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2022年10月1日からはじまったPJM予備力市場制度変更に関する調査の続きです。

前回、その5では、PJMマニュアルNo.11「Energy & Ancillary Services Market Operations」から、最終的に予備力需要曲線(Reserve Demand Curve)とペナルティ係数の考え方がどうなっているかについてお知らせしました。今回は、引き続き、PJMマニュアルNo.11の章立てに沿って、今回の制度変更の結果、PJMの予備力市場がどうなったのか、確認したいと思います。

これまで、PJMというとアンシラリーサービス市場および容量市場に関する「お手本」の感が強く、実はPJMの市場全体に目を通せていなかったのですが、予備力市場制度変更に関連して、理解が必要でしたので、まずマニュアルM11のエネルギー市場全般に関して書かれた部分を見直しました。以下、抜粋して説明します。
(例によって、飛ばし読み&超訳ですので、怪しいと思われた方は原文をお読みいただいて、間違いがあればご指摘いただければ幸いです)


  • Day-Ahead Energy Market(DAEM)は、発電オファー、需要ビッド等に基づいて、翌営業日の各時間帯の清算価格が算出される市場(forward market)です
  • DAEMでは、参加者はDay-ahead LMP(DA-LMP)でエネルギーを売買することができます
  • 容量市場(RPM)または相対契約で翌日の電源提供のコミットメントを持つ発電事業者は、定検等で停止予定の場合でも、DAEMに入札しなければなりません
  • その他の(翌日の電源提供のコミットメントがない)発電事業者も、DAEMに入札することができます
  • 買い入札者は、需要ビッドとして翌日の1時間ごとの需要量を提出するが、入札にはMW値と場所(送電ゾーン等)を指定します(送電ロス分は考えなくてもよい)
  • 売り入札者は、発電オファーとして、翌日1時間ごとの発電スケジュール(Generating Unit Schedule)を提出します
  • 発電スケジュールには、スケジュールタイプ、運転制約、燃料タイプ、オファーデータ等を指定します
    • 1) スケジュールタイプには、以下の3種類があります
      • ①Cost-based schedule:ユニット起動費、最低出⼒コスト、限界費⽤カーブの3つを指定、②Price-based Parameter Limited Schedule (Non-PLS):オファーデータのみ指定、③Price-based Parameter Limited schedule (PLS):オファーデータと運転制約を指定
      2) 運用制約1(MW operating limits)には、以下を指定します
      • ①Emergency Max、②Economic Max、③Economic Min、④Emergency Min
      3) 運用制約2(Constraint Data)には、以下を指定します
      • ①Minimum Downtime、②Minimum Runtime、③Maximum Weekly Starts、④Maximum Runtime 、⑤Maximum Daily Starts、⑥Maximum Weekly Energy
      4) 燃料タイプには、以下を指定します
      • ①Energy Fuel Type、②Startup Fuel Type
    • 5) オファーデータには、1時間ごとに1つ以上の価格/MWの組み合わせを指定します
  • PJMは、DAEMのゲートクローズ(11:00am)後、翌日各時間のスケジュールとDA-LMPを算出します
  • デイ・アヘッド市場で受け入れられた発電機のオファーは、その後の更新で上書きされない限り、自動的にリアルタイム市場に引き継がれます
  • 前日市場で選択されなかった発電機は、再入札期間中にセルフスケジュールを選択することができます

※ なぜこの部分を調べたかというと、マニュアルM11の4.2.3 Reserve Market Resource Offer Structureに「エネルギーオファーを提出した、予備力を提供する資格を持つ全ての発電資源は、予備力市場にもオファーが提供されたものとして考慮される。ただし、水力発電や蓄電池を予備力市場に提供する場合は、ここに入札することが必要である。All generation resources that have submitted energy offers and are eligible to provide reserves, as defined in Section 4.2.1 above, will be considered as offered into the Reserve markets. This excludes hydropower resources and Energy Storage Resources who must submit specific Reserve offers to be considered.」とあったからです。

出典:PJM M11、「4.2.3 Reserve Market Resource Offer Structure」

この表に示されているように、ESR(Energy Storage Resource)と水力発電、DR資源に関しては、アンシラリーサービス市場への入札データとして、Synchronized Reserve(SR)Data、Secondary Reserve(SecR)Dataをあらかじめ登録する必要がありますが、火力発電や原子力発電などそれ以外の電源は、エネルギー市場に売り入札者が提出する発電スケジュールのオファーデータが、そのままSR、NSRおよびSecRアンシラリーサービス市場のオファーとみなされるということですね。

従来は、ある電源が上記の発電スケジュールの運転制約1のEconomic Maxで稼働しているタイミングでSynchronized Reserveが必要となった場合、PJMはEmergency Max > Economic Maxならば、その電源をTier1電源として、優先的に採用しようとしますが、電源側はPJMの要望に応えても答えなくてもよかったわけですが、10月1日以降は、これまでのTier2電源同様、PJMからSynchronized Reserve調達のためにディスパッチ指令が出た場合、それに応じないと従来のTier2電源同様ペナルティが課せられるようになったということですね。

で、まずは1日前市場とリアルタイム市場のゲートクローズ後、PJMは、翌日分として提出された発電スケジュールのうち、運転制約1のEconomic Maxが最大のものを探し出し、その電源が停止した場合をその5で説明したLargest Single Contingencyとして予備力需要曲線(Reserve Demand Curve)を描き、予備力調達を行って、1日前市場での市場価格が決定します。

ここまで来て、やっとPJMが提案したORDCのロジックが否定されたのか理由が分かった気がします。

PJMでは、新たに提案した4シーズンごと×6時間帯ごと×3予備力ごと×2ゾーンごとに作成したORDCを1日前市場での予備力調達とリアルタイム市場での予備力調達で共通して使用するとしていました。しかし、1日前の11時のゲートクローズ直後と、当日リアルタイム市場で予備力調達しなければならなくなった時点では、例えばエネルギー市場で落札され当日稼働しているはずの最大設備容量の電源が停止してしまっているかもしれません。その場合、発電事業者は65分前までに提供可能なMW(Offer MW)値を0にすることができますが、これはリアルタイム市場で次の5分間のエネルギーとアンシラリーサービス調達を同時最適化する時点で、1日前と「Largest Single Contingency」対象電源が変更されたことになり、より現実に即した予備力需要曲線を用いてリアルタイム市場での予備力調達が行われることを意味します。

もっと言うと、PJMの提唱していたORDCでは6時間帯/日のバリエーションがありますが、エネルギーオファーは1時間ごとなので、Largest Single ContingencyとなるEconomic Maxを持つ電源は1時間ごとに違う可能性があり、1つの予備力調達ごとに、予備力需要曲線は1日前市場では最大24のバリエーションを持つ可能性があり、リアルタイム市場では5分毎に異なる可能性があるので24×12(60/5)=288のバリエーションを持ちうることになります。

まあ、実際にはそれほどではないでしょうが、こう考えると、現行の予備力需要曲線は、PJMが提案したORDCよりよさそうにも思えます。

ただ、昨今の燃料費高騰などを考えると、ペナルティ価格である$850/MWhで予備力不足分を供出させた発電事業者に対して、Cost-baseで算出した「必要経費」を後払いするのは、予備力市場構造の見通しを悪くするので、ペナルティ価格をCost-baseの実勢価格に合わせようとしたPJMの考え方自体は間違っていないとも思っています。

なお、先の表中Resource Type:Wind/Solar/Nuclearですが、風力・太陽光・原発も、すべてエネルギーオファーをすれば予備力調達対象となるわけではなく、あらかじめ電源ごとに審査を受けて、予備力を提供する資格があると認定されたものだけが予備力調達対象となるようです。Resource Type:Load Responseは、DR資源で、基本的には1分ごとのメータデータの提出が求められます。

また、表中のCondensersですが、(業界の方は先刻ご承知とは思いますが)電気回路で使われる部品ではなく、いわゆる同期調相機のようなもので、PJMのオープンアクセス送電料金表(OATT: Open Access Transmission Tariff)では、「Schedule 2 Reactive Supply and Voltage Control from Generation or Other Sources Service」として定義し、無効電力調達と電圧制御サービスの調達が行われているようです。

話は戻りますが、売り入札の場合の発電オファーに関して、発電スケジュールのオファーデータに関して調べると、少し複雑になっています。

この表から見ると、ESRとDR資源はNon-Synchronized Reserve市場に明示的に入札することができません。更に不可思議なのは、通常火力や風力・太陽光・原発に関してはオファーMWをPJMが「計算する」としています。これはどういうことか、以下のようにPJM資料「Reserve Price Formation:Implementation」で説明されていました。

例えば、現在200MWで稼働中(STATUS:Online 200MW)の電源ユニットAが、どれくらい予備力を提供できるかは、ECOMAXと現在の稼働値の差分と、RAMP RATE(5MW/Min)での10分後及び30分後の出力の増分の小さい方をとるということです。

次にオファー価格に関しても、以下の説明があります。

PJMマニュアルM11の説明によると、オファー価格が適用されるのは、Synchronized Reserveのみで、Non-Synchronized ReserveおよびSecondary Reserveのオファー価格は$0/MWhが仮定されているようです。

長くなってきたので、今回はここまでとします。

 

終わり