Saltburn cliff tramway and pier

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弊ブログでは、2016年4月、「MISOのDRRとDIR-その7」 および「その8」で、米国の地域送電機関の1つであるMISOが、変動型再エネの1つである風力発電を火力発電同様、発電指令で制御可能な電源(DIR)として取り扱うようにしたことをお伝えしました。

当時、MISOのサイトがドメイン制御を行っており、VPNソフトを使って一旦アメリカのサイトを経由しないと情報を入手できませんでした。それで、使っていたVPNソフトの年間ライセンスが切れた後MISOのサイトをウォッチしていなかったのですが、最近、サイトのドメイン制御が外れたようで、VPNソフトを使わなくてもサイト情報が見られるようになったのを発見しました。

そこで、MISOのDIRが今どうなっているか調べたところ、すでにDIR対象の変動型電源を風力発電だけでなく、太陽光発電にも拡大していたことが分かりましたので、今回遅ればせながらご紹介します。

#ERCOTのサイト(ercot.com)は今でもドメイン制御がかかっているので、VPN接続でないとアクセスできません。

ところで、以前MISOのDIRをご紹介してからすでに6年もたってしまいましたので、まず、現在MISOがどうなっているか、確認しておきましょう。

MISOの諸元

MISOは、設立当初、⽶国中⻄部独⽴系統運用者(Midwest ISO)の略でしたが、PJM同様、その後、系統の管轄エリアを広げていき、2012年には、米国内ばかりではなく、カナダのマニトバ州まで拡大。正式名称も「Midcontinent Independent System Operator(北米大陸中央地域独立系統運用者)」となり、現在は、西はモンタナ州から東はミシガン州、南はルイジアナ州まで米国15州(アーカンサス州、イリノイ州、インディアナ州、アイオワ州、ケンタッキー州、ルイジアナ州、ミシガン州、ミネソタ州、ミシシッピ州、ミズーリ州、モンタナ州、ノースダコタ州、サウスダコタ州、テキサス州、ウィスコンシン州)およびカナダのマニトバ州における高圧電力の発電・送電の管理と、そのMISO地域のエネルギー市場の管理を行うとともに、MISO地域の送電網の計画にも責任を持ち、管内の4,200万人の人々に電力供給を行っています。

出典:Wikipedia MISO Reliability Footprint

MISOは、56の送電事業者、134の非送電事業者を会員とする非営利組織で、正式名称中では「独立系統運用者(Independent System Operator:ISO)」となっていますが、連邦エネルギー規制委員会(FERC)からは、PJMより一足早く、2001年12月15日に、ISOよりワンランク上の米国初の地域送電機関(Regional Transmission Organization:RTO)に認定されています。

送電線の総延長は65,800 マイル(マニトバ州を含めると72,000 マイル)

MISO管内に登録された発電ユニットは6,852基

登録された風力発電の容量:29,552 MW(うち稼働中は28,646MW)

登録された太陽光発電の容量:3,368MW(うち稼働中は1,872MW)

となっており、MISO管内全体での発電容量は189,421MWで、これはPJM(185,442MW)を上回っています。

電源構成を見ると、すでに再エネが21%を占めています。

出典:MISO、Corporate Fact Sheet

また、MISOは、2005年にエネルギー市場(1日前市場とリアルタイム市場)とFTR市場(送電権取引市場)、2009年にアンシラリーサービス市場、そして2013年に容量市場を立ち上げています。


以上、MISOの現状を概観しましたので、話をDIRにもどしましょう。

MISOは、2000年代後半、風力発電の大幅な成長を前に、それまでの、系統に悪影響が出るようなら風力発電の出力抑制を行うという運用を改め、風力発電設備を「制御可能な間欠性資源(Dispatchable Intermittent Resource:DIR)とし、通信環境を含めて、MISOからの発電指令に基づいて発電できるような仕組みを導入することを義務化しました。すなわち、風力発電を特別扱いせず、火力発電と同じ発電指令により制御可能な(=dispatchable)電源とし、火力発電同様、1日前市場およびリアルタイム市場に風力発電予測値をベースとした発電量(kWh)を入札させ、MISOとしては、火力発電か風力発電か分け隔てなく、市場メカニズムに従って入札価格の安い順に調達する運用に切り替えました。

風力発電設備側からすると、それまでは通常風任せで発電し、それで系統に悪影響が出そうになるとMISOから出力抑制の指令が来ていましたが、その代わりに、毎日、翌日1時間ごとの風力発電量を予測して、それを上限として1日前市場に入札するとともに、当日も、前日の予測値より精度の高い5分毎の風力発電量を予測して、リアルタイム市場ですでに落札している予測発電量との差分を入札。落札できた分に関しては、MISOから発電指令が届くので、発電指令が届いた時間帯のみ発電してよいという風に運用が様変わりました。

そして、今回MISOのサイトを調べたところ、2020年3月より、DIRの対象を、風力発電だけでなく、太陽光発電まで拡大させていたのです。

以下では、その経緯を、順を追ってご紹介したいと思います。

■ 太陽光発電をDIRとして取り扱う検討の開始

2019年9月12日公開されたMISOの資料「Solar as Dispatchable Intermittent Resource」では、以下のような説明が行われています。

◆ MISO管内では、今後数年のうちに、太陽光発電が大幅に増加する

現在、新たに系統接続されたか、もしくは系統接続手続きがほぼ完了しているMISO管内の太陽光発電設備は9GW強に過ぎないが、更に52GW分の系統接続のバックログがある。

◆ MISOは、このまま太陽光発電設備を系統接続していくと、2010年に風力発電のDIRを申請した時と同じような課題(太陽光発電の出力抑制の運用が立ち行かなくなる)が発生すると考えている

※「Time to ACT」のグラフの赤の棒グラフの推移を見ればわかるように、今後太陽光発電の系統接続が増大していくので、太陽光発電のDIR移行を考えるなら「今でしょ(Time to ACT)」という訳ですね。

◆ そこで、MISOは、今後太陽光発電設備も風力発電設備同様DIRとして登録することを義務付けることを提案したい

◆ 太陽光発電設備も風力発電設備同様DIRとして運用することで、系統運用における信頼性の向上、市場効率向上および価格透明性が担保できる

MISOでは、2010年の風力発電設備のDIRへの移行が成功しており、また、サウスウェスト・パワープール(SPP:MISOの西側に隣接する地域送電機関)が提出した同様のルール変更について連邦エネルギー規制委員会(FERC)が承認した

◆ 移行措置

風力発電へのDIR対応同様、太陽光発電のDIR対応にも2年間の移行期間を想定していて、

  • 2020年3月15日時点ですでに稼働中の太陽光発電に関しては、DIR登録の必要はないが、登録してもよい
  • 2020年3月15日までにGIA(Generator Interconnection Agreement)を締結している太陽光発電設備は、DIR登録対象で、2年間のうちに(2022年3月15日までに)DIR登録を行う必要がある
  • 2020年3月15日時点でまだGIA(Generator Interconnection Agreement)を締結していない太陽光発電設備は、MISOからの発電指令で制御可能な電源となるための通信設備要件を満たし、DIRとして登録する必要がある

◆ その後のスケジュール

9月26日まで意見を募集し、2019年11月に提案を確定して、翌月のルール改訂を目指している


このMISOの提案に対して寄せられた、賛成意見5件、質問2件、懸念を表明する意見2件は「Solar DIR Project Update」として公表されていますが、MISOは、それを踏まえて、2019年12月13日、太陽光発電のDIR対応に関するルール改訂をFERCに申請(Docket No. ER20-595-000)。FERCは翌2020年6月9日、太陽光発電もDIR対応とするルール変更をMISOの申請通り2020年3月15日にさかのぼって承認しています。

では、その後、風力発電及び太陽光発電のDIRはうまく機能しているのか気になるところですね。

そこで、MISOの市場監視機関であるPotomac Economicsの2021年度の年次報告「2021 STATE OF THE MARKET REPORT FOR THE MISO ELECTRICITY MARKET」でDIRに関する記述を探してみました。

太陽光発電のDIRに関しては、まだ記述がありませんでしたが、風力発電に関しては、以下のような記述がありました。

P22 – Transmission Congestion Caused by Wind.

In addition to the issues caused by the volatility of wind output, the concentration of wind resources in the western areas of MISO’s system has created growing network congestion in some periods that can be difficult to manage. MISO’s Dispatchable Intermittent Resource (DIR) type has been essential in allowing MISO to manage congestion caused by wind output. DIR participation by wind resources increases MISO’s control over wind resources by allowing them to be dispatchable (i.e., to respond economically to dispatch instructions).

 P25 – B. The Evolution of the MISO Markets to Satisfy MISO’s Reliability Imperative MISO has managed the growth in intermittent resources reliably. <途中省略> MISO’s markets are robust and are fundamentally well-suited to accommodate the transition in MISO’s generating fleet, although a number of incremental improvements will be needed. MISO has already begun the process of making necessary changes to accommodate higher levels of intermittent resources, including:

• Introducing a ramp product to increase the dispatch flexibility of the system;

Developing the DIR capability to improve its ability to control its wind resources;

• Improving its wind forecasting and incentivizing participants to use MISO’s forecasts;

• Modifying its settlement rules to improve generators’ incentives to follow dispatch instructions; and

• Proposing reforms to capacity accreditation so that resource capacity credits under Module E match reliability values.

風力発電過多による送電線混雑問題解消にDIR設備が役立っているとありますが、送電線混雑のために市場分断が起き、分断が起きるエリアの約定価格が低くなることで、DIRの風力発電には発電指令が出なくなる→そのエリアの風力発電が抑制されるという感じでしょうか?

また、より高次元のDIR利用のために必要な変更の検討開始とは、例えば風力発電設備に蓄電池を追加したHybrid Systemにすることで、これまで1日前市場とリアルタイム市場というkWh市場と容量市場にしか参入できなかったDIRをアンシラリーサービス市場にも参加できるようにするための検討を示唆しているものではないかと思われます。

p73 – S. Wind Generation

Wind generation in MISO has grown steadily since the start of the markets in 2005. Although wind generation promises substantial environmental benefit, the output of these resources is intermittent and, as such, presents unique operational and scheduling challenges. Over 90 percent of MISO’s wind units are Dispatchable Intermittent Resources (DIR). DIRs are physically capable of responding to dispatch instructions and can, therefore, set the real-time energy price. DIRs can submit offers in the day-ahead market, are eligible for all uplift payments, and are subject to all typical operating requirements. For both DIR and non-DIR wind units, MISO utilizes short and long-term forecasts to make assumptions about wind output. The prevalence of DIRs allows MISO to rarely utilize manual curtailments to ensure reliability. Wind resources are also qualified to sell capacity under Module E of the Tariff based on their contribution to satisfying MISO’s planning requirements.

これを見ると、現在MISO管内の風力発電設備の90%以上がすでにDIRということで、風力発電に関するDIRの仕組みはしっかり定着していることが確認できました。

以上、MISOにおけるDIRのその後の状況に関してご紹介しました。

終わり