ものコンピュータのどことどこに該当するブロックがあるのか突き止め、しかも、それぞれのコンピュータ上の改ざんしようとした取引データを保持する情報ブロックにつながる(=チェーンされている)それ以降のブロックに含まれる改ざん防止情報をすべて元のブロックの改ざん内容に基づいて変更していかなければなりません。1つでもおかしいものが見つかると改ざんがばれてしまうという、ハッカー泣かせの仕組みとなっているのです。

ところで、このブロックチェーン技術がエネルギー業界にどのような恩恵をもたらしてくれる可能性があるのでしょうか?
米国では、現在すでに100万件以上太陽光発電設備があり、2年以内に2倍になると予想されています。これらの太陽光発電設備のオーナーは、自家消費できない電気を売りたいと思う訳ですが、その場合、現状では、電力会社に買い取ってもらうしかありません。しかし、ブロックチェーン技術を使えば、一般家庭の太陽光発電の余剰電力を誰にでも売ることができるようになるのです。 これは、夢物語ではなく、シーメンスとLO3 Energy社は、ブロックチェーン技術をベースとした電力小売取引が可能なマイクログリッドの実証実験をニューヨーク州ブルックリンで実施することをつい最近発表しています。この実証実験では、eBayで商品を購入するのと同じくらい簡単に隣人同士で電気の売買ができるでしょう。

いかがでしょうか?

ブロックチェーン技術に関しては、電力ビジネスとはあまり関係がなさそうだと思われていた方が多いのではないかと思うのですが、電力小売取引への応用の実証が始まっているという話題でした。 米国調査会社ナビガントリサーチ(Navigant Research)の調査レポート「ブロックチェーン対応の分散エネルギートレーディング」でも、P2Pトレーディングの促進要因の分析を行ない、トランザクティブエネルギーをサポートするためにブロックチェーンがなぜ魅力的な選択肢であるのかについて述べられているようで、無視し続けるわけにはいかないようです。

なお、今回も絵の少ない記事になってしまいましたので、ブロックチェーンを理解する上で参考にさせていただいた後藤あつし氏のビットコインニュース「ブロックチェーンとは結局何なのか」ビジネスパーソン向けに徹底解説&ブロックチェーンの衝撃・金融サービスへの応用補足説明』の絵を再掲させていただきます。

終わり