Isle of Man Railway, Port Soderick

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前回は、PJMが2017年6月末公開したペーパー「Demand Response Strategy」の冒頭Executive SummaryをベースとしてPJMが今後DRをどのようにしようとしているのかの概要をご紹介しました。 今回は、同ペーパーのDemand Response Backgroundあたりをご紹介します。

DRの歴史を振り返る

卸売・小売電力市場でのDRに関するこれまでの経緯を理解することは大変重要である。 DRは、連邦政府機関、小売規制当局、配電会社(EDC)、小売事業者(LSE)など、さまざまな組織・企業によって育成されてきた。卸売市場におけるDRの進路を決定するには、小売顧客のDR資源の性格・機能を特定し、それを有効利用するさまざまなチャネルが存在するという認識が必要である。

卸売市場のDR

卸売市場へのDRの参加の仕方は、垂直統合型電力会社がリソース計画の一環で使用しだしてから、PJMの系統運用者の卸売市場で現在使われているようなCSPモデルに至るまで長年にわたって進化を遂げてきた。現在のCSPモデルの下で、DRは同期予備力(synchronized reserve)や、前日計画予備力 DASR(Day ahead scheduling reserve)、周波数調整力(Regulation)を提供する資源として、PJMのエネルギー市場およびアンシラリーサービス市場に参加している。DRに関してCSPが得る収益は、PJMが信頼性価格モデル(RPM)を導入し、CSPのビジネスモデルが確立していく過程で劇的に増加した。特に容量(Capacity)が顕著であった(図1参照)。
※ ここで、CSPがCapacityの提供で得る収益には、容量市場価格(kW価格)と、それに基づいたDR資源調達価格(kWh価格)が含まれている。

図1. 卸売市場における年間のDRレベニュー

DRは3つの形でPJMの市場に参加することができる:

(1)緊急時対応DR(Emergency Load Response Program)として

系統に緊急事態が発生した場合に備えて、工場の機械を停止するなどして、負荷を確実に特定のレベルに制限することができる需要家は、緊急時対応DRを提供する形で参加することができる。その場合、そのようなDR資源提供に関するkW価値への対価とともに、実際にPJMが負荷を軽減するよう要求した場合のエネルギー収入(kWh価値)も得ることができる。

(2)経済的DR(Economic Load Response Program)として

PJMは、DRに対してもエネルギー市場の門戸を開いており、通常電源と入札価格競争した結果、経済的ならば、DR資源が採用される。

(3)緊急時対応DRと経済的DR両方に資源提供するものとして

この場合、緊急事態が発生しなければ、経済的DRとして取り扱われる。

2015/16年度向けに、PJMのRPMオークションと自己保有または相対契約(Fixed Resource Requirement:FRR)を合わせて、約11GWのDR資源が確定したが、そのうち、(3)に相当するものが約2GW、(1)に相当するものが1.3GW、都合 3.4GW近くの経済的DRのうち、560MWのみが同期予備力に、周波数調整力としての利用には20MWのみが認められた。
どうして、経済的DRすべてが同期予備職や周波数調整力にならないのか?それは、同じ経済的DRに分類されていても、図2と図3に示した通り、さまざまなエンドユーザから様々な手段でDR資源が提供される、その中には、応答特性や継続時間などから、同期予備力や周波数調整力には不適格なDR資源があるためである。

図2.分野別の2015/2016年度向けDR設備容量

図3. 2015/2016年度向けに登録されたDR資源の負荷削減手段

小売市場のDR

今や、DRは卸売市場において必要不可欠な存在になっているが、元来、DRは小売市場への参入から始まった。 信頼性の確保や、単に経済的な理由、またはその両方の理由から、小売り電力会社(LSE)や配電会社(EDC)はDRを利用し始めた。 州政府は、当初は消費者にDRとはどういうものか理解してもらうのが主目的のものから、実際に州内のピーク負荷削減を電力会社に経験させる切実なものまで、いろいろな目的で小売市場のDR普及促進にかかわってきた。 その他、LSEが電力調達コスト低減と電力調達不足のリスクを回避する手段として、積極的にDRを進めたり、エンドユーザ自身が、施設管理者、請負業者、コンサルタントを通じて電気代を直接管理するためDRを実施したりして現在に至っている。
The impact of DR in the wholesale market is represented in the load forecast and the way LSEs bid volume by prices in the energy markets.
※ この最後のセンテンスは、解釈に迷ったので、原文のまま記載しました。

州政府主導のDR

PJM管内のいくつかの州では、DR普及促進に向けて強力な政策がたてられている。

  • メリーランド州は、2008年4月にEmPOWER Maryland Energy Efficiency Act(EmPOWER MD)という省エネ法を制定したが、このEmPOWER MDは、2007年レベルと比較して、1人当たりの電力消費を15%、1人当たりのピーク需要を15%削減するという州全体の目標を設定したものである。 同法の施行により、メリーランド州は2015年までに州全体で年間5,475,409 MWh、2,117 MWに削減されている。 同法はまた、州規制委員会が、州内の電気事業者に対して、2007年レベルと比較して、1人当たりの電力消費を2011年までに5%、2015年までに10%削減するという要件を実施することを要求しており、同規制委員会の関係者は、2009年から2015年の間に州内の電力会社は、DRとエネルギー効率化計画に10億ドル以上を費やすと予測している。
  • ニュージャージー州公益事業委員会は、DR資源の新規・追加を促す目的で、「修正DRワーキンググループ・プログラム」を採択した。これは、2009年6月1日から2010年5月31日までの期間、商業および産業界の需要家をPJMのInterruptible Load for Reliabilityプログラム導くためのもので、この計画では、新規および追加DRに対してMW日 あたり22.50ドルの財政的インセンティブが提供される。 同法に基づいて、2009年6月1日から、CSPはニュージャージー州の商業用および工業用エンドサイトから255MWの新規または追加DRを登録していて、この255MWの増加は、ニュージャージー州の商業および産業の顧客から以前に登録された337MWのDRに比べて75%の増加となっている。そして、この増分の約90%が、翌年度経済的DRとして登録された。

小売電気事業者(LSE)のイニシアチブ

電力会社は、これまで「必要なら負荷削減に協力してもらう」という一種の「CALLオプション」を行使する権利を保持するのと引き換えに、そのような負荷削減協力してくれる需要家に対して安い料金体系を提供することで、需給バランスが保てなくなるリスクを管理してきた。
伝統的な規制料金構造の下では、これが電力会社にとって唯一のリスク管理の手段だったが、小売電力市場の自由化後は、よりフレキシブルな運用が可能となった。 すなわち、LSEは、これまでのように一律の料金表ではなく、手当て済みの電源とサービスで電力供給する場合の電力コスト/リスクプロファイルを勘案した基本料金、従量料金に加え、異なるDRの付帯契約を個々の需要家と結べるようになったのである。

  • 負荷削減できなかった場合の罰金付き割引料金契約

これ自体は以前から存在した仕組みで、この契約を結んだ需要家は、負荷削減依頼に応じられないと定められた罰金を支払わなければならない

  • 前日スポット価格連動のリアルタイム・プライシング(RTP)

これは、電力コスト管理にたけた大口需要家(工場やビルのオーナー等)が最も好むアプローチである。 電力顧客は、前日の卸売市場決済価格(LMP)で、特定の時間帯に使う/余るであろう電力を買/売することで、当日の価格変動リスクをヘッジすることができる

  • 時間帯別料金(Time-of-use:TOU)

時間帯ごとに従量料金が異なるので、顧客の電力使用パターンを低価格の時間帯に誘導することができる

  • ピークタイム・リベート(Peak-time rebate:PTR)

LSEからの要請で電力使用パターンを変更した顧客に、変更量に応じたリベートを支払うものである

  • クリティカルピーク価格(Critical-peak pricing:CPP)

これは、当日の卸売市場価格が非常に高くなる(クリティカルピーク)ことが予想される場合、その時間帯の電力価格を非常に高くすることで、その時間帯に電力を使用しないよう顧客を誘導するものである

LSEによっては、先端技術を利用して顧客がさらにうまく電力コスト管理ができるような契約を結んでいる場合がある。
例えば、1時間ごとの電力使用量の計測情報と、そのデータを分析して節電/電力コストダウンするためのソフトウェアを提供したり、スマートサーモスタットを提供したりすることで、エンドユーザが自発的に価格高騰時間帯の電力使用量を下げて節電/電力コスト削減を促すものである。

エンドユーザのDRイニシアチブ

エンドユーザは、エネルギーサービス事業者を通して間接的にDRを行なうだけでなく、自らの判断でDRを実施することもある。 ピーク電力利用に基づいて定められる基本料金コストを下げるためにオフピーク時間帯に電力使用パターン変更したり、省エネ対策を実施したりする行動がこれにあたる。

本日は以上です。

なかなか読む時間が取れないこともありましたが、実は、「小売市場のDR」の最後のセンテンスや「前日スポット価格連動のリアルタイム・プライシング(RTP)」の部分をどのように解釈すればよいかに迷い、時間がかかってしまいました。 これをお読みくださった諸兄のご意見を賜れば幸いです。

次回は、「Demand Response Strategy」のDR Service Models以降をご紹介しようと思います。

終わり